最先端のCAEをさまざまな分野で満遍なく実行! ――自動車:【1分で分かる】業界別 CAE技術動向
自動車業界は、構造や流体のほか、衝突、騒音、電磁場など、さまざまな分野で満遍なく解析を活用する。連成解析への取り組みも積極的だ。
2004年ごろから自動車のリコールが急増し、世の中を騒がせた。その後の2008年、世界的な経済不況の大きなあおりを受け、自動車販売台数は激減。2009年には、赤字計上するメーカーが相次いだ。特に、トヨタ自動車の業績予想の大幅な下方修正の発表はインパクトが大きく、世の中に「トヨタショック」なる言葉まで生まれた。
自動車業界の21世紀の幕開けは、散々な状態だ。そのような状況を打開するため、各自動車メーカーでは、開発コストカットや開発期間短縮などに対応すべく、設計・開発の体制の見直しが顕著に行われている。その中でCAEの活用は最重要キーだ。
厳しい状況にもかかわらず、電気自動車の売れ行きは好調で、2009年は、エコカー減税がさらにそれを後押しした。電気自動車の開発は、今後、ますますホットになってくるところだが、技術的にはまだまだ未開拓の部分も多い。そういった面でも、自動車メーカーにおける設計技術の革新は必須事項であるといえる。
設計開発の流れとしては、基本的には以下のように行ってきた。
企画→概要設計→詳細設計→試作→実験検証→量産試作→量産本番
3次元CAD普及以前の自動車開発では、クレイモデルによるデザイン検討、試作車による実験、つまり実物ベースでの検証を行ってきた。そして、これらのコストは莫大なものだった。
最近は、モノを作らない自動車開発――クレイモデルも試作車もデジタル化してしまう「試作レス(デジタルプロトタイプ)」に向けての動きが、どのメーカーでも非常に顕著であり、かつ、どんどん高度化している。
自動車業界の解析事情
自動車業界は構造解析と流体を中心とした解析が高度に進んできた分野である。1990年代、意匠や設計部門の3次元CADの浸透と併せて、3次元CAEの取り組みも広がっていった。ほか、衝突、騒音、電磁場など、さまざまな分野でまんべんなく解析を活用する。連成解析への取り組みも積極的だ。
ただし、自動車部品サプライヤとなると、扱う部品や企業規模により、CAEの浸透具合はまちまちである。しかし、大手自動車メーカーに売り込んでいくうえで、最新のモノづくりITへの対応は大きなアピールポイントとなるため、その普及はますます加速していくだろう。
自動車メーカー各社の開発において、1990年代〜2000年ごろまでは試作代替のCAEが主流だったが、ここ数年間においては構想設計CAE(ファーストオーダーアナリシス)メインに置き換わる動きが出ている。
ある自動車会社では、以下のように、設計者、解析専任者、研究者とで、CAEの役割を明確に分けている。このような体制で、作業の効率化を図り、開発コストダウンを目論む。
- 設計者CAE:部品単体の応力や、設計変数の感度把握。DRで設計根拠を明確に回答できるようにする。
- 解析専任者CAE:アセンブリやユニットレベルの解析を行う。また設計者に対し、仮想実験室を提供する。
- 研究者CAE:NVH(Noise、Vibration、Harshness:車の快適性三大要素)やフルビークルの解析。解析専任者には、解析テーマを与える。
また、解析が主体となって行う開発を実践しており、解析専任者は企画の段階から入り込んでいるという例もある。「解析の役割」=「車両開発」であることを明確化し、エンジニア全員が車両開発に関するさまざまな知識や技術を持ち、それらひととおりの作業について理解できることを目指している。
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