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浜松で、設計者のCAE活用について議論してきたCADイベントレビュー(1/2 ページ)

解析初心者も熟練者も、大学教授もメーカーの技術者も……。さまざまな立場の人たちが、設計現場のCAEについて議論するイベントが催された。

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※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

設計現場のCAE活用について

 ここ数年、「設計者がCAEを活用していこう」という機運が高まっているようですね。どのベンダーさんたちも盛んにCAEのメリットを前面に出し、またちょっと昔では考えられなかったような高度な解析の機能が、CADに組み込まれ普段使っているユーザーインタフェースとはそれほど違和感のない形で使えるようになってきています。

 しかし……やっぱり「ハードルが高いな」って声もなくなっていませんね。

 昔、非線形の解析ソフトのエンジニアをやっていた身としては、いつも残念な気がしていました。何せ、苦労してモデルを単純化し、メッシュで苦労し、計算が収束せずに苦労し……といった当時の手順が、今ではすごく簡単になっているのです。

 つまり、解析モデルの構築に苦労せずに済み、うまくやれば本当に「設計の検証」という目的に使うことができるようになっています。

 もちろん、安直に解析して、その結果をうのみにすることへの危険性もありますが、まずそんな心配をするよりは、「せっかく手元にある機能なんだから、使ってみようよ!」と思うわけであります。

 そんな流れもあって、「CAEを電卓代わりに使う!」ということをコンセプトに本も書きました注1。おかげさまでぼちぼちと「読みましたよ」という声もいただいて、ちょっとほっとしています。

注1:「SolidWorksでできる設計者CAE」(日刊工業新聞社刊)


解析ではこの手のフォーラムってあまりなかったような

 そして、私の本がきっかけとなったのか、CADベンダー ソリッドワークス・ジャパンが主催するCAE関連のイベント「設計検証ディスカッションフォーラム in 浜松」(2012年5月11日開催)にパネラーとして招いていただく機会がありました。本当にありがたいことです。

 今回、主催側も「解析」を題材に、“小人数で”“中身の濃い”ディスカッションをするイベントは初めてのようで、特に気合いが入っていたようです。

 当初は、普通にパネラーとして参加して、「それでメデタシ!」という形で考えていたのですが、イベントが進むうちに、「こんな取り組みがもっとあちこちで起こってほしい!」という気持ちになり、今回記事としてまとめることにしたのです。

 このイベントのサブタイトルは、「コミュニティの力で気づく明日へのヒント」(表記ママ)となっていました。

 講師が一方的に情報を提供するのではなく、初心者からエキスパートまで、さまざまなスキルの方が集まった上で、「現実の現象をいかに解析していったらいいのか」ということを「インタラクティブにコミュニケートしていく場」である、というように私は理解しました。

 今までのCAEのセミナーは、ベンダー側から情報を提供するといったものが中心でした。解析者同士のコミュニティーもあるにはあったと思います。しかし、どちらかというと、経験者が中心であったのではないでしょうか。

 今回のフォーラムの参加者は、講師が3人、一般参加者が12人(「一般」といっても通常のセミナーよりもっと積極的な感じです)の合計15人という小規模なものでした。でも、この手のイベントには、このくらいの人数がちょうどよさそうですね。

 日本大学 生産工学部 機械工学科の高橋進教授と、オムロン グローバルプロセス革新本部 生産プロセス革新センタの岡田浩氏による講演2本が行われた後、講演されたお二方と私を交え、“ワイワイガヤガヤ”とパネルディスカッションをしました。

 ちなみに岡田氏は、MONOistでも記事を書いている山田学氏らと共著で本注2も出されています。

注2:「設計検討って、どないすんねん! ―現場設計者が教える仮説検証型設計のポイント」(日刊工業新聞社)


編集部注:今回は会場の写真紹介を控えています。またパネルディスカッション部についても、紹介の許可が得られていない参加者さんが特定されやすい内容の紹介もなるべく控えています。



まずは、CAEのエキスパートたちのお話を

 ディスカッションの模様を紹介するにあたって、2本の講演の内容についても、少し触れておきましょう。

 高橋先生は、もともと日産自動車にいらっしゃいました。なので、大手自動車会社におけるCAEの活用の現場についても、詳しいお話が聞けました。さらに大学の先生ということで、産学連携の意義について、かつて産業界にいた立場からお話がありました。

 現在の自動車の開発は、年々高度化する安全性への要求、また高度化していくさまざまな素材を使っていくことに効率的に対応していかなければならない生産現場があるわけですが、そんな観点から生産準備におけるシミュレーションの適用についてのお話がありました。

 現在自動車のボディの成形ということで解析が果たす役割の大きなところとして、「開発期間の短縮」と「車両の軽量化」があります。

 開発期間の短縮は、具体的に言えば、「成形性に起因した部品形状変更の削減」や「金型修正工数の削減」といったことがあげられるわけですね。これを開発の初期にやってしまうことが重要になってくるようです。

 そういえば、かつて私も曲面編集が得意な某CADのベンダーにいた時分に、ある金型のお客さまとの話の中で、そのCADが持つ曲面の編集機能と解析をうまく組み合わせることで、現場合わせでの金型修正が大幅に減ったということを聞いたことがありました――「きっとそういうことかな?」などと想像をしながら、高橋先生のお話を聴講しました。

実験とシミュレーションの精度の向上

 この後に、「デジタルデータを使った生産試作」など、興味深い話はまだまだ続いたのですが、その分だけでも1本記事が書けてしまいそうです。ということで、今回はその詳細を割愛して泣く泣く先へ進みたいと思いますが、1つだけ紹介しておきましょう。

