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「乗り心地が最悪」という常識を打ち破る電気自動車 SIM-LEI(4)(2/3 ページ)

SIM-LEIはタイヤの内部にインホイールモーターを備えたことで、333kmという走行距離を実現できた。その一方で、タイヤが重くなってしまった。一般にはタイヤまわりが重い車は乗り心地が悪くなるといわれている。SIM-LEIはこの問題をどう解決したのだろうか。

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SIM-LEIを生かすシャーシの条件

 それでは、過去の常識を覆すために、スプリングやシャーシにどのような改善を加えたのだろうか。

 吉田氏によれば、SIM-LEIのシャーシ開発目的は4つあり、それを実現するための技術テーマは3つに絞られていた。

 SIM-LEIは、平板状のコンポーネントビルトイン式フレーム内に電池などを格納し、モーターはホイール側に直接組み込んでいる(図3)。ホイールとフレームの間にサスペンションなどが入る。このような構造を採ると、フレームと電池の格納空間が共用でき、軽量化に役立つほか、重い電池を低い位置に置くため、重心が低くなる、さらに重要な部品がフレームと車輪に格納されるため、床上の空間、車室空間を広く取れる。これがSIM-LEIの強みだ。


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図3 SIM-LEIのフレームまわり フレームの全長にわたって2本のバッテリーが入り、4個のインバーターがフレームに内蔵されている。インホイールモーターはホイール内部に大部分収まっているが、一部、フレームとホイールの間にはみ出している。出典:SIM-Driveの資料を基に一部編集

 シャーシ開発目的は、まずSIM-LEIの強みを生かして、車室空間を広く取れるようなサスペンション構造を実現することだ。次に、連載の第3回で紹介した700Nmという強力な駆動トルクを生かしたシャーシを開発すること。3番目に投入したトルクを無駄にせず、航続距離に直結する低転がり抵抗タイヤを作ること、最後に量産可能な信頼性と生産性を備えたシャーシ構造を実現することだ。

 以上のような開発目標を、乗り心地の改善とあわせて、3つの技術テーマに落とし込んだ。

 まず、フロントサスペンション構造(ホイールアライメント)の小型化である。SIM-LEIは、左右の車輪の中心間距離(トレッド)が小さく、インホイールモーターをホイールと一体化している。そのため、モーターの狭幅化やバッテリービルドイン式フレーム(BBF)の狭幅化などが必要であり、そのような条件でも操縦安定性などが高くなくてはならない。特に「曲がる」ためにはフロントサスペンションの工夫が重要になる。残りの2つの技術テーマは、ばね下の課題解決とタイヤの開発である。

曲がるためのサスペンションとは

 サスペンション構造を設計するとき、前輪と後輪では条件が異なる。SIM-LEIは4輪駆動だが、前輪は駆動と制動の他に操舵にも使うからだ。そこで、まずフロントサスペンションから見ていこう。

 モーターについては、車軸構造や軸受け構造を改良することで、幅を狭くすることができ、モーターとフレームを接続するアームを短くすることで、小型化を実現した。しかし、これだけではホイールが路面の状態に応じて上下にストロークしたり、旋回したときのアームの動き(揺動角)が大きくなってしまう。そこで、ボールジョイントを内蔵したゴムブッシュ(防振用の軸受け筒)を開発し、サスペンションを完成させた。剛性を高め振動を遮断できるという。

 旋回性能を高める工夫もある。「従来の自動車は操舵の回転軸がタイヤの中心線とほぼ一致するが、SIM-LEIではホイール内にモーターがあるため、内側に寄る(図4)。キングピンオフセット(タイヤ接地中心と操舵の回転軸であるキングピン軸の地上交接点でのずれ)を減らし、スムーズに旋回できるようにするために、マルチリンクサスペンション方式とした」(吉田氏)。アッパアームとロアアームを使ったダブルウィッシュボーン式の独立懸架である(図5)。

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図4 フロントサスペンションの配置 タイヤ中心線と操舵の回転軸がずれており、この影響を排除するようなサスペンション配置を考えた。出典:SIM-Drive

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図5 フロントサスペンションの構造 フロントタイヤをアッパアームとロアアームを使って支えている。ホイールの中心軸を直接支えるアームなどはない。図右側はフレームの一部を切り出したもの。出典:SIM-Drive

 アームの揺動角がどのくらい大きくとれているかは、最小回転半径の小ささに現れる。SIM-LEIは、ホイールベース(前輪中心と後輪中心の距離)が2.95mと長いが、最小回転半径は5.5mと小さい。

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