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他分野からも知恵をどんどん借用しよう災害未然防止のための設計とTRIZ【活用編】(3)(1/3 ページ)

解決が難しそうに見える自分の問題は何ら特別なモノではない。似たような問題がほかの分野にも存在しているかも?

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やりたいことは明確なんだけど…

 TRIZには、「自分の問題は既に他分野では解決されているのでは?」という考え方があります。それは逆に言えば、解決が難しそうに見える自分の問題は何ら特別なモノではなく、似たような問題がほかの分野にも存在していて、既に解決されている可能性がある。だから、その解決方法を参考にできないかという思想です。

 前回、TRIZには、3つの矛盾があると述べました。

  1. 管理的矛盾(Administrative Contradiction):やりたいことと実現方法との矛盾。
  2. 工学的矛盾(Engineering Contradiction):いわゆる技術的な背反特性のこと。
  3. 物理的矛盾(Physical Contradiction):目的達成のため、システムに真逆の特性が求められる。

 この中で、一番目の管理的矛盾は、矛盾という表現を使っているものの、厳密に言えば「目的を達成する方法が分からない」という状態なわけですから、前回のテーマからは外しました。しかし、この問題こそ他分野の知恵を活用することで革新的なアイデアにつながるヒントが存在する可能性があるのです。

 例えば、衣類の汚れを落とすために、いまは水と洗剤を使っていますが、そうすると乾かす手間(時間)が掛かったり、洗濯を繰り返すことで衣類の布地が傷んだりすることもありますね。だから、ここで新しい「汚れを落とす方法」があれば面白いかもしれないと考えていくのです。つまり、既存のシステムを否定し新しいシステムを考えていくことがシステムの進化につながるわけです。

 洗濯機の場合、細分化の視点での進化の法則を参考にすると、

   固体(石けん)→粉体(洗剤)→液体(液体洗剤)→気体(除塵気体?)

 ……すなわち、「箪笥(たんす)の中で、気体を使って衣類に付いた汚れを落とすような仕組みを取り入れられないかな」と考えることができます。もちろんそこには、他分野(洗濯機業界以外)の知識や知恵が必要になりますね。

 これまでの技術システムの進化の状態を俯瞰(ふかん)すると、例えば蓄音機からレコードに進化し、その後CDやDVDディスクに進化することで、従来のシステムが持つ欠点を改善しつつ、新しい仕組みを取り組むことでラジカルなイノベーションを起こしてきました。近々の事象では、ガソリン自動車からハイブリッド自動車を経て電気自動車に至る流れも同じことだと思います。

 このように、従来の自分の業界だけの知識にとどまるのではなく、他業界の知識や情報を参考にして、自分たちがやりたい機能を実現する別の方法を模索するのがTRIZのもう1つの使い方です。ただ、ここでも漫然と「いまの方法(例えば掃除機)とは違う、何か画期的な掃除機ができないかな?」と考えるだけでは何を進みません。

 やはり、これまでと同様に、

  • 「システムの目的は何なのか?」
  • 「問題を起こしている部品の目的は何なのか?」
  • 「根本原因の実現手段として、ほかの方法がないのか?」

 という、具体的な問題意識を持って探索することが大切です。

図1
図1 TRIZの思想と手法の関係性

実際に他分野の知恵を借用してみよう

 TRIZで整理された進化のパターンの1つに、「システムはSカーブ状に進化する」というものがあります。そしてそれが永遠に繰り返されることでシステムの理想性が向上し、消費者の使い勝手の良い物ができるという考え方です。消費者が購買するものは何かと考えると、それはシステムの機能であることに気付きます。例えば消費者は、電球や蛍光灯を購入しているのではなく、「明るさ(光)」を購入しているのですね。だからラジカルなシステムの進化が起きるときには、既存システムから、次のS字カーブ(次世代システム)へのジャンプが見られるのです。照明は、蝋燭(ろうそく)やランプなどから、電球(白熱灯)および蛍光灯に進化し、現在では震災の影響も受けてLED照明の普及の入り口に入っています。さて次に来るのは何でしょうか? 自らが発光する物質が発見されるでしょうか? それとも全く別の「光」の概念になるのでしょうか? 楽しみですね。そういう場合に使用するツールが「科学的・工学的知識データベース」なのです。

図2
図2 知識データベースからのアイデア発想フロー

 繰り返しになりますが、この手法の前提条件は、TRIZの本質でもある「自分の問題は、ほかの分野では既に解決済の可能性があること」と「優れた技術革新は、他分野の知識から引き起こされること」を一度受け入れて考えることです。でなければ、他分野の優れた知識や特許を見ても、自分の頭の中で何も触発せず、ただ「こんなの使えないよ」と嘆くだけになります。

 もう1つは、実現したい目的機能を明確にすることが重要です。例えば、掃除機の機能は、「部屋をきれいにすること」と漠然と定義するのではなく、「異物を吸い込むこと」であり、さらに「床から異物を引き剥がすこと」になります。このように具体的な目的機能を抽象化できて、初めて、TRIZの知識データベースが活用できるのです。だから、掃除機の場合は、現行のコンプレッサーを使った方法だけではなく、粘着物を活用したり、熱変化や磁力を使ってゴミを除去したりするという方法もありそうですね。

 さて、自動車のブレーキシステムを事例に、この知識データベースからアイデアを考えてみましょう。機能-属性分析結果を観察すると、ところどころに有害作用や不足作用が存在することが分かります。それらを基に、矛盾モデルを作成して発明原理を活用することも可能なのですが、その部分に新しい手段を応用することで、ラジカルなイノベーションを目指す方法もあるのです。

 進め方は以下のようになります。

  • 機能(デバイス)モデル上での、有害作用や不足作用に着目する。
  • それらの表現を抽象化して言い換えてみる。
  • 知識データベースで検索すると、以下のような事例がピックアップされる。
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