コマ作ってるだけじゃないんです! 由紀精密が元気な理由:この町工場が元気な理由(3/3 ページ)
元気な中小企業には元気な理由がもちろんある。CI、新規業界への参入、町工場でもできるITカイゼンなどで、いまの元気な由紀精密を作った1人にみっちりとお話を聞いた。
少品種大量生産から多品種少量生産への対応:お客さんが変わった
由紀精密の取引状況に変化が始まったのは、ちょうどその直後のことだった。
2000年頃までは電子・電機業界の取引に支えられ、安定していた経営状況が大きく変わったのだ。
「そのころまでの売り上げの80%は電子・電気系メーカー2社からの受注でした。残りの20%もその2社に関連した企業からの受注だったのです」
由紀精密の場合、注文の小口化、設計時の素材選定の変化の影響が大きかった。
「以前は大ロットでドカンと受注があったのですが、小口の注文になっていったのです。電子機器の小型化や電子化、樹脂部品の増加もあり、機構系の切削加工部品ニーズそのものも減少しました」
エレクトロニクス製品の中で同社が提供するような機構系の部品が減ってきたことを契機に、同社の受注状況は大きく変化していった。
「もう以前のように大手メーカーのぶら下がりでは生き残れない、と考え、他の業界へのアプローチも進めました。いずれにしても、どの業界も小ロットのオーダーが多く、従来よりも管理コストが掛かるようになってきました」
と同時にRoHS指令などに対応するために、材料管理やトレーサビリティに関する要求が以前と比べて圧倒的に厳しくなった。
従来は完全に紙ベースでざっくりと管理していたものが、どの納入品はどこからいつ仕入れた部材か、を問われるようになった。生産管理システムを大きく変える必要が出てきた。
由紀精密の場合、発注元の要求に対応しながら自前でシステム化を進めることになったのだ。
対応するだけじゃなくて仲間のサポートも
「対応しなければ取引できませんからね」。笠原氏の言うことは至極当然に聞こえるが、意外とそうではない。
発注元の要求なのだから多くの企業が同様に対応しているだろうと思うが、意外なこぼれ話がある。
今後、航空宇宙防衛系の業界ではJIS Q 9100の認証取得が必須といわれている。JIS Q 9100はいままでの環境法規制への対応よりもより厳密な情報管理を要求される。どこから仕入れたどの材料で、どのような加工を施したかを、個々の部品別にトレースできなければならないのだ。航空宇宙防衛業界を相手にする部品メーカーにとっては取得すべき認証に思われる。
ところが、別で取材したある航空宇宙防衛系の産業にかかわるメーカーでは、この認証を取得しない、という判断をしている。
これについて笠原氏は、「JIS Q 9100に限っていえばそういう判断もあるかもしれません。実はわれわれ部品サプライヤにとって、航空機などの受注ロット数は年間でもそれほど多くないのです」という見解を示してくれた。
最近ではMRJや、ホンダ・ジェットなどの「リージョナルジェット」の受注合戦が話題になっているが、1機当たり数点しか使わないシンプルな部品に関していえば、受注数×数点のオーダーでしかない。
先のコマ大戦で話題になったコマが既に3000以上のオーダーを受けているのと比較しても数量は多くないそうだ。他のメーカーが航空宇宙防衛業界の要求への対応を進めないという判断も、事業としてはそれほど問題のあることではないのだろう。
「恐らく、こうした難しそうな要求に対して、町工場がどうやって対処したらいいのか、何から手をつけたら良いのかが分からないでしょうし、また、とんでもなく大きな投資が必要なように見えるのではないでしょうか?」
それでも、笠原氏らはJIS Q9100の取得に挑んだ。JIS Q 9100の要求に対応するには、過去に積み上げた管理の仕組みを延伸すれば可能であるとの読みがあった。笠原氏のIT業界での経験がここで生きたことになる。
笠原氏は自身が由紀精密で実現したJIS Q 9100取得のノウハウを、同様の事業規模でJIS Q 9100取得対応に苦慮している町工場に指導する業務もスタートしている。
「要求を見ると非常に難解な印象を受けるのですが、実は、部品メーカー側としてやるべきことは事前に考えていたよりも簡単で、低コストで実現できるんです。でも、それもやったことがなければ分からないはずです」
トレーサビリティが確立していることや信頼性を証明する上でも、航空宇宙防衛産業界への納入実績というのは、売り上げ以上の価値があるのかもしれない。
「ITカイゼン」西岡教授との出会い
そこで出会ったのが、法政大学デザイン工学研究科 西岡靖之教授らが推進する製造業の「ITカイゼン」だ。そもそも西岡氏との出会い自体も、笠原氏ら若手が主導して進めた巧妙な戦略があってのことだった。
次回は、由紀精密のCI戦略の「スゴい」ところと、ITカイゼンの取り組みを紹介する。
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