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品質向上はトヨタが“反面教師”――“企業風土に見合った経営”を徹底する現代自動車井上久男の「ある視点」(3)(1/3 ページ)

日本市場以外で高い成長を見せる韓国の現代自動車。取材から見えてきたのは、為替差益やマーケティング力だけではない、日本企業を反面教師とした経営方針だ。

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 現代自動車(傘下の起亜自動車<以降、起亜>含む)の快進撃が続いている。2011年の現代自動車の世界生産は10%増の633万台を見込む。トヨタ自動車(以降、トヨタ)が東日本大震災の影響で部品供給が止まり、中国や米国などでも生産が落ち込んでいるため、米ゼネラル・モーターズ(GM)、独フォルクスワーゲン(VW)に次いで現代自動車が世界3位に入る可能性も出てきた。

 好調な現代自動車の状況を決算データから見ていくと次のようになる。

 2010年1月―12月期の連結決算は売上高が前年同期比23.1%増の112兆5897億ウォン(約8兆5680億円)、営業利益が62・2%増の9兆1177億ウォン(約6938億円)、純利益が97.4%増の7兆9829億ウォン(約6074億円)となり、いずれも過去最高を更新した。営業利益率は8.0%と自動車産業界では高水準にある(注)。


注:参考資料としてHyundai MotorsのIR情報がある。


韓国企業が強いのは為替差益のためではない

 グローバル販売が24%増の574万台と好調で販売増が好業績の主な原因だ。現代自動車が好調な理由について、日本の報道ではよくドルなどに対してのウォン安による為替差益が挙げられているが、実はいま、ウォン高の傾向にある。2010年の連結決算の期間中、ドルに対して8%、ユーロに対しても14%のそれぞれウォン高となっている。それでも好業績を維持できたのは、車の骨格となるプラットホーム(車台)の共有化などコスト削減も同時に遂行したことによるものだ。

 世界販売の内訳をみても、韓国(現代自動車=6.1%減、起亜=17.4%増)、米国(現代自動車=23.7%増、起亜=18.7%増)、欧州(現代自動車=7.4%増、起亜=18・7%増)、中国(現代自動車=23.3%増、起亜=38.2%増)、インド(現代自動車=23.1%増)、その他(起亜=44.7%増)となっており、現代自動車が韓国内で販売を落とした以外は全世界で2桁の伸び率を示している。中国に続き、2010年は欧州でも販売台数でトヨタを初めて追い抜いた。

 いわゆるボリュームゾーンである世界1位と2位の中国と米国の市場でも現代自動車は強い。2010年に中国では起亜を含めて約104万台を売って初の大台(100万台)越えを果たしている。中国市場では1位米GM、2位独VWに次いで3位をキープした。

 車名別の販売ランキングでは、日本車を代表する「カムリ」「アコード」がトップ10から消えたのとは対照的に、北京市内などでタクシーの主力となっている現代自動車のセダン「エラントラ」が、BYDの「F3」やVWの「ラヴィーダ」に次いで3位に入っている。

 米国では乗用車販売で9年連続1位のトヨタ「カムリ」の2010年の販売台数は前年比8%減の約37万台。これに対して現代自動車「ソナタ」は50%増の約18万台と勢いでは勝る。米国でのメーカー別販売を見ても、1位がGMで前年比7%増の約221万台、2位がフォードで20%増の約193万台、3位が0.4%減のトヨタで約176万台、4位が本田技研工業で7%増の約123万台、5位がクライスラーで10%増の約109万台、6位が日産自動車で18%増の約91万台、7位が現代自動車(起亜を含む)で22%増の約89万台。上位メーカーでは現代自動車の伸び率が最も高く、日本勢の背中が見え始めた。

 リーマンショック後の2009年1月、現代自動車は北米で「車両返品プログラム」と呼ばれる販売制度を開始した。失業などによって車のローンが支払えなくなったら、購入後1年以内であれば返品を受け付けるという制度である。これが景気低迷で失業率の高まった米国では奏功し、販売を伸ばした。現地の実情に合った大胆なマーケティングといえるだろう。

決算報告書の比較で見えてきた両社の差

 その現代自動車の追い上げを警戒しているトヨタの2011年3月期の連結決算と現代自動車の業績を比較すると勢いの差は一目瞭然だ。

 トヨタは売上高が0.2%増の18兆9936億円、営業利益が約3.2倍の4682億円、当期純利益が94.9%増の4081億円だった。世界販売は71%増の731万台。


注:トヨタ自動車の2011年3月期決算の資料は同社IR情報のWebサイトに公開されている。


 リーマンショック後の赤字から順調に回復してきたものの、営業利益率は2.5%と現代自動車に比べてかなり見劣りする。トヨタの為替レートもドルに対して7.5%、ユーロに対して13.7%のそれぞれ円高であり、現代自動車の置かれている状況と大差ない。トヨタ役員は、現代自動車との競争で負け始めている状況について、その原因の1つに「為替」を挙げるが、現状を見る限り、それは言い訳に聞こえる。

 前述したように、現代自動車の快進撃の理由を、日本国内では、「為替」や「マーケティングの上手さ」ととらえる向きは多い。それに加えて大幅な値引き販売によるシェア獲得を理由に掲げるメディアもある。現代自動車製の車は「安かろう、悪かろう」というイメージが日本ではいまだに持たれている。確かに、日本では1980年代に北米で品質問題を起こし、一時的に撤退した印象がいまでも強い上、販売が伸びない日本市場からは撤退したため、プレゼンスが低いことも影響しているのだろう。

 ただ筆者は、為替やマーケティング技術だけで現代自動車を見ていてはその成長の源泉はどこにあるのかを探る上で方向性を見誤ると感じている。本質的な原因をもっと追究すべきだと考える。しかし、現代自動車は日本のメディアの取材にほとんど応じないため、その追求は難しいが、韓国の学者の論文やレポートによってその実態が明らかになりつつある。しかし、こうした論文やレポートの内容は地味であり、国内の大手メディアで取り上げられることはほとんどない。本稿ではそれらの内容に筆者の解説を加えながら紹介する。

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