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BtoB受注生産型製造業でのモジュール設計改革グローバルPLM〜世界同時開発を可能にする製品開発マネジメント(2)(4/4 ページ)

個別受注型生産でもモジュラー設計は実現できる! 受注生産型製造業がモジュラー設計を取り入れる際の影響範囲や業界展望を整理する

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4. 個別受注・セミオーダー型製造業の未来予想

 最後に個別受注・セミオーダー型製造業の未来予想をしておきたいと思います。

1)海外設計の活用が加速

 筆者は海外設計の活用が今後も進展すると予想します。これら個別受注・セミオーダーを主とする業種では、受注都度設計や事前に多くの製品や部品のバリエーションを準備する必要があるため、設計工数が企画量産型よりも多くなる傾向があります。その場合、人海戦術的な業務はコストの低い新興国にアウトソーシングする対策が取られることがあります。現在すでに、住宅業や建材業ではこの取り組みが始まっており、さらに新興国需要を獲得するために、いっそう現地設計は加速するのではないかと予想します。

 また日本の某電子部品メーカーにおいて、海外で仕様決定から設計を行うという、現地化進展のニュースが発表されました。日系電子機器のセットメーカーでは、現地(海外拠点)に権限を与えて、設計から製造までを行い、現地での決定権を委譲する方向性にあり、今後、現地化、現地密着化の流れはより加速するとのアナリスト予想も出ています(参考文献4)。

2)3次元モデルが世界の共通語に

 国内設計者と海外設計者がコミュニケーションする機会が増加しています。国内設計者が意図した設計内容を、海外の設計者に確実に短時間で伝達する必要性が高くなっています。ある設計者から、「言語の違いによる伝達に難点はあるが、3次元モデルでは完ぺきに設計意図を伝達できる」と聞いたことがあります。

 「3次元設計など90年代から行っている」という声も聞こえてきそうですが、筆者は日本ではまだ図面文化であるように思います。海外の設計者から「なぜ3次元設計をしているのに、2次元図面も作成する必要があるのか?」と質問された方もおられるのではないでしょうか。海外の設計現場では3次元設計のスキルを持っていることはもはや当然になっています

 筆者は、日本の2次元図面依存文化は今後、グローバル設計化におけるボトルネックになる危険性を秘めていると考えます。

3)新興国拠点の賃金の上昇

 現在、コストが低いことを理由に海外の設計拠点へ人海戦術的業務を委託している企業も多いと思います。しかし、新興国の人件費は上昇しています。図7のデータは、中国都市部の最低賃金の上昇を示すものです。これを見ると年平均13%の上昇が続いていることが分かります。

図7 中国の法定最低賃金(月給)推移
図7 中国の法定最低賃金(月給)推移
出典:参考文献5(「金融危機以降、中国重視の姿勢を強める日本企業〜第10回『アジアビジネスに関するアンケート調査」から〜』」『みずほレポート2010年7月』みずほ総合研究所、2010年7月)

 また、新興国現地での需要獲得のために、現地で企画から設計を強化する戦略を多くの企業が持っています。新興国の設計拠点にも、賃金に見合った業務機能を持たせる必要性が出てくるのです。

 生産工場が海外に出て、国内が空洞化しているのと同様に、設計でも同じことが将来起こらないとも限りません。今後の国内設計と海外設計のすみ分け、役割分担についても、考慮した業務戦略を早期に立案し、実施していく必要があるのではないでしょうか(次回へ)。


【参考文献】

1)三菱重工業『CSRレポート2008』27ページ(三菱重工業、2008年)
2)日野三十四『実践モジュラーデザイン』(日経BP社、2009年)
3)藤本 隆宏、キム B. クラーク『増補版 製品開発力』(ダイヤモンド社、2009年)
4)「ローム 海外の設計拠点強化…人員倍増、2年で300人」(読売新聞、2010年4月6日)※リンクはWeb版
5)「金融危機以降、中国重視の姿勢を強める日本企業〜第10回『アジアビジネスに関するアンケート調査」から〜』」『みずほレポート2010年7月』(みずほ総合研究所、2010年7月)



筆者紹介

三河 進(みかわ すすむ)

三河 進(みかわ すすむ)

NECコンサルティング事業部
http://www.nec.co.jp/service/consult/services/07.html

NCPシニアビジネスコンサルタント
システムアナリスト(経済産業省)
全能連認定マネジメントコンサルタント
PMP(米国PMI)

精密機械製造業、PLMベンダ、外資系コンサルティングファームをへて、現職。
専門分野は、開発設計プロセス改革(リードタイム短縮、品質マネジメント、コストマネジメント)、サプライチェーン改革(サプライヤマネジメント)、情報戦略策定、超大型プロジェクトマネジメントの領域にある。

自動車・電機・ハイテク・重工などのPLM・SCMに関する業務改革プロジェクトに従事中。

論文「モジュール化による設計リードタイムの大幅短縮」で平成20年度の全能連賞を受賞。

おことわり

本記事は執筆者の個人的見解であり、NECの公式見解を示すものではありません。



世界同時開発を推進するには?:「グローバル設計・開発コーナー」

 世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。



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