グローバル進出企業が抱える課題とそのマネジメント:モノづくり最前線レポート(27)(1/2 ページ)
本格的なグローバル化の波が押し寄せつつあるいま、日本の製造業界はあらたな課題に直面している。変化に対応し、企業力を高めるために、何を把握すればよいかを識者に聞いた。
少子・高齢化傾向にある日本では、市場の縮小が語られて久しい。近年では、これに新興国・地域からの安価な製品流入が加わり、日本の製造業の多くは、コスト削減あるいは新市場獲得のため、続々と海外に進出し始めている。一方で業界ごとの競争も激しく、各社とも競争力強化のために戦略的買収や事業の統廃合を進めている。
こうした傾向は、早くから世界各地に展開していた大手メーカー企業だけでなく、いまや中堅企業においても一般的になってきている。積極的に海外の取引先を獲得したり、あるいは製造拠点ごと移設したりといった動きは激しくなる一方だ。
グローバル化と同時に、いままでに経験のない状況への対処を迫られる日本のモノづくり企業は、どう対策していけばよいのだろうか。
グローバル展開で見えてきた新しい課題
今回の取材で話をうかがった日本アイ・ビー・エム グローバルビジネスサービス インダストリアルビジネスサービス開発 エグゼクティブPM 富田 祐司氏は、同社の製造業向けのソリューションを担当しており、日本の製造業界の中をよく知る人物だ。もちろんIBMがグローバルで持つ製造業界の先進事例にも精通している。
富田氏によると、グローバル展開を進めている企業が持つ課題はいくつかの特徴があるそうだ。
拠点が見えない
1つには、現場が遠く海外に移ってしまうことで、状況が見えにくくなることが挙げられる。現地の人材を活用すればそれだけ、日本的な人間系管理が難しくなる。従来のように、日本的に均質で統制のとれた人間系に頼った「阿吽(あうん)の呼吸」での事業展開は難しくなりつつある。
これについて、富田氏は「いままでは生産現場が国内の、比較的『見える』場所に生産拠点が置かれており、熟練した作業担当者からの質の高い情報を得られていたかもしれない。しかし、製造拠点やスタッフごと海外に出してしまうと、たちまち状況が見えなくなってしまう可能性がある」と、日本的な運用の危険性を懸念する。
委託生産の管理
もう1つ、外せないのが、自社生産とそれ以外のEMSなどを利用した委託生産とが混在するようになってきたことだ。
「いまや、各社とも戦略的に製造委託を行っています。設計は社内で、製造はEMSで社外に出してしまう場合、情報把握は非常に難しくなってきます。納期回答の信頼性をどう担保するかも大きな課題でしょう」
富田氏によると、こうした生産委託が増えている企業では独自に調達技術者を委託企業に派遣して管理するなどで対処しているケースが多いようだが、直接見ることができない、という問題はなかなか解消し難いもののようだ。
「いずれにしても海外展開を契機に、情報が分断され、リアルタイムに情報が見えないという状況に陥っている企業が多いのです」
統廃合の動きが加速
さらに、「競争力強化に向けたM&Aや、生産ラインの統廃合などの事案が増えていることから、それらの拠点をしっかりつなぐことができていないケースがある」という。
事業譲渡を受けて、B社の本部ではA社から譲渡を受けた生産ラインを含めた管理・計画を迅速に行わなくてはならないが、仕様の異なる情報なだけに、直接状況を掌握することが難しく、結果として課題への対処の遅れやロスを生む機会が増えてしまう。
しかし、正確な数字を把握するには工場の個々の製造番号レベルで何が発生しているのかを迅速に把握しなければならないが、おのおので別のシステム、業務プロセスが動いている状態では、対応するのには相応の時間が必要だ。
迅速な経営判断で統廃合や買収を行ったとしても、すぐにうまくコントロールして稼働できなければ意味がなくなってしまう。いま稼働しているものをどううまく活用してつないでいくかが1つの試金石といえるだろう。
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