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「私の経験上」という言葉が出たら、ご用心!災害未然防止のための設計とTRIZ(1/3 ページ)

災害を未然防止する設計をするために、問題解決理論のTRIZを適用して、常識にとらわれない視点での対策を立てよう。

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東北地方太平洋沖地震について

このたびの大震災で被災された皆さま、ご家族ならびに関係者の皆さまに心からお見舞いを申し上げます。


@IT MONOist編集部一同



はじめに――大災害が残した教訓

 2011年3月11日に、宮城県沖を震源とするM9.0の巨大地震が、東北から関東に掛けての広い範囲を襲い、壊滅的な被害をもたらしました。災害でお亡くなりになった方には心よりご冥福をお祈りします。また、復興にいまだご尽力されている方々に関しましても、大変な環境の中での作業に体調など崩されませんようにと願うばかりです。少しでも早く皆さまの生活が普通に戻りますように、そして日本経済が正常に機能しますようにと本稿を書きながら願っております。

 東北関東大地震では、地震による被害に加えて、津波による被害が追い打ちを掛けました。思い起こせば、同年2月に発生したニュージーランドでの大地震や、2004年に発生した新潟県中越地震など、自然災害による建物の倒壊や、原子力発電所の被災による放射能汚染の恐怖など、過去の大災害はわれわれに多くの教訓を残してくれたはずです。しかし、今回の東北関東大地震では、それらの教訓を上回るほど過去に例を見ない規模のものでした。例えば、10mを超える津波が、仙台空港近くの名取市の海岸に広がる平野部を飲み込んでいく様子や、チリ大地震の津波を防いだ宮古市の堤防をいとも簡単に超えてしまうほどのすさまじい力など、「津波はこんなに巨大なエネルギーを持っているのか」と驚きを禁じ得ません。しかし、われわれには今回の災害を教訓にして、より安全な生活を営めるべく、早急かつ抜本的な対策が求められています。

 今回は、これらの災害を未然に防ぐための設計に、「TRIZ(トゥリーズ)」という創造的な問題解決の理論を適用して、常識にとらわれない視点での対策を立てるためのヒントになればという思いで筆を取りました。

 私自身、原子力などの専門家ではありませんが、社会インフラのシステム設計を考えたときに、従来と違う知恵を出す必要がある場合など、専門家がTRIZを使って考えることは大変効果的だと考えています。それは、TRIZが「さまざまな分野を超えた知識を基に構成された発想理論」だからです。

 これを読まれている方々の中にはTRIZという言葉自体を初めて目にする方も多いと思います。TRIZの概論については、また後ほど詳しく述べるとして、まずは未然防止として一般に行われている設計の手法について簡単に触れたいと思います。

未然防止としての一般的な設計手法

 通常、システムの故障や不具合を事前に予測し、それらを設計段階で対処するための手法として、信頼性工学があります。私もダンパー(緩衝機)やリレー(電磁継電器)の機械設計者の端くれでしたから、新商品の設計時には、FTA(故障の木解析)や、FMEA(故障モードと影響解析)などを行い、設計レビューを経て、さらなる安全性を高めるべく設計改善を繰り返したものです。しかし、これらは、設計者やレビュー者の経験値に左右されることが多く、全く未知の商品を開発する場合などは、なかなかうまく記載できずに困った覚えがあります。このあたりが、信頼性工学の限界なのでしょう。

 一方で、設備保全においても、TPS(トヨタ生産システム)に代表されるように多くの手法が提案されています。例えば、冗長設計やポカよけ、アンドンなど生産上のトラブルや品質問題が発生したときに対応できるようなシステム設計ですね。基本的には、日常改善活動の一環としての重大事故の未然防止対策であり、設計であるといえると考えます。「ハインリッヒの法則」(1件の重大災害の陰には300件の「ヒヤリ、ハット」が隠れているという考え)で、それらを事前に押さえておくべきだという発想ですね。

 さらに、最近ではタグチメソッドにより、経済価値をベースにして設計の安全率を考えるべきだという主張もあります。例えば、従来の機械設計のように一律3倍の安全率で橋を設計するのではなく、その橋が壊れた場合に社会に与える損失の大きさから安全率を決めるべきだという考え方です。これはタグチメソッドの損失関数を使って導くことになります。余談ですが、タグチメソッドは、一般に「ロバストデザイン」としての効用や手法として知られています。つまり、商品が市場で問題を起こさないための最適条件を決めるというものです。しかし、その最適条件を決める理論的背景には、「社会に与える損失を最小化する」という概念があるということは知っておいてほしいものです。

 では、TRIZを使って災害を未然防止する設計とは何か? これについて、次で解説したいと思います。

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