SolidWorksの考える「CADの15年後」とは:CADベンダーのエグゼクティブが想像する未来
米ソリッドワークスのCEO自らが、自社の製品のことや、15年後の3次元CAD像などを語った。キーワードは、人々の“つながり方”の変化。
このたび、2011年1月に就任した米ダッソー・システムズ・ソリッドワークス(以下、「ソリッドワークス」)のCEO ベルトラン シコット(Bertrand Sicot)氏が来日。同社製品のビジョンや、未来の3次元CADの世界について語っていただいた。この記事では、そのインタビューの内容をお伝えしていく。
ソリッドワークスユーザーの約8割は、中小企業だ。まずは、そんな同社ユーザーたちのビジネスやツールのニーズがどのように変化してきているのか尋ねていった。
――最近の中小企業におけるモノづくりでは、MONOistでも取り上げているマイクロモノづくりなど、新たなビジネスの形、企業間コラボレーションの形が生まれてきています。そのような流れについて、ソリッドワークスではどうお考えですか。
シコット氏:まさにイノベーションのシフトが起こっていると思います。今やインターネットによって世界中とつながることが可能です。中小企業も、Web上でノウハウを(パートナーなどと)共有することができるようになりました。東京にいても、北京やイタリアとやりとりができ、パートナーを見つけることができます。まさに明日は、ソーシャル・イノベーションの世界になるのではないかと思うのです。世界中でバーチャルチームを立ち上げて、製品開発するようになっていくのではないでしょうか。
そうするために、「Facebook for Engineering」(※現時点、実在サービスではありません)のような仕組みがあればいいなと思っています。市場(ユーザー)が、そういった動きを求めているのであれば、当社の製品がお役に立てるチャンス。(当社の親会社である)ダッソー・システムズの「Swim」もそれと同じような仕組みですね。
当社のユーザーの中でも、そうしたソーシャル・イノベーションに取り組みだした例が実際にありますが、まだまだ始まったばかりといえます。
ENOVIA V6を基盤としたデータ共有ツール「SolidWorks n!Fuze」は、SolidWorks初のオンラインコラボレーションツールです。そういった流れの渦中の中小企業でどんどん活用していただきたいと思います。
――ちなみに、SolidWorks n!Fuzeは、「Product DATA Sharing(PDS)」「Solid Works Connect」と発表されるたびにプロジェクトネームを変えてきたが、こちらはもう完全にフィックスした製品名である。
中小企業の面白事例
――最近のユーザー事例で「これはすごい」と思った事例を教えてください。
シコット氏:ちょうど先週、面白いユーザーに会ってきました。Zikeという小さな企業なのですが、2つのペダルとブレーキが付いたバイク(ザイク セイバー:Zike Saber)を作っています。人間の想像力というのは、本当に素晴らしいものですね。シンプルなコンセプトですが、画期的なシステムだと思いました。Zikeは、典型的なSolidWorksユーザーでもあるとも思います。
シコット氏:これです。とても面白いでしょう? 私も実際に乗ってみましたが、楽しかったです。
ソリッドワークスの今後は?
――Web上で、IDとパスワードを入力して使えるようなSolidWorksは登場するでしょうか?
シコット氏:残念ながら、現時点では技術的に無理です。もちろん、いまはプロトタイプ段階で、将来的には可能だと考えています。3次元CADの動作は、エンティティを選択する作業など、インタラクティブなものでなくてはなりません。CADをWebブラウザ上で使おうと思ったとき、そういった動作への保証が問題となってきます。将来は、シンクライアントの技術の進化により、それが可能となるでしょう。
――現在、ダッソーグループでは2次元CAD「DraftSight」を無償で提供していますが、3次元CADをソリッドワークスで無償提供することは今後あり得るのでしょうか。
シコット氏:いいえ、今は考えていません。3次元CADについては、現在も、お客さまが高い価値を感じていると考えているからなのです。
2次元CADは古くからある技術です。新たなイノベーションも、もうないでしょう。お客さまにとって、投資する価値はあまりないにも関わらず、例えばWindows XPから7に移行するなど、マシンのOSが変われば、新たにCADへ投資をしなければなりません。そういうわけで、2次元CADを無償化することにしたのです。ただし、お客さまに投資をしていただけそうなサポートについては、有償としています。
3次元CADは、設計・製造にとって今やなくてはならないツールです。また、3次元データというものに対し、業界全体が開かれてきたようにも思います。なので、3次元CADは、まだまだ新たな領域へと広がっていく、ひいては当社製品を導入していただくチャンスがまだまだあると考えています。
3次元CADの未来
――SNSなどのサービスにより、個人だけではなく、企業間の“つながり方”もずいぶん変わってきています。
シコット氏:人と人がつながらなければ人生は始まりません。約100年前、直接顔を合わせたコミュニケーションが必須だった中、電話が登場しました。当時はそれが画期的なことでしたね。その後、しばらく時間がたち、インターネットが登場し、そこで新たな“つながり方”が生まれました。
