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米PTCユーザーイベント、包括的PLMやサービスへの注力を強調PlanetPTC Live 2011〜ネバダ州ラスベガス〜

米国ネバダ州で行われたPTCのユーザーイベント「PlanetPTC Live 2011」では、「Creo 1.0」が正式リリースされ、各製品について紹介された。

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 PTCのユーザーイベント「PlanetPTC Live 2011」が、2011年6月12日から15日までの4日間にわたって米ネバダ州ラスベガスで開催された。今回で21回を迎える同イベントは、製品ロードマップの紹介やユーザーカンファレンス、ハンズオン・セミナー、ユーザー事例など100以上のセッションが用意され、世界各地からユーザーを始めとする約2000人が参加。ストリーミング配信でも約2000人が視聴したという。ツール開発者やユーザー同士のコミュニケーションの場にもなっているイベントだ。

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会場風景
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Creoのロードマップ

 その中でPTCが特に強調していた事業戦略の1つが、PLMを製造工程全般にわたって包括的に展開することである。一方同イベントでは、CADデータをあらゆる工程で活用する統合プラットフォーム「Creo 1.0」も正式リリース。これらの話題を中心に、開発メンバーやユーザーのインタビューを交えて紹介する。

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PTC CEO James(Jim)E. Heppelmann氏

「PLMのマーケットリーダーに」

 PTCのPLMツール「Windchill」については製造工程の上流から下流までを包括的に管理するPLMツールとして、マーケットリーダーを目指す方針であるという。2011年4月にリリースしたWindchill 10.0は、開発に2年をかけ、研究開発には1億ドルを投資した。

 特に以前のバージョンから変わった点として挙げていたのが、使用感の大幅な向上だ。「使い方をいちいち意識させず直感的に使える」(PTC 製品開発部門エグゼクティブ バイス プレジデント Brian Shepherd氏)という。Webツールの専門家からも「見た目はもちろん、ソート機能など使い勝手がガラッと変わった」という評価を受けている。「包括的なベンチマーキングも行っており、その結果、他社と比較しても最高に使いやすいツールという感触を得ている」(PTC グローバル サービス・PTC University 担当エグゼクティブ バイス プレジデント Marc Diouane氏)とのことだ。なお開発に当たっては、日本のユーザーからのヒアリングを多く行い、機能に反映しているという。

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PTC 製品開発部門エグゼクティブ バイス プレジデント Brian Shepherd氏

 一方、開発に当たっては、導入後にカスタマイズをなるべくしないことを前提に開発が進められた。それにより、バージョンアップにもすぐ対応でき、優れた機能を迅速に現場に展開することを狙っている。またもし企業同士が合併しても、同じWindchillを使っていればすぐにPLM環境を統合できるというメリットもあるという。

ハード・ソフトの区別なく連携して管理

 今後さらに包括的なPLMツールを目指す上で、同社が重要なポイントだと主張していたのが、2011年5月に完了したMKSの買収である。MKSは組み込みソフトウェア開発のプロジェクト管理ツールを提供する会社だ。「MKSは世界最高の組み込み開発に関わる会社なので買収に至った」(Shepherd氏)という。近年、自動車や電子機器においては組み込みソフトウェアの重要性がますます増加している。例えばエアバッグや指を挟まないパワーウィンドウ、エンジン制御などのソースコードはサプライヤから提供されている。

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MKSの管理機能をWindchillに統合する

 ハードウェアだけでなくそれらのソフトウェアも含めて管理する環境が必要になる。自動車部品メーカー独ContinentalのVice President Product Life Cycle ManagementのAndre Radon氏がイベントで述べていたのが「将来的にはソフトとハードの最適なバランスを設計段階から検証しなければならない」という言葉だ。PTCではこれらのユーザーの声に応えた包括的な管理ツールを、MKSのリソースを生かしながら開発していく予定だという。

社内版ソーシャルネットワークも提供

 Windchillの製品群の1つで興味深かったのが、「Windchill SocialLink」だ。2年前からアイデアはあったが、2011年4月から販売している。PTC社内でも実証試験中だという。SocialLinkはWindchillが管理するデータをさらに活用するソーシャルネットワークといえる。例えばある人が開発に関して何か疑問をつぶやくと、それに他の人が応えてくれたり、同様のプロジェクトのデータやそれに関わった人が表示されたりする。人だけでなく開発中の製品自身が状況を報告する機能も検討しているそうだ。「将来、電子メールのように、当たり前のツールになる可能性は大きい。次世代のエンジニアにとってはこういったツールを導入しているかどうかは就職を決める際の選択肢の1つになるかもしれない」(Shepherd氏)。

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Windchill SocialLinkの使用画面

3次元CADデータと連携したイラスト作成が重要に

 「Windchill Arbortext」は、アフターサービスで利用する組み立てマニュアルなどの技術文書を作成するツールだ。設計者でなくともCADデータを流用し、技術文書を簡単に作ることができる。CADデータとリンクしており、変更があればそれを反映して常に最新の状態を保つことができる。3次元のイラストやアニメーションによって、より文字を減らし直感的に理解しやすい文書を作ることができる。

 イベントのスピーカーとして登壇していた建設機械メーカーの米Caterpillarでは、Arbortextを使い400人がテキスト作りに携わり、20万名がそれを利用している。導入した理由は、社内開発のツールを使っていたものの、維持費が高く、使いにくかったからだという。一番のデメリットだったのが、「ディーラーがカタログデータを探すのに時間がかかっていた」(米Caterpillar Global Technical Information Solutions Manager Customer Services Support DivisionのLeslie Paulson氏)ことだ。従来は1時間ほどかかっていたのが、Windchillと連携した管理体制によって、数分で探せる環境を整えられたとのことだ。さらに簡単に部品をオーダーできる仕組みを整えた。「部品の売り上げは、オーダーが簡単かどうかにかかってくるため、効果は大きかった」(同氏)とのことだ。

