MSCが粒子法、荷重伝達経路解析、とユニークな手法を採用:日本法人社長が説明 MSCニュースリリース
MSCの解析技術に、粒子法流体解析と荷重伝達経路解析といった新たな分野が仲間入り。MSCの加藤毅彦社長が、2011年5〜6月にかけてリリースした新製品について自ら語る。
エムエスシーソフトウェア(以下、MSC)の加藤毅彦社長が、2011年5〜6月にかけてリリースした新製品について自ら語った。MSCの解析技術に、粒子法流体解析と荷重伝達経路解析といった新たな分野が仲間入りし、世の中にある解析分野をほぼ網羅したことで、同社が掲げるMDO(複合領域最適化)の精度がより高まり、より高品質な設計を支援していけるとしている。
解析技術が充実してきたことで、より解析モデルの大規模化は進む。同社製品の2011版では、高度化した解析を行うためのHPCやGPGPUなどの並列計算性能も格段に向上。複数のGPUが扱えるのは、まだ同社だけだという。
GUIの改善にも取り組む。まずは「SimXpert 2011」から日本語化(同年5月16日リリース)し、後に「Marc Mentat」「Adams/View」「Patran」「SimXpert」も順次日本語化対応していくとのこと。また同社製品群について、CADトランスレーター、メッシングエンジン、ジオメトリエンジンの共通化を行う。
GUIの統一・改良、中小企業にスケールを合わせた「MD Nastran Desktop」の提供などにより、同社がこれまで強みとしてきた航空宇宙、自動車の大手メーカーばかりではなく、中堅部品サプライヤーや家電メーカーにも積極的にアプローチしている。
荷重伝達経路解析
MSCは2011年07月01日、慶應義塾大学との共同プロジェクトで開発した「Nastran U* Toolkit(ナストラン ユースター ツールキット)」を発表した。
「U*(ユースター)」は、慶應義塾大学高橋邦弘名誉教授が提唱する荷重伝達経路に関する新たな指標だ。このツールは、複合領域解析ソルバー「MD Nastran」にプラグインして使う。これまでの構造解析は、応力や変位の分布を見るものだったが、伝達経路解析は、力の伝わる経路を見るもの。流体解析では、圧力分布と流路を同時に見るのが通常だったが、構造解析の世界ではなぜかそういう指標の見かたをしなかった。そこに着目したのが、慶応義塾大学だった。
通常、応力解析をすると、荷重点や穴の周りに応力集中する場合があるが、荷重の伝達経路を見ると、そういう分布にならない。荷重は、荷重点から遠くに行けばいくほど、散っていく性質があるため。いままでの構造解析に加え、新たな指標を入れることで、違う角度からの検証を可能とした。
粒子法を採用
2011年05月24日に発表したNext Limit Technologies(以下、Next Limit)との技術提携により、今後、MSCのMD環境に流体解析が加わる。Next Limitの「XFlow」は、差分法や有限体積法ではなく、それよりもマイナーといわれる粒子法だ。この手法を同社が採用した理由は、以下に上げるような従来手法にない数々の利点だという。
- メッシュ不要:従来の流体領域メッシュモデルが不要となり、複雑な表面形状・現象を解くことができる。境界面の移動や境界面変形の取り扱いも容易。
- 粒子法ソルバー:ボルツマン方程式と圧縮性ナビエ・ストークス方程式の解法として、粒子法ベースの動力学的アルゴリズムを採用。LES(Large Eddy Simulation)モデリングおよび非平衡壁モデルも利用可能。
- 高度なモデリング機能:大規模かつ複雑なモデルを扱える。動きのある部品、強制運動または拘束運動または接触モデリングを伴う解析の設定が大幅に簡素化される。
- 高度な解析が可能:伝熱解析、多孔質媒体への流入、非ニュートン流動および多孔質通過を含む境界条件、およびファンモデルなどが扱える。
- アダプティブ・ウェイク・リファイン(Adaptive wake refinement):流れに合わせて自動的に、境界面を移動・発達させる。
また、HPC(並列計算)性能が優れていることも挙げられる。コア数を増やしていくことで衰えず、リニアに推移する。
Next Limitは、もともとは工業技術ベースではなく、映画の特撮CGを手掛けていた企業だった。故に、結果表示の画像が非常に詳細で、写実的に表現することを得意としている。
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XFlow from MSC Software Corporation on Vimeo.
SPDMの取り組み
日本ではあまり事例がないという、シミュレーションプロセス・データ管理システムのSPDM。同社のSPDMである「SimManager」は、自動車メーカーAudiなど欧米企業だけではなく、最近は中国や韓国企業でも導入があるという。プロセスの統合管理が不得手といわれる日本企業でも、欧米やアジア企業のトレンドのようにSPDMをうまく適用していかないと、国際競争力が弱くなっていってしまうのではないかと加藤氏は言う。
従来は、詳細設計の3次元モデルをCAEで計算するのが主流だったが、SimManagerはベースモデルを概念設計と詳細設計で共有し、プロセスと関連させることが可能で、解析データを概念/詳細設計で行き来させてチューニングし、データの精度を高める、あるいは設計を進化させることが可能としている。
日本は大丈夫!
日本の物価指数は下がり続けており、中国にGDP(名目国内総生産)が追い抜かれたと報道された。また、日本における製品開発の国際競争力の低下も叫ばれる。
しかし加藤氏は、悲観的になる必要はないと考えているという。確かに経済規模について、日本と中国はほぼ同じくらいだが、人口に対する技術者・科学者の比率、およびGDPあたりの研究開発費の比率は大きく違い、日本の方がはるかに優れている。経済不況化でも円高を保ち続ける日本の対外純資産の大きさとハイテク領域の潜在能力は、海外で高く評価されていると加藤氏。「そういう強みを忘れずに、もっと自信を持って、震災復興や、安全で安心なモノづくりをしていただきたい。そこで、シミュレーションも有効活用したい」(加藤氏)。
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