グローバル展開を支えるモノづくり系女子:経済研究所 研究員は見た! ニッポンのキカイ事情(5)(2/2 ページ)
経済研究所の研究員が、さまざまな切り口で加工技術や現場事情を分かりやすくレポートするシリーズ。よりよい設計をしていくために、加工事情について知識の幅を広げていこう。(編集部)
3.海外展示会で活躍するモノづくり系女子
MSTコーポレーションが他社と決定的に違うところ、それは「プロジェクト0412」と社内で呼ばれる展示会専門の女性人材が、正社員として活躍していることです。皆さん、ご存じでしょうか。日本の大学の英文科や語学科などでは、多くの女子学生が日夜、勉学にいそしんでいます。将来のキャリアのためにと留学をする方も数多くいます。しかし、そうした女子学生がせっかく習得した語学力を生かせる職場は非常に少ないのが現状ではないでしょうか。筆者もそうした女子学生の方々から生の声を聞くことがありますが、まさに、
「国際的な知見を持つ有用な女性人材が埋もれてしまっている」
のです。同社ではこうした由々しき状況に目をつけました。
そして、
「世界各国の展示会で、語学力を活用できる!!」
とPRすることで、機械・金属関連の企業には興味がなかったような女子人材を獲得・活用し、展示会のための独自の営業部隊を設立したのです。現在、「プロジェクト0412」は英語や中国語、ドイツ語といった語学に堪能な女性人材によって構成されています。また、日本人だけでなく、中国人も数名在籍しています。彼女たちは研修できちんと自社のモノづくり現場と技術上の強みを理解しています。そのうえで、1つ1つの展示会ごとに展示ブースの設定や顧客へのPRの仕方を非常に綿密に分析・計画し、実行しているのです。大企業が展示会でその場かぎりのイベントコンパニオンを活用するような中で、彼女たちはまさにMSTコーポレーションの営業戦略の一翼を担っているといえるでしょう。
皆、「自社製品の強みをどうやって顧客へPRすればよいか」を熟知しています。そこには自社製品への誇りと愛情が垣間見えます。
なお、同社は展示ブース内では顧客のためのスペースを可能な限り広く取り、簡単な食事も提供するなど顧客が長時間くつろげるようにするためのさまざまな試みを実践しています。こうしたこともまた、同社が展示会場を新規受注獲得につながる情報収集・発信の場として、強く認識・活用していることの1つの表れでしょう。
4.終わりに
冒頭でも述べましたが、人口減少など日本国内の市場が徐々に縮小していく中で、新興国を始めとする海外市場の存在感が急速に増してきています。筆者も今後のモノづくり中小企業の事業継続の分水嶺(ぶんすいれい)は「国内市場にのみ依存せずに、海外市場とつながることができるかどうか」だと考えています。これは言葉を変えれば、「グローバルに自社の固有技術を売っていけるかどうか」ということです。講演などで、大企業や中小企業の経営者の方々に筆者の考えをお話させていただくと、
「中小企業には海外市場を目指せるような人材はいない」
「新しく獲得しようとしても、いまの若者は内向き志向で使えない」
といったお言葉を頂くことあります。本当なのでしょうか? 筆者は日本には国際的な知見・感覚を有する若手の人材は多々、存在すると感じています。ただし、企業サイドが自社の国際戦略を明確に示したうえで、そういった人材を正しく評価・活用しているのかというと、はなはだ疑問です。こうした中で、MSTコーポレーションの取り組みは今後の日本企業の国際戦略を考えるにあたってさまざまな示唆を投げかけているのではないでしょうか。
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