溶接レスで自動生産する“俺自転車”:マイクロモノづくり〜町工場の最終製品開発〜(6)(1/3 ページ)
俺仕様にカスタムできる自転車の商品化の裏側に迫る。従来の自転車にはなかった構造故に、苦労した分、メリットも
今回紹介するのは第4回と同じ自転車の事例ですが、それとはまったく異なるコンセプトの製品です。でも、マイクロモノづくりの原動力となる、“あること”は、共通しているのです。
今回は、ユニークな自転車をデザインし、やがてそれを自動生産可能とするまでの過程を紹介していきつつ、マイクロモノづくりの概念に触れていきます。
俺自転車の秘密
TSDESIGNによる新型自転車「mindbike」は、そのフレームにさまざまなオプション部品を自分で組み合わせることで、自分のためのオリジナル自転車(まさに“俺自転車”が作れる構造)、つまりユーザー側にかなりの自由度を与える設計になっています。自作のデスクトップPCも、外装ケース、マザーボード、CPU、グラフィックスカードなど自分の好みで選択して組み立てられますが、それとよく似た構造です。
この自転車では、フレームの断面形状をレール状にすることで、フレーム全体がオプション部品取り付けのインターフェイスとなるようにしています。このレールに自分でジョイントできるようなオプションをユーザーが自分で作って接続できるようにデザインされています。例えば、iPhoneにナビゲーションをさせながら自転車に乗りたい場合なら、ユーザーやサードパーティーが自由にiPhone用アタッチメントを作って接続できるような構造になっているのです。
デザイナの思いを込めた「mindbike」=「ユーザーも一緒に造る自転車」という名前のとおり、ユーザーも間接的に、この自転車造りの参加者になれるように設計されているのです。
この自転車は、従来の自転車とはまったく違う構造をしています。溶接構造ではなく、アルミジョイントによるねじ締結構造なのです。
それを思い付いたのは、1人のデザイナでした。
寝具メーカーのデザイナから自転車デザイナへ
mindbikeの生みの親、角南(すなみ) 健夫氏は、元ベッドメーカーの工業デザイナ。そこは、デザインだけではなく、設計、原価交渉、販売、取扱説明書制作など、幅広い仕事が要求される職場でした。中でも特に、店頭販売の経験は貴重で、消費者の目線で製品デザインをすることの重要性を認識したと同氏はいいます。
そうした中で、角南氏は工業デザインの仕事だけではなく、より幅広い仕事を手掛け、オリジナルのモノづくりをしたいと考えていくようになりました。やがて同氏はそこを退職し、オリジナルのアウトドア製品を開発して販売する事業(アウトドアブランド MONORAL)を2010年に起こします。
そのかたわら、角南氏はフリーのデザイナとしても活動する中で、ある大手PB(プライベート)ブランドを手がける企業のデザインプロジェクトで、オリジナル自転車のデザインコンペが行われることを知りました。同氏は以前に、その企業の外部契約デザイナとして自転車のデザインを担当していたこともあり、そのデザインコンペに自らのデザイン(mindbikeの前身)を持ち込み参加することにしたのです。
選考の結果、角南氏のデザインは製品化に向けて検討する価値ありということで最終選考に残りましたが、経営的判断によりこのプロジェクトは製品化することなく、解散となってしまいました。
プロジェクト解散の大きな一因としては、従来なかった構造の自転車を、製造者責任を負ってまで作ろうというメーカーが見つからなかったことがありました。
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