富士の八十八夜を守った流体解析:踊る解析最前線(3)(2/3 ページ)
富士の裾野に新東名が通ることになったが、おいしい茶葉が育つ環境を阻害する恐れが!? そこで、3次元流体解析が活躍した。
工学院閥(ばつ)?
前ページで紹介したトンネル換気解析の業務の一部では、工学院大学の修士たちが、各自の研究テーマとして携わってきている。その研究成果が評価され、道路関係の企業(かつての道路公団もしかり)やコンサルティング会社などに就職していく卒業生が多いという。道路関係の企業のほか、トンネル換気に使われるファンのメーカーに就職するケースも多々あるとのことだ。
「ある人が、『水野さん、(工学院大の)閥(ばつ)を作っているねぇ』とか、いうのですよ(笑)。全然、そういうことでないのです。たまたま、当校にはトンネル関係で卒論や修士論文を書く学生が多く、卒業後もそういう道を大抵望んでいますし、わたし自身も道路関係に知り合いが多かったものですから……」(水野氏)。社会に有用な人材を輩出するという、同校の目的をここでもしっかりとかなえる。
道路公団からコンサルティング会社に解析依頼を発注するのが、工学院大の卒業生。そして、その受け手側のコンサルティング会社の担当者も、工学院大の卒業生。さらにその先、発注するファンのメーカーの担当者もまた、工学院大の卒業生……。そんな状態も、大いにあり得るそうだ。
同校の卒業生は、水野氏が指揮するベンチャー企業「FITUT(ファイタット)研究所」でも活躍中だ。今後のFITUTでは、インターネットを活用して、トンネル換気シミュレーションサービスをグローバルに展開していきたいとのことだ。
“真の”縦軸風車を目指して
風車といえば、多くの人が、塔の先で3つか4つの羽根がくるくると回る様子を思い浮かべるだろう。世の中にある風車の多くが、プロペラ型である。工学院大の流体工学研が1999年から取り組んでいるのは、それとは方式が大きく異なる(羽根の回り方が違う)、直線翼縦軸風車(以下、縦軸風車)の研究である。乱流形成促進部を備えた垂直軸風車の風力発電に関する特許も取得している。
同校は新垂直縦軸風車の販売実績がすでにある工藤建設とともに、エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2010年度「新エネルギーベンチャー技術革新事業」に応募し、2010年7月に採択された。同年9月には縦軸風車を採用した風力発電設備の実用化に向けた研究も開始している。
もちろん同校の研究室の学部生や修士生たちも、その研究に参加している。
プロペラ型と比較した縦軸風車の利点は、分かりやすいところでは、
- 音が静か
- 首振りの機構などが不要である
- 直線翼なので、部品コストが安価
- 比較的大容量の発電機も設置可能(地上付近での発電機直結が可能)
などが挙げられる。このように、プロペラ型と比較して利点がたくさんあるにもかかわらず、世の中に普及しない理由は、複雑な要件故の技術確立の難しさである。評価基準も公式にあるわけではない。
ここでも、3次元流体解析が活躍している。
「赤や青の部分は渦が出ている状態で、つまり良好でない運転条件ということです。そこで、どうしたら渦が出ずに、ファンの良好な性能が引き出せるか。翼形状を変えたり、回転数を変えたり、さまざまな条件で検証するのです」(水野氏)。
縦軸風車の解析は、乱流解析も絡み、計算量が膨大になる。計算量を削減しながらも、精度を落とさないように工夫する必要がある。
「担当した修士生が、『1ケースやるのに、1年半かかる』というのですよ。それが2009年の、暮れぐらいでした。『じゃあ君は卒業できないが、いいんだね?』っていったら、必死になってやっていましたが。いまは、1カ月半〜2カ月で1ケースこなせるようになりました」(水野氏)。
それにしても、いまもなお、たくさんのケースの解析をこなすのは非常に難しいという。しかしながら、着々と結果は出てきているとのことだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.