 「部品の開発期間を短縮するためには、部品設計でのシミュレーションを活用することが有効だ」ということですが、やみくもに解析をしても仕方がありません。そこで「シミュレーション精度の向上」ということが求められるわけです。

 なるほど……、これは納得です。でも、「どうやってシミュレーション精度の向上をしたらよいのか」ということが問題なのですよね。

 そこで必要となるのが「モノづくりにおける成形メカニズムの把握」ということになります。シミュレーションは結局、「“実現象を”シミュレート」できないと仕方がないわけなので、そのメカニズムを知ることが必要ということです。そのためには、実験して計測し、データを集めなければならないわけですね。

 しかしながら、ここが問題になることもあります。特に中小企業の場合には、必要な実験設備や装置がそろっていないこともあるでしょう。そんなときに活用できるのが、各都道府県にある産業技術研究所や、高橋先生も在籍する大学なのです。このあたりは、もっと私たちが活用すべきところではないでしょうか。

産業技術研究所や教育機関を活用する

 ご存じの方はご存じかもしれませんが、産業技術研究所やそれに類する組織には、さまざまな測定器や工作機械、そして3次元プリンタなども装備されています。また、このような施設は、何よりも地域の中小企業の支援の意味もあり、中小企業なら「破格」の費用で使うことができます。そういえば、以前私が取材した会社でも、「すぐ近くのセンターに駆け込んで3次元プリンタをかなり使った」という話をしていましたね。

 より高度な研究も含めたことが必要な場合には大学が有効なようです。大学の先生はいろいろなネットワークを持っています。その先生が専門ではないことでも、学内外の知り合いを当たってくれることがあります。ですから、必要な人や組織にたどりつくことが比較的容易なのです。

 水野も先日、ある大学の先生に、学内にある専門の先生がいないかどうか尋ねたところ、残念ながらいないとの回答でした。でも、他の大学にいる知り合いの先生にまで連絡してくださいました。大学には高橋先生のように産業界出身の先生もいるので、そのような先生とつながれば、産業界の現場のニーズを理解してもらった上での協業ができそうです。

 もし、「個人的に知っている人がいない」といった場合でも、大学には産学連携の窓口となる事務所があります。大学も、昨今かなり充実した設備があります。先日、訪問した大学も、私が見慣れている3次元プリンタだけでなく、うらやましくなるような設備(工作機械など)がいろいろありました。大学と協業すれば、その設備も利用可能なのです。

 すかさず参加者から「費用はどんなでしょう?」という質問が飛びました。

 高橋先生によれば、「要相談」とのこと。「費用はこれくらいなんだけど……」という相談にも応じるし、大学の先生にとって新たな論文を書くためのネタになるのであれば、なお協力的になるでしょうとのことでした。まあ、「相手の立場をおもんばかることが大事」なのは、相手が企業だろうと大学だろうと同じことですね。

どうやったらCAEは定着するのか?

 オムロンの岡田氏の講演にも、「CAEをモノづくり現場でどのように生かすか」というお話がありました。講演後、「“古い設計者”にどうやってCAEを使ってもらえばよいか?」という参加者から質問に対する回答はなかなか面白かったです。

 岡田氏の最初の答えは「半分諦める」でした(笑)。

 実際、多くの参加者の笑いを誘っていましたが。でも、真面目な話として「若い技術者と経験のある技術者を“セットで生かす”」ということもしているようですね。

 やっぱり若い人たちのCAEへのハードルは低い一方、本来の設計に関する知識や技量は不足しています。それをベテラン技術者が補い、伝えていくというやり方は有効でしょう。

 あと、岡田氏の講演で印象に残ったのは、「不況のときにこそ、教育をする」ということでしょうか。好況時には事業部は忙しく、じっくり教育ができません。なので、好況時よりは時間がある不況の時期こそ、教育のチャンスというわけですね。また解析ツールを、単に「解析ツール」として使うのでなく、一歩進んで「技術者の教育ツール」としても活用するということも定着への手段の1つのようでした。

実験だけでもなく解析だけでもなく両方を追求しよう

 ところで、もう1つ言われてみれば確かにそうだけど、ちょっと“目からウロコ”だったのが、解析と実測の関係について。解析の話題でよく出てくるのが、「解析結果が実験結果と合わない」ということです。昔、私が解析業務に携わっていたときにも日常的に出てきた話題でした。

 そんなとき、なぜか「追求すべきは、解析」という無意識のバイアスが掛かっていることも少なくない気がしました。でも岡田氏は、「解析値だけではなくて、実績値の方も追い込みましょう」ということを話していました。

 実際に、きちんと見ていれば「この実験値っておかしくない?」ということで見直してみると、「計測する方に問題があった」というケースもあります。つまり、「必ず“両方”見る」ことが必要ということですね。岡田氏によれば「『これは明らかにウソやろ?』という実験結果が示されているようなときには、絶対に引きません」ということでした。

 このあたりについては、後のパネルディスカッションの際にも話題になりましたが、ともかく解析か実測かにかかわらず、「問題を追求する際は、無意識に自分が“何らかのバイアス”を掛けていないか」注意を払うことが大事ですね。

 そうそう、岡田氏のセッションの最後に、「ぜひこの本は読むべき参考図書ですよ」という書籍を何冊か紹介してくださったのですが、私の著書もそのうちの1冊として紹介されていました。しかも、購入もしていただいたとのこと。そのときは純粋に、うれしかったです。「岡田さん、ありがとうございます!」

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