中小企業が中国進出するときの必勝法/怪しい話を見分けるコツ:上海総経理のつぶや記(4)
広大な国土に翻弄され、怪しい商人がうまい話を持ちかけてきて……!? 筆者が経験から導き出した中小企業の中国進出必勝法とは?
進出済み中小企業は販路構築に苦戦している
先日、当社はJETRO上海の調査インタビューを受けました。「中小企業の中国進出のための調査」という名目で、情報関係の会社としては当社が初めてという話でした。確かに最近は、日本政府の肝いりで「皆で渡れば怖くない」式の中小製造業のための集団開発区が設立されたり、震災後、当社にも同じIT会社で中国への市場調査という形で例年の3倍の来訪者がありました。
当社のようなソフトウェア製品の開発会社は資産といっても人とパソコンのみ、事務所を借りて開業すれば、比較的容易に撤退もできますが、生産設備や工場を持つ製造業であれば進出の決断は簡単ではないでしょう。
JETROの方にインタビューを受ける中、後半はこちらからの逆インタビューのような形になりました。「私たちのお客さまでもある日本の製造業は、現在中国でどんなことに困られていますか?」との問いに、JETROの調査員の方は「既に進出済みの製造業では、製品の中国市場内部販売に向けて販売経路の確立に苦労されている」という回答でした。
確かに当社も中国で製品を売るために、価格はどうしようか? 広い中国で自社だけで販売するわけにはいかず誰に売ってもらうべきか? 中国の企業に製品を販売して代金回収は大丈夫か? コピー製品はでないか? など試行錯誤してきました。
経験から出た中国進出必勝法
当社も日本本社の人材をあわせても30名程度の、まさに中小企業です。その立場から中小企業の製造業の皆さんが中国進出する際に必ず覚えておいてほしいことは次の3点です。
1)製品もしくは技術においてナンバーワンであること 少なくとも、当社製品はテクノシステムリサーチの調査では、生産スケジューラ国内市場シェア No.1(2010〜2011年 テクノシステムリサーチ調べ)です。このように実績として明確な数字があることが信頼となります。明確なセールスポイントが見えることが重要です。
2)中国におけるビジネス確立までには時間がかかるので、日本からの支援があること 当社中国の日系製造業の顧客は100社を超えましたが、そのうち約80%が当社製品の日本でのユーザーでした。
3)中国民営の企業との取引は、信用のおける中国のパートナーに任せること 中国国内の製造業での顧客が50社を超えました。これらは全て中国の代理店に売ってもらっています。
細部の戦術までとなると紙幅を超えてしまいますが、大きくは上記3つがポイントとなるでしょう。
今回、中国政府からの駐在者への社会保険支払の厳正な適用法制が敷かれたこともあり、中国現法人では、日本人の駐在者が帰国し、大幅に現地化が進んでいます(当社上海法人の総経理も2012年から、日本国籍の筆者に代わり中国籍のものがその職に就いています)。こうしたことを踏まえ、以降で詳細をご紹介します。
文化風土に即したマーケティングの実施
中国人は“メンツ”を重視する文化が強いためか、皆ブランド好きな傾向があります。また、中国は狭い日本で育った者には想像もできないくらい大きな国土です。この中で、中小企業は、大手企業のように多額の宣伝広告費用を利用して、製品ブランドを市場に認知していただくことはできません。
当社の実行した戦略は次の通りです。
1)当社顧客の多くは開発区に拠点を構えており、日系の企業が多くあります。そこで開発区でよく見られるフリーペーパーに宣伝を掲載して認知を深めました
2)当社の販売代理店に、大手メーカー子会社のシステム会社があります。中国でもよく知られたメーカー名であることから、彼らのブランドを借りて共同でセミナーを実施する。当社はこれを「コバンザメ戦術」と呼んでいます
3)中国系の企業顧客は広い国土に数限りなく存在します。それぞれに直接リーチするのは大変な労力が掛かります。中国の製造系のITポータルサイトと契約し、宣伝をお願いしたり、彼らが設定している中国でのソフトウェア製品の表彰式で表彰を受け、製品の格を上げるようにしました
怪しい話を見分けるコツ
このほか、中国では「大学教授と称する人物が製品を宣伝してあげる。そのためには前金が欲しい」などとの誘いがあったり、「政府系の方に多くコネクションがあるので製品を推薦してあげる」などの申し出が数多くあります。全てがコミッション目当てのものですが、成果報酬ではなく前金方式というあたりは信用できません。
「やってみなければ分からない。もしかして……」という誘惑は常にあります。実際にだまされたこともありました。経験からいえば、
1)同業他社に聞いてみて評判の悪い業者は使わない
2)過去の実績・事例については実際の事例先を訪問して確認する
3)完全成果方式は無理でも、手付金は一部しか渡さない
などの“フェイルセーフ”的な対策がお勧めです。
現在の日本市場の状況、取引先である大手企業の進出、大きな潜在市場からすれば、中小企業の製造業の皆さんも中国進出は1つの選択肢であることは確かだと思います。当社の経験が皆さんのご参考になればと思います。
著者略歴
アスプローバ株式会社
上海総経理 藤井賢一郎(ふじい けんいちろう)
日本の半導体工場にて製造管理システムを構築。ユーザーSEの経験を生かして、生産管理パッケージソフトウェアの営業として、一貫して製造業のお客さまに基幹システムを提案。Asprovaでは、パートナーのコンサルタント営業時代に、日本・中国を含む300社のお客さまに生産スケジューラを導入した経験を持つ。
海外の現地法人は? アジアの市場の動向は?:「海外生産」コーナー
大手だけでなく、独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.