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災害を経た工場長の“生の声”/不測の事態への対応は中国に学べ!?上海総経理のつぶや記(2)

自然災害などを契機としたサプライチェーン見直しは、意外な結論をもたらした。中国現地法人・日系工場へのヒアリングから浮かび上がった「本当の災害の影響」とは?

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 日本の製造業にとって2011年上期は大地震による工場の破壊と電力不足、同下期はタイの洪水による工場の浸水など、この1年を振り返るといままでにない受難の年であったといえます。災害を機に、日本国内では製造業が抱える課題がクローズアップされました。サプライヤの多くが特定の地域に集まっていること、さらに、高い技術力を持つ代えの利かない企業や部品提供メーカーの数が多いことなどです。

筆者が見た中国国内における災害の影響"生の声"

 では、中国に拠点を置く日系製造業の工場では、どのような影響を受けたのでしょうか?

 まず、直接的な被害を逃れることができたのは自明ですが、日本から調達していた主要部品が届かないために中国工場が停止してしまうとか、あるいは、水害ではタイ工場の代替として中国工場のラインを増設するといった目に見えた影響がありました。

 筆者は、ある大手企業の総経理の言葉が耳に残ります。

 「中国は(実質的な中国共産党による一党独裁体制であることや反日教育の影響などといった)カントリーリスクが高いといわれ続けてきたが、気が付いてみれば中国政府のコントロール下にある反日運動よりも、予測の付かない天災の方がもっと怖い」

 このほかにも、「これまで品質が悪く納期が守られないと忌避してきた中国の現地企業が製造する部品も、やむを得ず採用してみると思ったよりも使える」という声もありました。

 中国でのユーザー(日本の上場企業にあたる大手)の100社に震災・水害の後にアンケートを取りました。

 問1を見ると分かるように、75%の企業で災害の影響がありました。また、より深刻なのが問2にあるように、具体的な影響の内容です。災害を機に製品が売れなくなった、生産が縮小したといったネガティブな内容が含まれています。

 また、ここには具体的な資料は示せませんが、生産設備の物理的な投資拡大はもちろん、主要部品の在庫や完成品の在庫を従来の2倍程度に増やす企業が少なくありませんでした。問3では在庫を積み増したと回答した企業が半数以上を占めています。

 これにはリスク対応の意味もあるでしょうが、それ以上に、在庫を積み増した企業では、中国市場ならではの判断が働いているように思えます。製品が売れなくなった、という意見と相反するかもしれませんが、長期的にみれば、成長を続ける中国市場ではこれらの製品在庫はやがて解消する見込みが立つと推測できます。また、資材倉庫の在庫費用も、日本の半分で済むため、リスクは小さくなります。在庫増加はこうした状況を反映した結果と見ることができます。


災害の影響
問1 災害の影響の有無

影響の内容 社数
製品(部品)が売れなくなった 36
日本からの資材が届かず、生産が縮小した 28
製品(部品)の代替生産で忙しくなった 18
取引先を他国の会社に取られた 14
問2 影響の内容(問1で影響があったと回答した企業のみ)

内容 社数
製品(部品)在庫を積み増した 52
生産ラインを増設した 13
複数拠点での製造を進めた 10
複数の取引先を用意した 21
問3 具体的な対策内容

 このほかにも、日本企業が考えるべき点があると筆者は考えます。

 例えば、日本では、多くの企業が情報システムのリスク対策として、堅牢なデータセンターにシステムを移管するといった方法が採用されています。さまざまな事情から日本国内の複数地点にデータセンター配置を検討している企業が多いようですが、ネットワーク環境が整っており、地震などの災害リスクの少ない中国湾岸のデータセンタに置けば、より堅牢でリーズナブルな場合も少なからずあるのではないでしょうか。

不要な「品質」が明らかになったケースも

 コンシューマ向けの製品を現地生産・現地販売しているある日系企業では、これまで取引のなかった中国の民間企業から製品包装材を急きょ納入してもらい、恐る恐る中国市場に出したそうです。結果としては、もともとの製品のブランドの高さもあり、売れ行きに影響はなく、また、その包装材に由来するクレームは発生していないということです。元来中国で暮らしてみると分かるのですが、中身が変わらなければ、多少の包装材の開けにくさや脆弱さは気にならなくなるものです。これまで、日本製品は多少価格が高くても品質の良さで勝負してきましたが、中国で台頭しつつある中産階級の市場では、全ての機能や部位が高品質でなくても十分に勝負になるということです。

リスク対応はむしろ中国法人の方が進んでいる!?

 原発事故後、日本では企業の節電努力が続いています。当社が担当している中国国内の開発区に立地する工場のお客さまの多くで、「中国では以前から突然の停電などは当たり前。今回、日本の本社工場に停電リスクに対する対応マニュアルを送ってあげたよ」などという話も聞きました。

 そういった意味では環境に恵まれない中国工場では、リスクヘッジや人的対応で早くからいろいろな工夫をしている工場がたくさんあります。

 日本の工場もいつまでも中国工場を技術の教授先とみるだけでなく、その進んでいる面にも目を向けて、スキルを逆輸入してみてはどうでしょうか。

 中国という大きな国土での販売や物流、その正確な需要予測や物流効率化の研究と実業は今後この地で実験的に進歩していくものと予測できます。

 当社も2012年には、サプライチェーンのソフトウェアを中国で展開する予定ですが、その狙いとしては、今回のような不測の事態への緊急対応のような環境だけでなく、広く・複雑な中国市場でサプライチェーンの効率化とリスクヘッジへのニーズへの対応が挙げられます。

 2011年は、日本のシステム会社はもちろん、日本の既存ユーザー企業の工場責任者の方が、中国拠点でのシステム稼働状況や効果を視察しに来られました。日系企業の中国工場、中国現地企業の工場などを紹介しています。次回はその幾つかの事例をご紹介しようと思います。


著者略歴

アスプローバ株式会社
上海総経理 藤井賢一郎(ふじい けんいちろう)


日本の半導体工場にて製造管理システムを構築。ユーザーSEの経験を生かして、生産管理パッケージソフトウェアの営業として、一貫して製造業のお客さまに基幹システムを提案。Asprovaでは、パートナーのコンサルタント営業時代に、日本・中国を含む300社のお客さまに生産スケジューラを導入した経験を持つ。




海外の現地法人は? アジアの市場の動向は?:「海外生産」コーナー

大手だけでなく、独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。




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