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デジカメにリコンフィギュラブルな頭脳を――カシオ「EXILIMエンジンHS」次世代デジカメ技術なぅ(2)(1/3 ページ)

カシオ計算機の新デジカメに搭載された「EXILIMエンジンHS」には、新しいテクノロジーとしてリコンフィギュラブルプロセッサが採用された。一般ユーザーにはなじみの薄い“リコンフィギュラブル”とは何なのか。開発者に聞いてみた

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 カシオ計算機「EXILIM」シリーズといえば、愛好家から一般ユーザーまで幅広く知られたコンパクトデジカメだ。スタイリッシュな薄型デザインをいち早く採用したシリーズ、あるいは、カメラメーカーとは異なるアプローチで先進的な機能を盛り込んだ製品、といった印象を持つ人もいるだろう。

 そんなEXILIMの新作として、2台の注目すべきモデルが2010年11月末に発売された。その1台は、GPS機能を搭載した光学10倍ズーム機「EXILIM EX-H20G」。GPS衛星を使った測位機能に加えて、モーションセンサによる自立測位機能を備え、屋内でも位置情報付きの写真が撮れるユニークなカメラだ。

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画像1 GPSや地図機能を搭載した光学10倍ズーム機「EXILIM EX-H20G」

 特に興味深いのは、カメラ内に世界約140都市の地図データと日本11都市の詳細地図、約100万件の地名データベースを内蔵すること。緯度経度情報を記録するだけでなく、撮影データをカメラ内の地図と一緒に表示したり、あらかじめ組み込まれた景勝地の写真を再生したりできるのだ。旅好きにはうれしい機能である。

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画像2 「EXILIM EX-H20G」では撮影時にリアルタイムで、その場の地名情報が表示される

 そしてもう1台は、高速連写を得意とする光学7倍ズーム機「HIGH SPEED EXILIM EX-ZR10」だ。こちらは、連写と合成によってハイダイナミックレンジの画像に仕上げるHDRアート機能や、フルHD動画を撮りながら秒間40コマの高速連写ができる機能などを薄型ボディに凝縮する。

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画像3 高速連写対応の光学7倍ズーム機「HIGH SPEED EXILIM EX-ZR10」

 この2製品に共通するのは、新しい画像処理エンジンとして「EXILIMエンジンHS」を搭載したこと。そして、この「EXILIMエンジンHS」こそが“リコンフィギュラブル(再構成可能型)”の仕組みを取り入れた画期的なエンジンである。

 何がどう画期的なのか、開発者に話を聞いてみた。登場いただくのは、カシオ計算機 羽村技術センター 開発本部 QV統轄部 商品企画部 第二企画室の今村 圭一氏だ。

回路構成そのものをダイナミックに切り替え

――リコンフィギュラブルプロセッサといえば、2002〜2005年くらいにエンジニア系の業界で大きく盛り上がった技術だと記憶しています。それが最近はあまり聞かなくなっていたのですが、御社の新製品「EX-ZR10」と「EX-H20G」のリリースで久しぶりにその言葉を目にしました。そもそも、リコンフィギュラブルとはどんなものなのか、その概念から教えてください。

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画像4 カシオ計算機 羽村技術センター 開発本部 QV統轄部 商品企画部 第二企画室の今村 圭一氏

今村氏: 「EX-ZR10」と「EX-H20G」で採用した新しいエンジン「EXILIMエンジンHS」にはさまざまな特徴があり、その中の1つがリコンフィギュラブルプロセッサになります。ハードウェアというのは通常は、ロジック回路という固定的な回路構成を持っていますが、リコンフィギュラブルプロセッサはその内部的なロジック回路を動的に再定義/再構築できるのです。ロジック回路の結線をあたかもダイナミックにつなぎ替えているような感覚で再構築できることがリコンフィギュラブルの大きな特徴です。しかも、電源を切らずに入れたまま、あるブロックの回路構成をガラリと変えることができ、専用ハードウェアに比肩するようなスピードを実現できます。

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画像5 「HIGH SPEED EXILIM EX-ZR10」の内部構造

 通常はCPUがあって、汎用プロセッサもあり、その上にソフトウェアを流し込んで実行処理をしています。しかし、それでは処理が非常に遅くなってしまいます。デジカメは年々画素数が肥大化して、最近では14〜20メガといった多くの画素数を扱うようになってきました。それに比例して、画像処理の負担は大きくなっています。また、実際の処理内容についても、より高度な処理を実行しようとすれば、どうしてもスピード面に不満が出てしまいます。

――リコンフィギュラブルを採用した理由は?

今村氏: わたしどもが標榜(ぼう)したことは、最新技術をハードウェアで載せたいということでした。しかしLSIの開発スパンは、小規模なものでも1.5年程度、大規模なものなら2年以上の開発スパンがどうしても必要になってきます。一方でデジカメの画像処理の技術は、日進月歩で進化しています。例えば、高感度ノイズリダクションの性能は、それこそ数カ月単位で飛躍的に向上しています。そのため、ようやくLSIの開発が終えたころには、カビが生えた技術になってしまう、といったことが起こり得ます。

 そこで、われわれが着目したのがリコンフィギュラブルの技術です。リコンフィギュラブルでは、プログラミングが非常に容易で、数カ月で実装が可能です。つまり、ハードウェアの開発とは比較にならない短いスパンで最新で最先端の映像処理技術が搭載できるのです。それが一番大きなポイントといえます。

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画像6 「HIGH SPEED EXILIM EX-ZR10」の心臓部

――従来はASICで構成していた部分をリコンフィギュラブルでやると開発スピードを短縮できる、という理解でいいですか?

今村氏: そうです。

――FPGAと似ていますが、違いは何ですか?

今村氏: 確かに再構築可能という点では似ていますが、FPGAは再構築に1秒以上を要するため、電源投入時などに再構成するしかありません。それに対してリコンフィギュラブルは、ほぼ瞬時に再構築できます。つまり、FPGAとの“表面上の特徴差”としては「その時々において必要な回路に瞬時に作り替えができるところ」になります。

 「EXILIMエンジンHS」の前身に当たる「エクシリムエンジン5.0」では、FPGAではありませんがSIMD(Single Instruction Multiple Data)と呼ばれる構成を採用していました。そしてこれも、プログラミングすることでハードウェアに似た性能の実現をある程度までは実現していました。ただこれは、疑似的にハードウェアのように動かしていただけで、本当のハードウェアではありません。そのため、得手不得手がありました。しかしリコンフィギュラブルは、論理回路を瞬時に書き換え可能な“柔軟なハードウェア”なので得手不得手が少なくなり、当然ながら本当にハードウェアなのでほとんどの処理を高速化できます。

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