コガネイは、TRIZを使って本気でコマ設計していた:テクニカルショウヨコハマ 2012 レポート(2)(1/2 ページ)
空圧機器メーカーのコガネイが本気で設計したコマ、ゲージメーカーのコマ、ガンダリウム合金製(?)ゴマ――個性的なコマたちのエピソードを次々と紹介。全日本製造業コマ大戦より。
2012年2月1〜3日、公益財団法人神奈川産業振興センターらが主催する工業技術見本市「テクニカルショウヨコハマ 2012」が開催された。今回も同イベント内 心技隊(モノづくり系異業種集団)のブースで催された「全日本製造業コマ大戦」(コマ大戦:同年2月2日開催)や、そこに登場した個性的なチームやコマについて、その技術的な部分も含めたエピソードの数々を今回(第2回)、次回(3回)に分けて紹介していく(イベント概要については、前回を参照)。
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スポンサー紹介と、3位決定戦
前回も紹介した通り、今回のコマ大戦は心技隊の“おかしら”、ミナロの代表取締役 緑川賢司氏がふとした思い付きをFacebookに投稿したことが発端だった。そして、その投稿からコマ大戦のFacebookページが立ち上がるまでに数日程度あった――「あれ本当にやるのかな? と、首を長くして企画発動を待ち望んでいました」と話すのは、今回のコマ大戦に参加したクリタテクノの取締役製造部長 黒田正和氏だ。
ゲージ屋さんとコマとエンゲージリング
今回のコマ大戦では第3位と健闘したクリタテクノは、愛知県北名古屋市のゲージメーカーだ。同社はゲージ製作のノウハウをコマに生かして参戦。
「私のメンタルの状態が対戦結果に大いに響きましたね。1、2回戦はよかったのですが、3回戦に勝ち上がると緊張のあまり手が滑ってしまい、うまく力が伝わらず、失敗してしまいました……」。緊張してさえいなければ、決勝戦までは進めたのではないかと黒田氏は話した。
2011年12月下旬から、同社内の5人でチームを結成し、コマ設計・製作を開始。旋盤を使い30分ほどで基本の形を作った後は、“ゲージ屋らしく”研磨をして形状の精度を高めて芯(しん)出しをした。ゲージ製作ではよくラッピングを施すが、「コマではそこまでの精度は要らないだろう」ということで、普通の研磨に。
今回のコマは黒田氏の目視によれば「外周表面粗さはRa0.4以下、真円度は0.002ミリ以下」とのことだ。
形状的には“守る”タイプに見えるが、実は“攻撃”タイプだと黒田氏は説明した。「土俵があのような形をしているため、必ずどこかで接触が起こるので、喧嘩(ケンカ)に強いタイプではないと勝てないと社内ミーティングで判断しました。材質をタングステンにし、弾き飛ばされづらく、減衰も少なく、対戦相手のコマに接触したときにもパワーがあるようにしました。形状的には、重心がなるべく下へくるように加工しました」。
試作個数は、「きちんと数えていない」そうだが、十数個はあったという。ただし、それを全て高価なタングステンで製作したわけではなく、基本形状を決める試作ではS45Cを使った。ただ、ここに誤算があったという。
「S45Cでコマを幾つか製作して検証してから、『よし、この形状でいける』と判断した上でタングステンで製作したのですが……、うまく回らなくて。比重の差がここまで響くとは思わなかったのです。大会まであと1週間というときで、タングステンは諦めようという話も出ました。しかし結局、形状を少し削って微調整するだけで、『こんなに違うのか』というぐらい大きく改善することが分かり、諦めずに済みました。結果、持久力は少し劣るけれど、喧嘩に強いコマになってくれました」(黒田氏)。
同社では大会と同じ仕様のコマを、3万1500円(税込み)で販売しているとのことだ。こちらと同じ値段で「円ゲージリング」という、円ゲージ製作の技術を基に企画した自社製品も販売しているとのことだ。ちなみに用途は、その名前から想像できる通り、婚約指輪や結婚指輪だ。製造業カップルに、一組いかがだろうか。
空圧機器メーカーがコマ設計してみた
シリンダーなど空圧機器を開発・製造するメーカー コガネイも参戦。前回、コマ開発にあたり「TRIZ(トゥリーズ)を使って課題解決」と紹介したのが、このチームだ。
チーム名が「コガネイ・ワークス “A”」となっていたのは、同社で2チーム参加する予定だったことの名残り。事前エントリー数が多かったことから、主催の心技隊と相談してコガネイは1チームに絞り込むことになったという。
同社では開発部内の有志で6チーム組み、12個のコマを設計・製作して持ち寄り予選を開催。最終的には優勝チームのコマに全技術を集結させ、超硬合金をワイヤーカット加工し、“コガネイ最強”のコマ「硬破2号」を製作したということだ。
「若手設計者にとって、製品設計の課題として最適でした。単純なコマですが、設計パラメーターは多く、これらがトレードオフの関係になります。なので実際の製品設計と全く同じ思考プロセス、設計アプローチが必要でした。この部分がずさんなチームのコマは完成度が低く、試作→修正を繰り返していました」。そう語ったのは、コガネイ 開発本部のTRIZエキスパート 片桐朝彦氏だ。
コマの機能属性分析→課題抽出→TRIZ
上記のプロセスでアイデア出しをしたチームは、試作1回のみで完成度の高いコマを製作したと片桐氏は言う。
その予選を勝ち取ったのは、同社の試作研究チームだった。「ここは新製品開発の試作を手掛けている部署です。さまざまな加工をこなせる機械と熟練された技能を持つ人間が集まっています。予選出場したコマも全てこの部署で製作しました」(片桐氏)。
以下では、“本気過ぎる”同社のコマ設計資料を公開する。
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