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ARMマイコン「Kinetis」で市場に再攻勢をかけるフリースケール電子機器 イベントレポート(29)(1/2 ページ)

MCU専門カンファレンス「Freescale MCU Summit 2011 in Tokyo」が都内で開催。フリースケールのMCU製品戦略とは?

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 フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンは2011年3月3日、MCU専門カンファレンス「Freescale MCU Summit 2011 in Tokyo」を都内で開催した。本稿では「ARM Cortex-M4」をプロセッサに採用した「Kinetisシリーズ」を中心に、同社のMCU製品戦略とそれを支えるエコシステムについてレポートする。

4つの市場トレンドに適応するMCU製品

 基調講演では、まず米フリースケール・MCUソリューショングループ上席副社長のReza Kazerounian氏が同社のMCU戦略を披露した。同氏は「われわれには、センサ、RF(高周波)、アナログ、組み込みプロセッシングと4つの製品プラットフォームとそれを支えるソフトウェアエコシステムがあるが、MCUは組み込みプロセッシングの中核を担う」と語り、MCUに関する4つの方針を次のように説明した。


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米フリースケールのReza Kazerounian氏

 1つ目は方針の、8/16/32ビットのそれぞれで幅広い製品を提供すること。特に産業向け32ビットMCUは今後、68Kアーキテクチャを継承する既存の「ColdFire/ColdFire+ファミリ」に加えて、Cortex-M4搭載の「Kinetisシリーズ」、Powerアーキテクチャベースの「PXシリーズ」によって大幅に強化していく。

 2つ目の方針は、TFS(薄膜ストレージ)フラッシュメモリなど独自IPへの重点投資。3つ目はエコシステムの構築。そして4つ目が10年以上の「長期製品供給」の保証である。Kazerounian氏は「MCUの市場トレンドとして、高性能、ポートフォリオの拡張性、低消費電力、使いやすさへのニーズが高まっている。特に日本市場でそのトレンドは顕著だが、われわれのMCU製品はそれに応えられる」と自信を見せた。


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4つの市場トレンドに対応するフリースケール製MCU

 ここでKazerounian氏が壇上に呼び込んだのがアーム社長の西嶋 貴史氏だ。西嶋氏によれば、Cortex-Mシリーズの出荷量は2010年、前年比5倍で1億個を超え、2014年にはMCU市場でのARMシェア20%以上(現状は10%程度)を目指すという。これにはKinetisの寄与も相当見込んでいるようだ。さらに同氏は「MCUでARMコアが採用されるのは、システムの中でソフトウェアの比重が高まっているからだ。さらに開発のしやすさを推し進めるため、KinetisをはじめAMR系MCUではソフトウェアインタフェースの標準化を推進している」とARM MCUの開発優位性を訴えた。

ベールを脱いだK50ファミリは医療機器向け

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米フリースケールのJeff Bock氏

 続いて、同グループ産業&複合市場製品マーケティング ディレクターのJeff Bock氏が当日発表された「Kinetis K50ファミリ」の解説を行った。Kinetisシリーズは2010年6月にK10〜K70の7ファミリが製品発表されたが、K50ファミリのみ詳細な情報は明かされていなかった。今回、そのベールを脱いだわけである。

 4サブファミリ40品種K50ファミリは、CPUが72/100MHz(1.25DMIPS/MHz)、フラッシュメモリが128〜512KB、パッケージが64〜144ピンの構成。Kinetisシリーズ共通のシステムIPとして、32ビット積和演算ユニットやDSP/SIMD演算命令などCortex-M4標準機能に加え、DMAコントローラ、豊富な省電力モードといった独自拡張を採用する。フラッシュメモリには高性能な90nm TFSタイプを搭載し、それによりEEPROM機能を提供する独自技術「FlexMemory」も利用可能だ。

 Bock氏は「K50ファミリの特徴は、フリースケールが得意とするアナログ回路を豊富に取り込んでいること」と指摘。実際、フレックスタイマ、DAC、プログラマブルリゲンアンプ、電圧リファレンスなどに加え、シリーズで唯一、センサの電流信号を電圧出力に変換するオペアンプ、トランスインピーダンスアンプも搭載。インタフェースとしてEthernet、USB、セグメントLCD、IEEE1588タイマなどを用意する。


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Kinetisシリーズのラインアップ(チャート右側は共通機能)
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小型医療機器に適用可能なKinetis K50ファミリ

 このK50ファミリのメインターゲットは小型医療機器という。「センサ情報を高度に活用する最新の血糖測定器、血圧計、心拍数モニタ、酸素濃度計、ポータブル心電図装置などで求められる、信号処理機能、低消費電力性、タッチセンサインタフェース、高度なコネクティビティをK50ファミリは満たす」(Bock氏)。こうしたシステム要件は何も医療機器に限らない。ほかの産業機器でも使えるだろう。ともあれ、K50ファミリの概要も明らかになり、いよいよKinetisシリーズが本格始動する。K70を除く6ファミリは2011年第3四半期より量産が始まると発表された。

高性能・高信頼のPowerアーキテクチャMCU

 次にBock氏は、当日発表された新製品でもう1つの目玉であるPXシリーズについて解説した。Powerアーキテクチャは従来、専ら通信プロセッサや車載コントーラで使われてきたが、「産業向けMCUでも通信設備並みの性能、車載機並みの信頼性を必要とするアプリケーションが生まれている」という背景からPXシリーズが誕生したという。

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PowerアーキテクチャMCUのPXシリーズは4つのファミリからなる

 PXシリーズのプロセッサコアには、車載向けコントローラで信頼性、耐久性が実証済みの「e200」を採用。シングルコア時で最大600DMIPSの処理性能を持ち、最大4MBのフラッシュメモリを搭載可能だ。当然、多彩なアナログ回路も盛り込まれている。PXシリーズは4ファミリで構成され、性能重視の「PXR」、信頼性重視の「PXS」、接続性重視の「PXN」、ユーザーインタフェース重視の「PXD」がある。Bock氏は「4ファミリにより高度な産業制御アプリケーションを広範囲に担える」と話した。

 PXシリーズは2011年にサンプル出荷が始まり、2012年にはPXRファミリにおいて、55nmマルチコアで1000DMIPS以上を実現する製品の投入も計画されている。MCU市場で新領域を開く製品として注目される。

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