いよいよデータ管理が一般化するのか!?:米国ベンダーイベント潜入レポ(2)
数年前の中小企業は、ベンダーがPRするデータ管理ツールに“踊らされなかった”。しかしいま、その状況が変わってきている。中小企業たちは、外部のコラボレーションに興味を示している。
前回より引き続き、米オートデスクのユーザーイベント「Autodesk University」(以下AU。会期は、2011年11月29日〜12月1日:現地時間)に参加して見えたCADやPLMの動向について書いていきます。
*記事中の日本語訳は筆者による意訳で、公式のものではありません。
レポの前に、2011年のトレンドから
2011年のキーワードの中でも特に目立ったものが「クラウド」や「ソーシャル」であることを否定する人は、恐らくいないでしょう。「ソーシャル」ということでは、やはりFacebook。私自身もアカウントは以前から持っていましたが、毎日のように使い出したのは2011年になってから。それも、「3.11」の後からでしたが、2011年の漢字の「絆(きずな)」が意識されたのか、「ソーシャル」をキーワードに、世の中につながりを意識した取り組みが始まっていきました。
中小の外部組織(あるいは個人)の集合によるコラボレーティブな取り組みのうち幾つかは、モノづくりにかかわるものであり、MONOist上でも、そのような取り組みに触れた記事が幾つか出ましたね。
さて、そのようなコラボレーティブな取り組み自体をするのは人。ですが、現代におけるモノづくりのコラボレーションを本格的に展開するためには、やはり「何か“ITなインフラ”が必要なのでは?」という発想になります。
特に私の場合、ずっとPDMやPLMというものにかかわってきたせいか、どうもそのような発想になってきてしまいます。ただ、少なくともこれまでに存在してきたPLMやPDMは、そのようなソーシャルな発想を取り込むことができるようなものではなかったと思います。実際問題、そのようなことをユーザー側から求められるということも、あまりなかったのではないでしょうか。
中小企業とPLM
そもそも、PDMやPLMというシステム自体が、一部の大企業を除いてそれほど求められることがなかったのも現実でしょう。私が初めてPLM(というか、当時はPDMとかPIMとか言っていた気がします)にかかわり出したときも、お仕事をさせていただいたのは、幾つかの自動車の完成車メーカーや、大手電機メーカーなどでしたが、ほとんど中小企業に関する案件がありませんでした。それも無理はない話で、そもそもPDM自体の発展は3次元データの発展とともにありました。3次元データが普及しない限りは、PDMやPLMを導入するベースがない、ということになってしまいますから。
数年前、多くのベンダーたちは(その頃は、私もそちらサイドにいました)、中小企業向けに「データ管理」という笛を吹きながらも、“誰も踊らない”“踊るのはベンダーだけではないのか”と思っていたのです……。
ところが、2011年あたりからミッドレンジの3次元CADを使う企業からの引き合いが増えているようなのです。実際、私がお話させていただいた中小企業の幾つかは、「データ管理だ」と課題をお話していました。
さらに私の同業の人から、つい最近聞いた話でも、某ベンダーにおいてはデータ管理のことをわざわざ宣伝しなくても引き合いがくるようになっているとか。顧客サイドからもベンダーサイドからも何か共通する動きが感じられます。
つまり傍から見ていても、やはり製造業の中でも、中小から中堅企業に多くの製品が導入されているオートデスクにとって、ここでデータ管理というものを大きく打ち出すことは、タイムリーであるといっても過言ではないでしょう。
オートデスクにおけるPLM
そういうわけで、今回発表されたのが「Autodesk 360」と呼ばれるクラウドベースのPLMでした。
実際、Enterprise Data and Lifecycle Management担当のVPであるステファン・ボドナー(Stephen Bodnar)氏のプレゼンの中でも、「なぜ今なのか」ということについて、以下2つのことを挙げていました。
- ユーザー自身がPLMというアプリケーションの価値を見い出してきている
- テクノロジーやビジネスモデルも、そのメリットを享受しやすい状況になってきている
まず、いよいよ本格的にPLMビジネスに参入するオートデスクにおいて、「PLMとは何か」です。
実際には、前回も書いたように、“Autodesk 360という単一のモジュール”ではないということです。「Autodesk Vault」(以下、Vault)、「Autodesk Buzzsaw」(以下、Buzzsaw)、それから「Autodesk 360 Nexus」という3つのシステムをまとめたものが、Autodesk 360ということになります。
この3つのモジュールのうちの前2つは、以前からAutodeskに存在するものなので、全く新しいというわけではありません。
ちなみにVaultというのは一般的に言うところのPDMを指してよいでしょう。その製品では幾つかのレベルが用意されています。無償のものでは、いわゆるファイル管理が中心で、有償のものではワークフローやBOM管理、あるいはマルチサイトでのコラボレーションが可能になります。
Buzzsawは、ファイアウォールを超えてファイルを共有することができるコラボレーションのためのツールと考えてよいでしょう。しかし、これまでこれらのシステムは別個のものであり、つながってはいませんでした。これらも今後はシームレスにつながっていくと考えてよさそうです。
さて、このようにAutodesk 360は3つのモジュールで構成されていることで導入上のメリットも見いだせそうですね。
Vaultは、従来通りクラウドではなくオートデスクが「On Premise」と呼ぶ、従来通りのインストールにより導入されます。VaultはAutoCADやInventor、Revitなどのオートデスク製品と密に連携し、CADデータを有効に管理できます。オプションによってはワークフローを使って出図管理をすることもあるでしょう。このあたりは、従来のPDMの範ちゅうの役割になりますが、これらの業務をするのは基本的にはエンジニアですね。
オートデスクでは、PDMを使うユーザーとPLMを使うユーザーは同じではない、従って、展開するパッケージが同一の1つのものである必要はないと考えているわけです。
ちなみに筆者が公平に見て、Vaultは確かに、多くのPDM製品よりも導入は楽だと思います。しかし、それでも本格的に使いこなそうとすると、やはりそれなりの準備や心構え、それに体制がなければ難しいというところは否定できないのです。
PLMを始めない5つの理由
「PLMを始めない5つの理由」として、ボドナー氏が述べていたのは以下です。
- ソフトウェアのコスト
- メンテナンスのコスト
- しかるべきROIを得るまでに時間がかかり過ぎる
- これまでのプロセスを変えなければならない
- そして既存システムとの統合の問題
まあ、これらのことは従来より問題であり、さほど新しい内容ではありませんね?
