初音ミクフィギュアの金型をポリゴンデータから作る:モノづくり素人だけど2代目社長の製品開発(1)(2/2 ページ)
有名クリエイターが製作したハイエンドな初音ミクをフィギュアで忠実再現! それなら、やっぱり金型が勝負。しかもベリじゃなく、NCの直彫りで。
Tripshotsミクを実体化せよ
その後の、Tripshots氏と当社の打ち合わせの内容を要約してみます。Tripshots氏は同人活動をしながら3次元CGで初音ミクのPVを製作しています。
- Tripshots氏は自身の製作による初音ミクのフィギュアモデル化を熱望している
- しかし、アキバ(秋葉原)などで販売されているフィギュアで用いられるような、原型師の手によるアナログ原型は使いたくない
- 3次元プリンタなどによるRPモデルではなく、あくまでも量産して商品化したい
そして私たちアステックは、ポリゴンデータから成形用金型を作る技術を持っていたわけです。
それならば……、Tripshots氏が制作した初音ミクのモデリングデータから、アステックが成形用金型を製作すれば、クリエイター Tripshots氏が定義した初音ミクの立体形状を余すことなくフィギュアモデル(量産品)として結実させることができる! ――このように、3次元データを共通言語に3D-GANのコーディネーション機能が見事に炸裂し、アステックとTripshots氏の二者を結び付けたというわけなのです(3D-GANの活動テーマは、「コンテンツとモノづくりが出会う場」でもあります)。
ポリゴンデータから金型を
自動車でも家電でも雑貨でも、製造業ではCADで製品設計し、そのモデリングデータからCAMでパス計算させて金型を製作していきますよね。当社も機構部品などは同様の手法で設計/製作しています。一方、ホビー商材などデザインやキャラクター性を担保する意匠形状を再現する際、当社ではCADではなくポリゴンデータからダイレクトに切削して金型を製作してしまいます。
通常、キャラクター商材などの成形製品を製造する場合、通称「ベリ型」と呼ばれるベリリウム銅を使用した鋳造型を製作します。その工程上、「マスター原型」という凸型が必要になりますが、ポリゴンデータを起点とした場合は、そのモデリングデータからRP出力し、積層痕(こん)の消し込みなど整形作業を施して入稿マスターとします。そして入稿されたマスター原型からパーティングラインを設定し、キャビコアを片面ずつ鋳造していくのです。
用語
キャビ=キャビティ:金型の固定側 コア:金型の可動側
「なら、そのベリ型でいいじゃないか」と、皆さん、そう思うかもしれません。でも、ちょっと待ってください。今回の対象モチーフは“Tripshots氏の初音ミク”なんです。
「初音ミク」というキャラクターを象徴するツインテール(左右の長いおさげ髪)全体に存在する毛並み表現のハードディテール、衣装各部の薄い肉厚、細い指が複雑に上下している両手……、Tripshots氏が定義した初音ミクを精緻に実体化するというテーマをまっとうするのであれば、ベリ型では十分な結果は得られないでしょう。
仮にRP機で出力したとしてもマスター製作の過程での整形作業によりディテールやシェイプはどんどん変化してしまいますし、職人の経験則に基づいて人力で型割り(パーティングライン)を決定するベリ型では、薄い肉厚のスカート、そして複雑な指のキャビコア製作は非常に困難だと思います。
そんな条件が並び出しながら、ここで素人の「プラモ脳」が働きました。
- 求めるべきものはTripshots制作の繊細なモデリングデータからの精緻な実体物
- RPではなく、金型による成形・量産品
- ベリ型だと求めるべき製品クオリティの獲得が困難
- 当社にはポリゴンデータからダイレクトに切削加工する技術がある
なら、直彫りで行こう!
「昨今の日本を代表するキャラクターデザインの1つである初音ミクを、日本の製造業が日常使っているNC加工技術で精巧に実体化してみようじゃない!」――こうして作業テーマも決定しました。
しかし……。モデリングデータを受け取り帰社した私は、当社の設計担当とファイルを開いて愕然(がくぜん)としました。
「……これがCGデータってヤツの正体か」
そのファイルは、確かに打ち合わせの席で見た、そして、あのPVにも登場していた、Tripshots氏が作成した初音ミクのモデリングデータなのですが、“製造業の常識では考えられない”作られ方をしていたのです。
今回は、ここまで。次回からは零細企業がいかにしては初音ミクを実体化して行ったか、工程パートごとに紹介していきます。
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