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日本には「黒潮」がある、海流発電の研究をIHIや東芝が着手スマートグリッド(3/3 ページ)

日本列島に沿って南側を流れる黒潮。他のさまざまな海洋エネルギープロジェクトと共に、この黒潮の海流エネルギーを取り出す研究開発が始まった。直径40mのタービンを2つ取り付けた長さ100mの浮体物を海底にケーブルで係留するという壮大なプロジェクトだ。商業化の暁には出力800MWという巨大な海中発電所が完成する。

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IHIや東芝が海流発電に取り組む

 NEDOが委託する「次世代海洋エネルギー発電技術研究開発」では、まだ商業化の段階に至っていない先進的な研究に取り組む。2020年に発電コスト20円/kWh以下を実現するための要素技術を研究開発対象とする。これは先ほどの実証研究が目標とするコストの半分の数字だ。高効率化の他、耐久性やメンテナンス性の向上を狙い、試験を実施する。研究対象は海流発電と海洋温度差発電*5)だ。

*5) 海洋温度差発電は、佐賀大学と神戸製鋼所のグループが採択を受ける予定だ。

 IHIと東芝、東京大学、三井物産戦略研究所は2011年11月28日、共同で海洋エネルギー発電の研究開発に取り組むことを発表した。「次世代海洋エネルギー発電技術研究開発」の委託予定先に採択されたためだ。

 日本周辺は黒潮(暖流)や親潮(寒流)など海流に恵まれている。特に黒潮は高い潜在エネルギーを秘めており、今回の研究開発では黒潮のみを対象とする(図3)。


図3 黒潮の流速分布例 ある特定の季節の流速を示した。色が赤いほど流速が高く、立地条件がよい。四国の南や、紀伊半島沖などが好適地であることが分かる。出典:東芝

 研究開発では海中に水中タービンを係留し、海流を利用して発電する「水中浮体方式の海流発電システム」に必要な要素技術を開発する。さらに事業性評価を実施して、将来の海流発電の実用化を目指す。

 2011年度から2015年度までの5年間を予定し、2年間で設計課題を解決しつつ、各種の調査を終え、中間報告を提出する。目標到達が可能だとNEDOが判断した場合、引き続き3年をかけて小型の実機を使った海洋での実験に進む。

なぜ海底に固定しないのか

 水中浮体方式の海流発電システムには4つの特長があるという。

  1. 安定した発電が可能で、発電電力量も大きい
  2. コスト競争力に優れる(図4
  3. 効率的な発電が可能
  4. メンテナンスや修理が容易

 (1)の理由は、海流が太陽の動きや天候に依存しないためだ。昼夜や季節による流れの速さや向きの変動が少なく、海流が欠けることもない。このため、風力や太陽光とは違い、連続的で安定した発電が可能になる。

 (2)が成り立つのは、発電装置を海底に固定するのではなく、ケーブルを使って係留するためだ。設置が容易になる他、波浪の影響を受けない安定した水深(50〜100m)での運用が可能になり、船舶の航行にも影響を及ぼさない。

 (3)は選択した水中タービンの構造に由来する。1つの浮体の左右に逆回転する(対向回転する)水中タービンを採用することで、タービンの回転に伴う回転トルクを相殺でき、海中で安定した姿勢を保持できる。

 (4)も水中浮体方式を採ったことで成立する。タービンの向きと浮力を調整することで、必要に応じて海上に浮上させることができるからだ。


図4 水中浮体方式の海流発電システム 水中タービン(回転部)などを海底に固定するのではなく、海底から係留する。海底に大規模な構造物を設置する必要がないため、コスト面で有利だと考えられている。出典:東芝。

IHIが構造物を設計、建造

 4法人の役割はこうだ。IHIが浮体全体と係留設備、タービン構造を設計し、建造する。東芝はタービン性能を検証し、発電と変圧、送電を実証する。

 三井物産戦略研究所はモノづくりには関与しない。まず、どの程度のコストに抑えれば商業ベースに乗るのか、コスト分析を進める。例えば、大型のタービンがよいのか、小型のタービンを多数設置するのがよいかなどを分析する。次に設置場所の選定を行う。海洋環境への影響を分析する他、漁業権などとの調整に関する調査を進める。最後に、海外展開の可能性を探るという。「研究開発が成功したとしても、商業ベースに乗って広く普及しなければ意味がない」(三井物産戦略研究所)。

 東京大学は、大学院新領域創成科学研究科の教授である高木健氏を中心に海流エネルギー研究に取り組む。高木氏は海洋エネルギーを専門としており、「この分野の第一人者である」(IHI)。

直径40mのタービンを狙う

 海流発電に最も適したタービンとはどのようなものなのか、実用化前であるため、確定した解はない。IHIは、商業化した際の規模を2000kW(2MW)と見込む。「直径40mの水中タービンを2つ備えた幅100mの浮体物を想定している」(IHI)。実験では40分の1スケール、すなわち直径1mのタービンを使う予定だ。

 コストの見積もりはどうなっているのだろうか。2000kWという規模を前提とするなら「1基を10億円以内で製造する必要があるだろう」(プロジェクト関係者)。

 商業化したときの「発電所」の規模はどの程度なのだろうか。2000kW規模のタービンを「400基置く」(プロジェクト関係者)という案もあるようだ。


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