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「超カッケー!」チタン製“逆さゴマ”が回る仕組みテクニカルショウヨコハマ 2012 レポート(3)(2/3 ページ)

「おちむら金属」はチタンと職人の技術力を惜しみなく使ってコマ開発。ほかにもマシニング加工だけ、放電加工だけで作ったコマなど登場。

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「おち」の部分と逆さゴマ

 今回のコマ大戦では上位に行くにつれて、安定して回る“大人しく、あまり喧嘩(けんか)しないコマ”が目立ったが、前ページで紹介したチーム義貞のように、対戦のスパイスとなる「純・喧嘩ゴマ」タイプがもっと登場することで、コマ大戦はより白熱する。

 そのスパイス的役割を担ったチームがもう1つ。「おちむら金属」のチタン製逆さゴマだ。結果は振るわなかったものの、その「カッコイイ」挙動に、対戦を見守る人たちの注目が集まった。


 「おちむら金属」は、金型設計業のモールドテック 代表取締役の“落”合孝明氏と、福井県の金属加工業 西“村”金属の連合チームだ。

 西村金属は、チタン精密部品加工専門。そんな同社の特技をアピールするためにも、「チタン製」は譲れないポイントだった。チタンは比重が小さく、しかも硬くて削りづらい。コマ製作には不利な条件だが、それで勝つことこそが、同社のプライドだった。

 そして本来は、落合氏が設計し、西村金属が製造を担当する……はずだった。落合氏は、差し迫った業務の都合でコマ開発を途中から西村金属に完全に預けることに。落合氏は当日、本戦には参加せず、コスプレして“落守いのすけ”として行司を務めた。いま思えば、設計を西村金属に預けてしまった罰だったのか、どうかは定かではない。

 さて残念ながらうまく回らず、西村金属に没にされてしまった(!?)という落合氏のコマの構想は、以下。

 落合氏はベテラン金型設計者だが、コマの設計となると少々勝手がちょっと違った。しかも、普通のコマではなく、逆さゴマ。同氏の設計したコマがうまく回らなかった理由について、西村金属 常務取締役 西村昭宏氏はこのように説明する。

「落合さんのコマの重心設計自体は問題ありませんでした。しかし逆さゴマが逆さになるには、重心の数値上の設計だけでなく、床面との摩擦、回転力、柄の長さなど、さまざまな要因の中で最適な条件を見つけ出し、作り込む必要があります。それで初めて逆立ちするのです。簡単に言うなら、単に重心の位置を玉の中心より低い位置にするだけでなく、逆さにするための回転力や床面に対する摩擦力が必要だったということです。まず回転の力ですが、今回は手で回すことがルールだったため、人間がコマに与えられる回転力の限界があります。ですので、当初設計したコマでは重過ぎて、必要な回転力を与えることができなかったのです。だから逆さになるどころか横向きにもならなかったのです」(西村氏)。

 西村金属が再設計し、試作3つ目で成功したのが、通称「ゾンビくん3号」。ひとまずコマは、見事に逆さになって回るように。「ゾンビくん」は、さしずめ、いったん“死んだ”設計がよみがえったという意味か。

 次に、「ゾンビくん3号」を基にして、コマにできるだけ回転力を与えるように柄を長くしたものを設計。「ところが、このコマも強い回転を与えることはできるのですが、横回転まで……。ここで人間が手で回すだけの回転力では限界があるのを知りました」(西村氏)。

思わぬ苦戦

 以降は、コマの全体的な質量を抑えるよう再設計。レギュレーションで定められた上限のφ20mmを守り、球の内側を削って軽くなるように設計を進めたということだ。

 ところが、どれだけ強く回しても、全く逆立ちしないどころか、横回転もしなくなってしまった。理論上では、きちんと回るはずだった。入社1年目の設計担当者も頭を抱えてしまう。

 その時点で、既にテクニカルショウヨコハマ開催が2日後に迫っていた。試作をする時間もなくなってしまい、「ここまでか……」と西村氏が観念しかけたところ、製造担当がこんなことを言ってきたという。

「常務、このコマは確かに逆さにはならないけど、倒れることを知らないから負けないコマになりますよ」

 なるほど、確かにそれもある――西村氏は、ここで1つの方針が見えたという。「じゃあ、せめて円周上に突起をつけて、相手のバランスを崩し、かき乱す戦法でいこう。それなら比重の小さいチタン製のコマでも、比重の大きいコマに勝てるかもしれない。ガチでタイトルを目指すチタンゴマを作るぞ!」

 たたかれてもたたかれても、倒れずしぶとく生き残るコマ、その名も「ゾンビ君1号」。

 そこで、玉の外径をφ18mmにして、外周上に4つのチタン突起を1mm突き出す仕様に設計し直すように設計担当に指示。製造担当には「これが最後だから夜を徹して頑張ってくれ」と発破をかけたとのこと。

 その翌日の昼、「まだ未完成ですが」と、製造担当が持ってきたコマはチタン突起を接着するザグリ加工が円周上に4カ所施されているもの。西村氏が指示していた「チタン突起を接着した形」に加工されていなくて、仕上げ磨きもされていなかった。

「逆さゴマを諦めていた私はまさか逆立ちするとは思ってもなかったので、『なんで?』と問い直しましたが『まぁいいから、これを見て』と言うので……」(西村氏)。

 西村氏が土俵に投げ込んだ瞬間に、すぐに回転軸が傾きはじめ、横回転、さらに接地面まで心棒が到達するまで回転軸が傾いた瞬間、一気に重心が持ち上がって、ヒョコっとコマが逆立ち。この瞬間、「よっしゃーっ!!」と、思わず西村氏は歓喜の声をあげたという。「日本代表がワールドカップで劇的な勝利を上げた瞬間より大声を出しました(笑)」(西村氏)。

 ひとまず逆立ちはしてくれたものの、まだ安定した回転が得られなかった。最後に突起を接着するはずだったザグリ穴はそのままで、心棒の長さをあと1mm短くしたものを再度製作。「私の指示に、製造担当は一瞬、戸惑った表情を浮かべましたが、『もー仕方ねーなー』とだけ言って現場に戻っていきました……」(西村氏)。そしてその夜、完成したのが当日戦ったコマ。テクニカルショウ開始前夜のことだった。


おちむら金属の試作品たち

 その結果は、2回戦敗退。しかし、難題解決を最後まで諦めなかったこと、そして会場を楽しませたことは、同チームにとっては輝かしい思い出になっただろう。

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