「仏像は顔が命」日本人の心が生きるLED照明:マイクロモノづくり 町工場の最終製品開発(17)(3/3 ページ)
仏像を愛する異業種の経営者2人が手を組んで生み出した仏像フィギュアケース。日本人ならではの繊細さでLEDを制御する。
日本人の心とLEDの調光
林氏や森田氏と話をしていて私が気が付いたのは、仏像フィギュアを“単なるフィギュア”ではなく、“本物のお仏像”として扱う両氏の心構えでした。私たちは、“フィギュアの顔”と言ってしまいますが、両氏からは“お顔”という言葉が自然と出てくるのです。
仏像という日本独特の造形物に合わせて、繊細なLEDのパラメータを適切に調整するということには、日本における仏教の歴史や、仏像そのものに対する深い造詣に基づいた“日本的な美意識”を持った人が携わらなければならないでしょう。
今回の仏像フィギュアケースは、単に技術面だけではなく、
- 日本のモノづくりの原点=魂を込めたモノづくり
- LEDや電子回路、プログラミングに関する知識
- LEDの芸術的感覚
の3つを林氏が持ち合わせていなければ、実現は不可能だったのではないでしょうか。
この事例はまさに、「仏師が、1つの木材から1つの仏像を浮き上がらせる」作業に等しいと感じました。
未来の日本製造業の形
今回の事例をマイクロモノづくりの流れに当てはめて、考えてみましょう。
この事例は、2つの会社の完全なるコラボレーションから生まれた、新しいパターンのマイクロモノづくりでした。
まず、製品開発のきっかけである「企画」のステップは、森田氏と林氏の“偶然の出会い”から始まりました。また今回のような「経営者同士の意気投合」という要素は、極めて重要です。それがなければ、マイクロモノづくりは成功しないと言っても過言ではないでしょう。
次の「資源の確保」のステップでは、コストとリスクを最小限にしました。初期の開発は林氏の趣味の延長線上で実施され、森田氏が林氏に提供したのも金銭ではなく仏像フィギュアの現物でした。
そして「デザイン」のステップ。林氏が自ら開発者であり、かつ美的センスもあるデザイナーでした。なので、林氏自らが、ケースをデザインをすることになりました。
「試作」のステップが終わり、「製品化」に向けスタートすることになった要因は、林氏が長時間かけて丹精を込めて作り上げたLEDケース試作品の完成度の高さが、森田氏の心に強烈なインパクトを与えたことでした。もし、試作初期の段階で、森田氏が林氏にLEDケースの開発の依頼をして、見積もりを取っていたら、今回の製品は生まれなかっただろうと林氏は言います。
製品の実物さえできれば、後は周囲の協力者が出てきます。これはマイクロモノづくりのフローでいえば、順当な流れと言えましょう。
その後の「マーケティングとブランディング」のステップでは、仏像フィギュアのブランディングを成功させた森田氏の経験が、パンフレットやWebページの作成、イベントの企画などで、惜しみなく生かされました。
2人の社長が共通して持つ「仏像が好き」という思いが、共感と信頼関係を生み、それぞれの会社の得意分野を十分に発揮できたことで成立したマイクロモノづくりだったと言えます。
未来の日本の製造業を予感させるマイクロモノづくり事例
この事例は一見、単なる中小企業同氏のコラボレーションと映るでしょう。
しかし、マイクロモノづくりの中小企業を日々ウオッチしている私たちが、この事例から読み取ったのは、「この事例に未来の日本のモノづくりのカタチが示唆されている」ということでした。
今後の日本では、円高が更に進み、経済環境のさらなる悪化に直面することになるでしょう。
そんな中、ソーシャルネットワークによって、全く異業種にもかかわらず、相互に理解・共感できる2〜3社の中小企業が、自社の得意分野の技術を持ち寄って連携をしながら、大企業が作り出せなかったようなオドロキの製品を開発して、国内や海外市場に出していく――そのような“マイクロメーカー”たちが国内に数多く発生して、その周囲に豊かな経済の生態系が出来上がっていくという未来が描けます。
そんな日本製造業の未来を先取りした事例が、今回のYuragiの事例だと感じたのです。
これからも日本の未来を予感させるようなマイクロモノづくり企業をどんどん取材していきますので、ご期待ください。
関連リンク: | |
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⇒ | 「Yuragi」(ゆらぎ) |
⇒ | ブライトチップス |
⇒ | MORITA |
⇒ | イSム |
⇒ | 発電会議(Facebookのグループ) |
⇒ | MONOist×enmono 合同企画記事 |
Profile
三木 康司(みき こうじ)
1968年生まれ。enmono 代表取締役。「マイクロモノづくり」の提唱者、啓蒙家。大学卒業後、富士通に入社、その後インターネットを活用した経営を学ぶため、慶應義塾大学に進学(藤沢キャンパス)。博士課程の研究途中で、中小企業支援会社のNCネットワークと知り合い、日本における中小製造業支援の必要性を強烈に感じ同社へ入社。同社にて技術担当役員を務めた後、2010年11月、「マイクロモノづくり」のコンセプトを広めるためenmonoを創業。
「マイクロモノづくり」の啓蒙活動を通じ、最終製品に日本の町工場の持つ強みをどのように落とし込むのかということに注力し、日々活動中。インターネット創生期からWebを使った製造業を支援する活動も行ってきたWeb PRの専門家である。「大日本モノづくり党」(Facebook グループ)党首。
Twitterアカウント:@mikikouj
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