例えば、いまでは携帯電話からフライトのチェックインが可能です。一昔前まで、搭乗券が必要でしたが、その当時からすれば夢のような仕組みでしょう。また、いまでは食事をしながら、ちょっと思い付いたことをすぐ、手元のスマートフォンで調べることもできます。
それでも現在は、インターネットのパワーの10%ぐらいしか使われていないと思うのです。ですから、これからもっとクリエイティブなサービスが作られていき、人々の生活の仕方はもちろん、ビジネスの仕方、ビジネスのコラボレーションの仕方も大きく変わってくるだろうと思います。
――シコット氏は、ソリッドワークスに入社して15年目とのことですが、さらに15年後には3次元CADの世界はどうなっているでしょうか。
シコット氏:ソリッドワークスは、これまで主に製造業で広がってきていました。2011年1月には、「SolidWorks Live Building」という建築業向けの製品(こちらもオンラインソリューション)も発表しています。15年後には、そこでもメジャープレイヤーであってほしいですね。
また、3次元CADをめぐるテクノロジーは、いまと比べ様変わりしているでしょう。現在は、3次元モデルを眺めるのは、平らなスクリーンです。ツールの操作は、キーボードやマウスでしますね。しかし、3次元テレビや、任天堂の3DSのようなゲームなどが市場に出てきています。15年後は、マンマシンインタフェース自体が大きく違っているのではないでしょうか。いま、タブレットPCでは絶対にできない作業も、そのころには性能が格段と向上することで、当たり前に行われる作業になっているのかも。また、3次元データをモバイル機器で持ち運べることを前提としたアプリも増えていくのではないかと思います。
ハードウェア、メソドロジー、プロセス……など、こうした物が全て組み合わさり、さまざまなことが大きく変化していくのですね。
(先ほども“つながり方”がどんどん変化する話が出てきましたが)私の16歳の息子は電子メールのやり取りでアウトルックを使わず、Facebookを使っています。つまり、私たちが当たり前のように使っているツールを使わない世代になっているのです。テクノロジが進化するだけではなく、人々がそれらを使って対話をする方法自体が変わっていく。まさに革命的な変化スピードといえましょう。たった15年ほど前に生まれた電子メールがもう陳腐化しているのですから。
そうして考えていくと、15年後の世界というのはとてもエキサイティングですね。私自身はもう引退しているでしょうけど(笑)。
ともかく、テクノロジーと言うのは新たなチャンスを広げてくれるものだと思うのです。ソフトウェアベンダーとしてのわれわれの仕事は、ユーザーが求めているものと、その時点で使えるテクノロジーとの間の橋渡しであると考えています。現時点で使えるテクノロジーをまとめ上げ、ユーザーが求める製品をくみ上げるからこそ、そこに価値が生まれてくるわけです。
シコット氏、3次元の未来を“妄想”す!?:「私の描く3次元CADの将来ビジョンですよ(笑)。3次元の基本は、立方体。で、それにちょっと笑わせてみようかと」。3次元CADの未来は「皆が笑顔になれる世界」。
――15年後には、クラウド上の3次元CADは実現していますか?
シコット氏:15年はかからないと思いますが、いつになるかちょっと分からないですね。ここに水晶玉を持ってくればよかったですね(笑)。
東日本大震災について
2011年3月に襲った東日本大震災で被災した方々に向け、シコット氏からエールをいただいた。また、ソリッドワークス・ジャパンで取り組んでいる被災地支援についてもお伺いしてみた。
――東日本大震災について
シコット氏:日本は素晴らしい国で、そこには素晴らしい国民がいると私は思っています。ですので、明らかに次のページをめくるときが必ずくると思いますし、既に第一歩を踏み出しているとも思うのです。
既に起こってしまったことは変えられませんが、これからのことなら変えられます。日本は必ず、そういった意気込みでもって、時間はかかるのかもしれないけれど、必ず復興を遂げると信じています。
――被災地支援について
シコット氏:日本のお客さまの中には、被災された方々が多くいます。ビジネスを持ち直していただくためにも、例えばライセンシング面で融通を利かせるなどの支援のやり方があります。ビジネスはビジネスだとは考えていますが、お客さまの力になって差し上げなければいけない局面も当然あります。詳細は、大古(ソリッドワークス・ジャパン 代表取締役社長 大古俊輔氏)から聞いてください。
大古氏:被災されたお客さまの中には、CADのライセンスを紛失してしまったり、CADをインストールしたPCそのものが故障してしまったりといった事態に見舞われた方もいらっしゃいます。当社としては、そうしたお客さまに対して、証書などを持っていなくてもライセンスを再発行するなどの取り組みをしています。ベンダーとして当然の取り組みではありますが。こちらは社員からの自発的なアイデアなのですが、代理店さんが当社のノベルティグッズを売ってくださり、その代金を被災地へ寄付するといった取り組みも実施しています。
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