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3Dスキャナ&プリンタが生み出すダンサーたちものづくり系女子が解説! 3Dとアートの進化(1)(2/2 ページ)

小さなダンサーたちが輪になって踊るアート。Perfumeのステージ映像などを手掛けるアーティストらが3次元技術を使って生み出した作品だ。

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プログラマーが作るアート作品

 制作者の一人、眞鍋大度氏は東京理科大学数学科からIAMAS(岐阜県立国際芸術アカデミ)へ進み、一度はプログラマーとして企業に勤めた経歴を持つアーティストだ。近年は顔のパーツを解析して顔面にプロジェクションする作品や、Perfumeの東京ドーム公演でのステージ映像、やくしまるえつこのミュージックビデオを制作するなど、数々の作品を手掛けており海外からの評価も高い。日本のクリエイティブをけん引している人物だ。

 本体が安価なことから全世界でブームとなっている「Kinectハック」も、日ごろからさまざまな機材やプログラムのSDK(ソフトウェア開発キット)をいじる眞鍋氏の場合は一味違う。Kinectを単なる3次元スキャナとして利用するにとどまらず、ムービングプロジェクションマッピングのためのキャリブレーションシステムを構築している。Kinectのほかにも工業用3次元カメラであるMesa Imaging社の「The Swissranger SR4000 3D camera」を所有し、3次元スキャンデータをレコーディング、エディティングするソフト、リアルタイムで映像を生成するソフトも独自開発して リアルタイム3次元スキャンシステムとして映像作品に使用している。

 本展示会においても、もう1つの作品「fadeout」ではKinectによって3次元スキャンされた人の像を紫外線レーザで蓄光顔料の練りこまれたテープに照射する展示を行っていた。

 「16-forms」の制作では人の全身を17秒でスキャン可能な大型の3次元スキャナを用いた。3次元スキャンしている間は、対象物は動いてはいけない。動けばデータもぶれてしまう。シャッタースピードの遅いカメラだと思っていただければ分かりやすいだろうか。プロの振付師が躍動を制御して体を止め、1ポーズずつスキャンした。

 これまでも3次元データを扱っていた眞鍋氏は、今回初めて産業用3次元プリンタで出力した。3次元データの編集には予想外に苦労したそうだ。データ形式が統一され、撮影すればそのまま素材として扱える映像や画像といった2次元データと違い、3次元化するだけで仕上げが必要なデータだという点に戸惑ったようだ。「3次元化する」とはどういうことかというと、3次元データは立体として成り立つために多面構成を持つが、この面同士にすき間があるなどすると3次元データとしては成り立たない。例えばそのすき間を埋めてポリゴンの表面の穴を埋める作業が必要となる。

 3次元スキャナの仕組みやソフトウェア自体が、産業機械用の高い精度を実現するために自らデータのハードルを上げている側面も確かにある。使い途によって、ラフな3次元でもいいのに過剰品質になりうまく調節できないというのは、モノづくりの現場でもよくある話ではないだろうか。今回は時間がない中で3次元プリントする必要があったため、3次元スキャンデータの修正はFreeFormを用いたボクセルモデリング(ボクセル(粒)によるモデル形状表現)で行い、当社(ケイズデザインラボ)でお手伝いをさせていただいた。ボクセルモデリングによって、先述したポリゴンの表面を編集する作業も、面ではなく塊として肉付けしたり引っ張ったりする直感的な操作が可能となる。

 3次元プリントは産業用のハイエンドな3次元プリンタを使用し、そのスピードと人形の数mmの指先も再現する細部の造形力は予想以上だと語っていた。3次元プリント技術は一般に知られているよりもずっと進んでいるが、日常生活に登場する場面はまだほとんどない。そうした状況において、3次元プリント技術がアートの分野に取り上げられることは、活用の可能性を開く意味でも有益だと思う。

 眞鍋氏は今後、3次元スキャナをリアルタイムで連携させるプログラムを組んでみたいという。3次元スキャナは、くどいようだが製造業分野で使用される物がほとんどであるため、精度を保つためにスキャンとアウトプットは切り離されている。しかし、インタラクティブ表現において重要なのは精度ではなく、リアルタイムであったりフィードバックの体験であったりする。3次元スキャンした自分の動きをパペット人形が再現する、そんな単純な表現であっても、現在の3次元技術を用いれば面白いかもしれない。Kinectも3次元スキャナも、そのものが新しいわけではないが、プログラムを用いて入出力の関係を客観的に結び付けることに面白さを感じ、たまには遠回りをして作品を作る。その遠回りの目標設定は、クライアントからの依頼である場合もあれば、自分で「ここだ」と決めた果てのない制作の先であったりもする。3次元スキャンしたデータを取っ掛かりとして一体どんな作品を見せてくれるのか、楽しみである。

ミクストメディア作品と3次元データの普及

 アートというと、絵画や彫像が思い浮かぶが、現代アートの中には「ミクストメディア」と呼ばれるジャンルがあり、そこではキャンバスや絵の具にとどまらず、あらゆる素材が使用される。個展や卒業制作展においても、よく見ると3次元プリンタ出力が使われていることがうかがえる作品が散見される。

 一般的には映像表現とされるCGも、現代アートにおいてはミクストメディア作品と呼ばれることが多い。iPadや3次元カメラの登場で個人が3次元データを扱うようになったいま、アート分野においても活用が進むことは自明だ。

 ハイビジョン映像のように、3次元データを用いた表現も、やがてはさまざまなニーズに対応することが求められるようになるだろう。いまはKinectを使っているアーティストも、本格的な3次元スキャナに興味を示している。ただし、求められるのはあくまでも作品としての完成度であり、3次元データの精度ではない。いかに最先端の技術を意外な方向で使いこなすか、アーティストたちは目を光らせている。

 本来の用途からすれば邪道と言われるかもしれないが、3次元データや周辺機器が製造業でしか使われないという前提が、従来のものだと言ってしまってもいいかもしれない。GPSも携帯電話の位置ゲー(位置情報登録システムを利用したゲーム)に活用される時代である。ある技術について、「これは一般向けではない」とは言い切れないだろう。既にiPadやiPhoneでタッチパネルを利用したデジタル彫刻のような3次元モデリングアプリも出てきている。

 3D映画もブームはさておき映画館で当たり前に見られるものとなった。スクリーンの代わりに立体物に映像を投影するプロジェクションマッピングもインタラクティブ表現としてファッションブランドのコレクションや企業のプロモーションで目にすることも増えた。私は3次元データのブレイクはアートとのコラボレーションからもたらされるのではないかと予想している。そう思うのは、それだけアーティストから3次元データを中心としたモノづくり技術に関する問い合わせが多いからだ。

 デザインを具体化するモノづくりは、アートを現実化するモノづくりになろうとしている。その事例を、次回以降も紹介していく。

関連リンク:
眞鍋大度氏Webサイト

Profile

神田 沙織(かんだ さおり)

1985年生まれ。ケイズデザインラボ プロジェクトマネージャー。オンライン3DプリントサービスINTER-CULTUREを経て現職。3Dデータ技術を用いたスモールチームによるデザインプロジェクトのマネジメントの他、3Dスキャナ、触感デバイスFreeForm、3Dプリンタなど3Dエンジニアリングツールのコーディネートを手掛ける。

「カワイイものも、かっこいい技術でつくられていること」を世の中に知らせるべく、「ものづくり系女子」「CAD48」リーダーとして活動中(CAD48はメンバー募集中)。夢は工場を建てること。Twitter @mousse_idesで毎日ものづくり系女子トーク展開中。

Facebookページ:ものづくり系女子


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