 Arbortextの将来のアイデアとしては、「モバイル端末のカメラを向けるとその説明書を自動で呼び出したり、修理の必要な箇所を自動で検出したりといったことを考えている。さらにはカメラのリアルタイムの映像上に説明を加えるといったAR(拡張現実)技術も実現したい」(PTC ビジネス ユニット エグゼクティブ バイス プレジデント Bill Berutti氏)とのことだ。

設計データのプラットフォームを刷新

 今回のイベントでPTCはCreo 1.0の正式リリースを発表した。Creoは設計データを製品開発からアフターサービスまで幅広く活用するためのプラットフォームという位置付け。全部で9つのツールが用意され、そのうち7製品については既に提供されている。ラインアップは以下のようになる。

  • 「Creo Sketch」:2次元のラフスケッチなどを手軽に描けるコンセプトデザインツール。2011年7月末にリリース予定。
  • 「Creo Layout」:拘束などをつけず簡単に描ける2次元の概念設計ツール。寸法やアノテーションなどの情報を追加したデータを3次元設計に引き継ぐことができる。2011年晩秋にリリース予定。
  • 「Creo Parametric」:3次元パラメトリックCAD。旧「Creo Elements/Pro」。
  • 「Creo Direct」:3次元ダイレクトモデリングCAD。旧CoCreateとは別の製品だということだ。
  • 「Creo Simulate」:解析専任者向けの構造解析や熱解析などを行うCAEツール。他社のCAEツールとの連携による連成解析などの機能も提供する。
  • 「Creo Schematics」:回路や配線、配管などの2次元の経路図に特化したCADツール。
  • 「Creo Illustrate」:CADデータを基にサービス・組み立て向け文書用のテクニカルイラストや3次元アニメーションを作成するツール。
  • 「Creo ViewECAD」:電子回路設計CADデータのビュア。
  • 「Creo View MCAD」:機械設計CADデータのビュア。他社CADで作成したデータも読み込むことができる。断面を切ったり干渉チェックや寸法を測ったりといった簡単な解析機能も付いている。
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Creo 1.0

 Creoは「メカニカルCADにある問題を解決するために生まれたプラットフォーム」だという。「これから20年のメカニカル設計を見据えて開発した」と意気込む。同社が考える現状のCADの課題は大きく4つある。必要な人に必要な機能だけを搭載したアプリケーションを提供する必要があること、それぞれのアプリの連携、他社CADデータとの連携、アセンブリデータの効果的な管理と活用だ。それぞれを解決する技術が「Any Role Apps」「Any Mode Modeling」「Any Data Adoption」「Any BOM Assembly」ということだ。

 とくに他社CADとの差別化要因の1つとして同社が挙げていたのがAny Mode Modelingだ。従来、PTCにはパラメトリックという多機能で操作の難しいCADしかなかった。しかしCADデータの応用範囲が広がるにつれ、用途および使い手に必要な機能に特化する必要が高まりつつある。そこで「ユーザーの役割に特化した機能を盛り込んだ」ツールの開発に注力。特にどのようにパラメトリックとダイレクトとの連携を図っていくかが、開発に当たって大きな課題だったという。その結果「シームレスなつながりを重要視する人にとって魅力的な製品になった」(PTC プロダクトマーケティング シニアディレクタのSandy Joung氏)。

サービス事業を大きな収入の柱に育てる

 イベントではPTCのサービス体制についても言及した。グローバルサービス部門ではコンサルティングと教育・トレーニングの2本柱で事業を進めていく。ツールを導入するだけではなく、その力を十二分に引き出してこそビジネスが成功するとの考えからだ。サービス部門が約1400人で、そのうちPLMに特化しているのは約200人だという。「日本ではソフトを用途によって替えていく考えが強く残っていると思う。しかし製品開発、製造のグローバル化が進んでいく中、PLMツールの重要性は高まる。今後、日本での導入は増えていくだろう」(Diouane氏)。

 PLMの導入に成功するための要因は大きく3つ。第1に、導入効果を得るためのロードマップがしっかり描かれていること。第2に、作業チームを作るなど企業内での導入の体制を整える。第3に、どれだけ実現できているかのスコアを記録し、成果を可視化する。一番大切なことは「Windchillを入れる前に、自分たちにとって必要なものをじっくり判断すること」(Radon氏)だ。PTCでは最初にとことん課題や現状を聞き出し、どこにどのような機能を活用すると高い費用対効果を得られるかを洗い出す。そして投資効果と、実現のためのロードマップを提示するという。

 また「導入に当たってはサプライヤを特に最初の段階から巻き込むことが必要。注文書を出して部品を受け取るという単純な話ではなくなっている。機密には配慮しつつ必要に応じてデータを共有している」(軍需製品メーカーのRaytheon Vice President,Integrated Defense Systems Stephen R.Olive氏)という。

 なおサービスはPTCだけではカバーできないため、パートナーと協力していきたいということだ。「どこでもいいというのではなく、PTCとパートナーとで同じ品質を提供できるということを基準に進めていく」(Diouane氏)とのことだ。

 2011年のPTCユーザーイベントでは、CAD関連製品のラインアップの大幅リニューアル、組み込みソフトウェア関連会社の買収という大きなニュースが相次いだ。将来出る機能やサービス関連の取り組みも含め、今後のPTCの動きに注目したい。

Profile

加藤まどみ(かとう まどみ)

技術系ライター。出版社で製造業全般の取材・編集に携わったのちフリーとして活動。製造系CAD、CAE、CGツールの活用を中心に執筆する。



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