「やりたいのはやまやま……」はもう通用しない!? ――家電:【1分で分かる】業界別 CAE技術動向
家電は壊れても、人に大きな被害を与えない。起こる現象も複雑……。少しCAEに気後れしがちな家電業界のCAEだが、これからは?
「家電」と一口にいっても、大きさ、機能、用途……さまざまである。また、機構の複雑化、あるいは(日本人好みの?)オールインワン製品化、などの傾向から、各部位で検証項目の力の入れ具合は違ってくることは容易に予想できる。なので当然、設計事情は、メーカーごと、製品ごと、製品中の部位ごと……それぞれでまちまちとなる。
家電は、大抵量産品になるので、
設計→試作→量産試作→量産
という基本概念自体はどこも変わらないものの、開発方針はそれぞれの事情に最適化されたものになる。
1つ、基本的に共通していえることは、その設計について、実物、かつ人間の生活環境で十分検証できることが大変多い点だろう。
また、誤解を恐れずにいえば、基本的に「多少のエラーは、人命を脅かすことに直接つながらない」「問題発生時の社会的影響が低い」(当然、モノや程度により異なるだろうが……)こと。自動車や航空機と比べてしまえば、そのあたりの緊迫感は大きいとはいえない。報道される大きなリコール騒ぎはほぼ、自動車であることからも、うかがえるだろう。
家電業界の解析事情
上記の事情から、家電業界の設計では、CAEによる厳密な問題の洗い出しよりも、期間やコストの削減がどうしても優先されがちである。そのうえ家電設計は、解析したいテーマ、つまり問題とする物理現象が非常に複雑になりがちで、かつ難解である。
よって、「やりたいのはヤマヤマだけれど、ついつい……手がつかない」「無理をして設計の追い込みをするよりは、多めの安全率を見ておこうか」……そのような具合で、航空、自動車などに比べてしまえば、CAEへの取り組みが、どうしても消極的になってしまう傾向のようである。
しかし日本メーカーにとって脅威となっているアジアメーカー各社の開発スピードに追いつくため、フロントローディングや自動化は、今後、より強く要求されるだろう。また厳しい市場競争で勝つためには、早い市場投入だけではなく、製品の魅力を落とすわけにもいかない。
確かに、一昔前は、コンピュータとは高いものだというイメージが強かった。よって、「人に致命傷を与えてしまうほどのエラーでないのに、どうして多額なコストを費やさなければいけないのか?」、家電業界の設計では、そう考えてしまわれがちだった。しかし、それはもう、一昔前の考え方でしかない。今や、計算を動かすための頭脳たるハードウェアやソフトウェアの価格は非常に安価となり、エレガントなことをしなくてもパワフルな計算ができる時代となった。「やりたいのはヤマヤマ……」は、言い訳として通用しなくなってきている。
従って、これからますますCAEの活用が広く浸透していくだろう業界が、この家電業界だといえる。
また、上記で取り上げたように、設計事情がそもそもまちまちなことから、CAEへの力の入れ具合もまた、まちまちなのも現状である。
家電業界では、カバーやケース類の設計においては、CAEの結果より実験・試作を重視しがちなメーカーも少なくない。一方、流体(気体や液体など)の絡む機構、光学系の設計については、その複雑さからCAEによる精密な解析は必須となる場合が多い。しかし連成解析となると、まだ事例は、業界全体でも極めて少ない。
一方、この業界で非常に重視されているのが、「熱流体解析」(熱の排気)。こちらは比較的、どの家電メーカーでも力を入れて取り組んでいる傾向だ。高熱状態は、人に多大な危害を与えかねない非常に危険なことであるからだ。排気を考慮するとなれば、熱を逃がす空間や冷却部品などを配置しなければならないため、小型化のネックにもなる。……そのように、熱の問題は、家電設計にとって非常に悩ましいのだ。後は、近年の環境配慮設計(省エネ)の傾向も、影響が強いだろう。
回路・基板設計分野でも、熱解析や応力解析はよく行われている。また、難しいながらも電磁界解析は行えるため、かなり浸透している。そして、家電設計者がいま、非常に注目しているのが、ノイズ(EMI)の解析である。しかしながらEMIは、そもそもその現象自体が非常に難解なため、“知恵と勘”の世界で、実験ベースの検証がまだまだ多いのが現状である。しかし、電波暗室のソフトウェアも既に登場しており、EMIのデジタル化の波は、着々と進行している。
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