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日本復興のヒントは、シンガポールにあるか?経済研究所 研究員は見た! ニッポンのキカイ事情(6)(4/4 ページ)

経営環境が悪化すると企業の製造拠点の海外移転(空洞化)への懸念が。それを乗り越えたシンガポール企業から学べることは?

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4.今後の国内製造業への示唆

 かつて、アジア通貨危機による製造業の空洞化が生じた際、シンガポールのモノづくり中小企業は金融人材や海外人材を積極的に活用することで国際化を推進しました。その上で、欧米系企業が主要な地位を占めている航空機や医療機器などの次世代産業に参入していきました。多国籍企業出身で、国際的な感覚と人脈が豊富な経営者の存在もそうした変化の基盤になったと言えます。また、シンガポール政府が物流などのインフラ整備や国際商談会・展示会への参加支援を強く推進していたことも指摘しなければいけません。

 実際、あるシンガポール人の中小企業経営者によれば、

 「シンガポール企業の生産は国内3割、海外7割」

 とのことです。シンガポールのモノづくり中小企業は製造業の海外生産展開が進展する中で、海外企業・市場とつながっていきました。そして、全体の生産規模を拡大させながら、海外需要をうまく国内に還流させることで、製造業の維持・発展と空洞化の克服を成し遂げていったのです。

 冒頭では、今後、日本国内で製造業の空洞化が加速していく可能性を指摘しました。もちろん、今の日本と15年前のシンガポールの状況は異なります。しかし、共に「どのように経営環境の変化に立ち向かったのか」という意味での根っこは同じではないでしょうか。シンガポールの人口はたった500万人です。その上、周囲をはるかに人口が大きく、低賃金の国々に囲まれています。技術水準も日本よりは低いでしょう。

 東日本大震災の被害・影響は前例がないほどすさまじく、日本一国では対処不可能です。製造業でも同じことが言えるのではないでしょうか。政府の効果的な中小企業支援やインフラ整備は当然、必要です。

 その上で、中小企業一社々々が、

 「モノづくりを維持する」

という強い意志の下、世界中から知恵を集めながら、経営環境の変化に対応策を講じていくべきでしょう。その1つとして、シンガポールの経験をヒントとした、国際化と海外企業とのつながりがあると思っています。

参考文献

・機械振興協会 経済研究所(山本聡編)〔2011〕『国内モノづくり中小企業における海外市場参入戦略』機械工業経済研究報告書

・Poh Kam Wong.(1999).“THE DYNAMICS OF HDD INDUSTRY DEVELOPMENT IN SINGAPORE”, Research Report 99-03,Information Storage Industry Centre,UCSD

・Satoshi Yamamoto.(2011).“How did Singaporean SMEs Internationalize Business Relation?”『機械経済研究』機械振興協会 経済研究所

 筆者より、読者の皆さまへ:本連載の感想を送っていただけますと筆者の励みになります。

Profile

山本 聡(やまもと さとし)

1978年生まれ。機械振興協会 経済研究所 研究員として金型など素形材産業・中小企業の調査研究業務に従事、全国各地の企業を訪問する日々を送っている。日刊工業新聞社『型技術』、『機械設計』、工業調査会『機械と工具』など企業経営者や技術者向けの雑誌に産業・企業動向に関する多数のレポートを寄稿する一方、国内外でさまざまなセミナー講師も務めている。一橋大学 経済学研究科 博士課程に在籍中。連絡先:yamamoto◎eri.jspmi.or.jp(電子メール送信時は、◎を@に変えてください)


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