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A-1グランプリ王者、語る。実はオイシイ農機具ビジネスマイクロモノづくり 町工場の最終製品開発(14)(1/3 ページ)

農家にリーマンショックは関係なかった。経済不況下の町工場がニッチなニーズに目を付けて、農機具ビジネスに乗り出した。

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 マイクロモノづくりを成立させるためには、ユーザーのニーズというものが非常に大切です。全くニーズがないものには、やはり製品としての価値がないと私は思います。逆に、「コレをお願いします」ということがちょくちょくあるような場合では、そのニーズは想像するよりもはるかに大きい場合があるのです。

 今回ご紹介するのは、群馬県でNCマシニング加工を中心に町工場を営むユニーク工業です。同社専務取締役の羽廣保志(はびろ やすし)氏に話をおうかがいしました。

農業ビジネスプランコンテスト「A-1グランプリ」

羽廣氏
ユニーク工業 専務取締役 羽廣保志氏 

 羽廣氏はリーマンショック後の荒波を乗り越えるべく「町工場の共同体を作ろう!」ということで、2009年8月に共同出資にて購買代理商社「下請の底力」を製造業仲間とともに立ち上げました。そこで「えんのうブラザーズ」として、農家をターゲットとした「農機具カスタマイズ」ビジネスをスタートしました。

注:ユニーク工業の本業は機械加工業です。本記事では、同社が参画する下請の底力 えんのうブラザーズとしてのビジネスを主に取り上げています。



 自身のユニークな取り組みを多くの人に知ってもらうため、羽廣氏は2011年度の「A-1グランプリ」(農業技術通信社主催)に参戦。2011年の7月1日に最終審査会が開催されました。

 A-1グランプリは、農業関連のビジネスプランコンテストです。プロの農業経営者だけでなく、学生、起業家、新規就農者、農業参入事業者などさまざまなポジションの人たちが応募してきて、そこからさらに日本全国6つのエリアから精鋭が選抜されます。入賞のハードルは非常に高いコンテストで、優勝賞金も100万円とかなりのものです。

 これまでの実績と事業そのもののユニークさが評価され、羽廣氏は見事、全国1位(グランプリ)に輝きました。これは、ひとえに羽廣氏の目の付け所が、まさに細やかな農家のニーズを的確に捉えていた証ということにつきましょう。

羽廣氏と農機具の出会い

 羽廣氏は、大学卒業後、中堅部品メーカーでの3年の修行期間を経て、実家のユニーク工業に入社したそうです。

 現在のユニーク工業は、まさに名前の通り、“ユニークな”活動をしていますが、もともとは創業者である父上の時代からの機械加工業を営んできました。そんな中で、15年ほど前(1996年ごろ)から、周辺の農家から「農機具が故障したので、突貫で直して欲しい」というような依頼が、ユニーク工業にちょくちょく来ることが多くなったといいます。

 それらの依頼の多くは、「ちょっとした破損なのに、メーカーに修理を依頼すると非常に高いコストになってしまう」という類いのものでした。

 故障した農機具の具合を見ていくと、その程度は大したことがない場合が多く、「自分が何とか修理できるものが大半だ」と羽廣氏は考えました。そんなところから、羽廣氏と農家、農機具との付き合いが始まっていきます。

 羽廣氏が、農機具のカスタマイズに大きなビジネスチャンスがあると気が付いたのは、リーマンショック後でした。これまでの製造業の部品加工系の仕事は最大8割減までに至ってしまいました。しかし、ぽつりぽつりと依頼が来る農機具の修理や、農機具のカスタマイズは、リーマンショック後も、ほぼ同じペースで入ってきて、減ることはなかったとのことです。

 そもそも、日本の農家はリーマンショックとは無関係だったのです。

 自動車や電機、半導体といった日本の製造業の多くはすっかりグローバル化していたので、当然、リーマンショックの影響をもろに受けることになりました。しかし、農家はほぼ国内需要に対応するために仕事をしていますから、その影響は直接受けなかったのです。その農家から依頼される農機具のメンテナンスという仕事も同様ということです。

 よくよく考えてみると、確かにその通りなのですが、案外、なかなか気が付かないニーズだったのかもしれません。

 ともあれ、そんな事情から、羽廣氏のえんのうブラザーズとしての活動がスタートしたのです。

農業体験でユーザーの気持ちを理解

 羽廣氏はこれまで飛び込み営業の経験がありませんでしたが、試しに近所の農家を訪れてみることにしたそうです。

 これまで、農家の方から「これを修理して欲しい」と依頼をもらうことが多かったのに、こちらからいきなり訪問して営業すると――当然かもしれませんが――怪しまれることが多かったとか……。その上、農家の方が一体何を求めているのかさっぱり理解できなかったといいます。

 農業系の経験がない羽廣氏は、農機具や農作物に関しての知識が十分ではないため、農家の方となかなか話が通じなかったのです。本格的な農作業をしたこともなかったので、実際に仕事をする農家の方々の気持ちもつかみにくかったということなのでしょう。

 羽廣氏はいろいろと考えた末、農業のことをより深く知るために、地元 宇都宮大学の農学部の聴講生になりました。宇都宮大学では「里山」と呼ぼれる山間地の大切さや、それが現状抱えている問題を学びました。

 近年の里山は、林業従事者の高齢化のため、十分に人の手が入らなくなっています。里山に住む野生動物たちが餌(えさ)を求めて民家近くまで降りてきてしまうのです。そこで羽廣氏は、鳥獣対策の装置の試作などに取り組んでみました。

 さらに、農業のこと、農家のことを深く知るために、工場の近くに農地を借り、近くの農家の方の指導の下、自ら農業の実践に挑戦してきました。

 そうしていくことで、農家の方の言葉をより深く理解できるようになり、さらに新たに農機具のカスタマイズのアイデアなども出るようになってきたということです。

羽廣氏
カスタマイズした農機具を農家の方に試してもらい、意見を聞く羽廣氏

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