で、オートデスクが何を言いたいのかというと、「クラウドベースのPLMであるAutodesk 360が、全てを変えるよ」ということだろうと私としては理解しました。
ボドナー氏のプレゼンの中で使われていた言葉は、以下の通りです。
- Intuitive, Easy to Use(直感的で、すぐに簡単に使える)
- Zero Deployment(導入の手間がゼロですぐに使える)
- Ubiquitous, yet Secure Access(どこにいてもアクセスできて、でもセキュリティは万全)
- Instant On!(即座に起動)
- Pre-Installed Apps(既にインストール済みのアプリケーション)
- Insanely Configurable(非常識なほどに自由なコンフィギュレーションが可能)
- For ALL Customers(どんな分野のどんなサイズのユーザーでも利用可能)
この中でも特にクラウドらしいと言えば、やはり「Zero Deployment(導入の手間がゼロですぐに使える)」と「Ubiquitous, yet Secure Access(どこにいてもアクセスできて、でもセキュリティは万全)」といったところでしょうか。
さて、話を聞いていて“従来のAutodeskっぽくない”――というと語弊があるかもしれませんが、「中小」とか、「小規模なワークグループ」といったものではなく、「For ALL Customers」とあるように企業の規模を全く問わない、つまり小さなワークグループ(これはVaultのみで対応できますが)やサプライチェーン全体を含めた外部とのコラボレーションが視野に入っているようでした。
建築分野とクラウドベースPLM
実際、Autodesk 360ではかなりリッチなビジネスアプリケーションが実現できるとの発表もあり、「Supplier/Partner Management」や「Maintenance and Services」というかなり幅広いプロセス全体の管理を視野に入れているようです。そして幅広い適用ができるようになると、どうなるか。つまるところ製造業以外の幅広い分野に展開できるようになるわけですね。それが例えば建築です。建築というのはある意味で製造以上にクラウドベースのPLMソリューションのメリットがあるのかもしれません。建築プロジェクトを推進する上での課題として以下のようなものが挙げられていました。
- Multi-discipline modeling(複合領域におけるモデリング)
- Design Standards(設計標準)
- 1000’s of project documents(膨大な数のプロジェクト ドキュメント)
- Collaboration across distributed teams(分散されたチームにおけるコラボレーション)
- Coordinating designs for analysis and simulation(解析シミュレーションのための協調設計)
- Leveraging model data in business processes(ビジネスプロセスにおけるモデルデータ活用)
- Mobile / fieled-based team members(モバイル/現場のチームメンバー)
建築においては、さまざまな組織が同時にコラボレーティブに作業をする必要があり、場所もオフィスだけでなくフィールド(現場)もあり、その中で規則に準じてさまざまなドキュメントを共有し、それをしかるべきプロセスで動かすとなると、従来のPLMでは難しかったことがクラウドベースであれば容易になりそうだとは私も思います。
おっと……、クラウドベースというと、どうしてもユビキタスなデータへのアクセスなどのことが思い浮かぶのです。もちろんこのような仕組みを用いて、しかるべきプロセスを順守するという形でも、もちろん使用可能です。
正式リリース前のAutodesk 360ですから、あくまでパイロットユーザーという位置付けだと思いますが、米オートデスクのユーザー Armour Medicalが、Autodesk 360の活用についてプレゼンしました。FDAの規則や規制に基づいて、それに対するコンプライアンスソリューションを開発するために活用したということでした。
Autodesk 360は、2012年度の第1四半期の後半に米国ではリリースされる模様です。日本においては、オートデスク日本法人の正式発表を待ちましょう。リリースまでは、これ以上の具体情報はないのですが、少なくとも従来になかった形式で展開されるPLMということで期待しましょう。(次回へ続く)
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