専門家じゃなくても大丈夫。環境配慮設計は怖くない――“持続可能モノづくり”へのオートデスクのアプローチ:環境配慮モノづくり最前線(3)(1/2 ページ)
オートデスクが考える環境負荷を考慮した設計業務のあるべき姿とは? 同社製品の環境規制対応のキーパーソンによると、誰もが分かる指針を示すことがポイントだ。
オートデスクは、2011年3月末、同社製品の最新版「Inventor 2012」で、新たな機能として「Eco Materials Adviser」を搭載した。@IT MONOistでは、2011年9月15日開催の同社イベント「Autodesk University Japan(AU Japan) 2011」に合わせて来日した米オートデスク サスティナビリティ プロダクトマネージャ サラ・クレスリー(Sarah Krasley)氏に話を聞く機会を得たので、ここで紹介する(取材日は2011年9月14日)。オートデスク製品における環境配慮や設計者の業務プロセスに対するアプローチが垣間見られるはずだ。
“持続可能モノづくり”へのオートデスクのアプローチとは?
編集部 製品開発・製造プロセスに限らず、環境負荷を考慮した設計業務を要求されるケースが増えています。また、設計者を支援するソフトウェアも出そろってきました。しかし、環境全般に対する負荷低減という非常に広い範囲を対象とすることから、各社各様のアプローチをしている印象です。オートデスクではどういったアプローチを取っているのでしょうか。まずは全体像をお聞かせください。
クレスリー 環境負荷低減のアプローチは、ベンダー側のアプローチが多様なのはもちろん、導入側の企業・事業部門・地域によってもさまざまなものです。
オートデスクではデジタルプロトタイピングの環境を提供することで、試作工数削減を進めています。
もう1つ、設計者個々の意識変化を促す仕掛けも提供しています。設計者が環境負荷を検討する際には、どうしても化学や各種法規制などに関する専門知識が必要です。しかし、設計者自身は、必ずしも化学的知識を持ち合わせているわけではありません。MONOist読者の皆さんの勤務先でも、恐らく環境負荷に関しての情報を理解しているのは、部門で1〜数人程度ではないでしょうか?
環境配慮設計に関わる情報がある特定の人に集約され、適宜それを各従業員に情報共有する、という流れが一般的だと思います。
しかし、いくら情報伝達したとしても法律も化学も専門家でない技術者の皆さんが共通の認識を持つのは難しいことです。よく経営判断や問題解決において「見える化」という手法が使われます。誰が見ても分かるように情報を示す手法です。設計場面での環境配慮に関する情報も、誰もが分かるようにツール側が判断材料を分かりやすい形で提示することが重要です。そしてそれをデザインプロセスのメンバー全員が理解することです。
企業や製品によっては、環境負荷を重視することもあれば、コストを重視することもあります。われわれはユーザーへのヒアリングを介して、環境負荷に関連した情報と同様に、コストや耐久性に関する情報も考慮しなくてはならないことを理解しました。Inventorに実装されているEco Materials Adviserではこれらについても可視化することで、全員が共通の認識(コストがオーバーしている、耐久性が過剰である、など)を持つことを支援します。
このために、オートデスクは英グランタデザイン(Granta Design)*と戦略的パートナーシップ契約を締結しています。Eco Materials Adviserにおけるアドバイザリ機能の基礎データは、全てグランタデザインが提供しているものです。材料に含まれる環境懸念物質の割合や原価なども、全てグランタデザインがクラウド環境上に用意したデータベースを参照しています。
*グランタデザイン グランタデザインのデータベースは、オートデスクの他、ダッソー・システムズ、PTC、シーメンスPLMソフトウェア、アンシスなどの主要ベンダー製品とも連携している。
編集部 データはグランタデザイン独自に収集しているものでしょうか?
クレスリー その通りです。グランタデザインが持つデータは常に最新のものになるよう、日々アップデートが行われています。設計時には、日々最新の情報で設計図面を評価できるので、デザインレビューにかかる時間も短縮できると考えています。
編集部 製品によってはサプライヤからの情報を、あるいは自社の基準値を参照したいケースがあるかもしれません。これらについて対応する予定はあるでしょうか?
クレスリー 現段階では参考値としてグランタデザインのデータベースを参照する仕様です。材料一般に関する情報を提供しています。
編集部 サプライヤから受け取ったデータシートを基にした物質情報を取り込むことは?
クレスリー 将来的にはそうした他のデータベースとの連携を実現したいと考えています。ただ、現段階でこのように材料一般に関する情報のみを参照する形で製品を提供するのには理由があります。というのも、川上・川下のメーカーでは、含有物質情報のマネジメントについてはある程度の対応ができていることがほとんどですが、川中の企業では、部品の材料データシートそのものが、残念ながら信用できない場合が少なくないからです。この状況でサプライヤ提供のデータを参照してしまうと、場合によっては対応が難しくなる可能性があります。例えば、ある部品のデータシートでは報告されていた情報が別のデータシートでは報告されていない、といった問題が発生した場合、個別に対処しなくてはならなくなります。
ツールとしては、間違った情報を参照してしまうリスクを取るわけにはいきません。サプライチェーン全体できちんとした対応が可能になる段階までには、Eco Materials Adviser側でも他のデータベースを参照する機能を提供したいと考えています。
ただし、このツールの第一義的な意味としては、個々の設計者の皆さんに、数ある材料の中から環境・コスト・再利用性などのさまざまなカットで比較検討した上で最適なものを選定してほしい、という点にあります。
まずは、材料一般の情報が完全にそろっている状態の(グランタデザインが提供する)データベースを利用することが重要です。
編集部 コストも同様でしょうか?
クレスリー コストについてもグランタデザインが用意している標準的な金額で算出します。このコスト情報参照は、過剰設計のチェックにも利用できます。もちろん、厳密な原価については自社基準を基に検討するような、他のデータベースを参照する機能についても将来的には検討したいと考えていますが、設計段階でさまざまな素材や形状を検討する際の基礎情報としては十分に機能すると考えています。
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