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サポート・メンテナンス部門を収益源に変えるちょい先未来案内人に聞く!(2)(3/3 ページ)

洋の東西、老若男女を問わず、モノづくり現場の最前線から、その先を見つめる専門家に焦点を当て、明日のモノづくり環境のビジョンを紹介する。

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アフターマーケットへの挑戦

 現在PTCでは、Arbortextによって製品情報をアフターマーケット情報と連携させることで、新たな価値創造に結び付けようとしている。その活動の先頭に立つ本田氏は、アフターマーケットが、いまだにメーカーにとってコストセンターであるという認識が払しょくできていないと語る。

 「製品は工程ごとにさまざまな情報を持ちます。現在のところ、製品情報として扱われているのは、CADの図面情報やBOMの構成情報が中心ですが、ほかにも製品カタログやセールス活動などの販売前製品情報や、製品の取り扱いや整備保守といった販売後製品情報もあります。製造情報の活用は、開発の最適化につながることから、企業の利益に直接貢献します。販売前製品情報も、セールスに有効に活用することで、売り上げに直接貢献します。しかし、多くのメーカーにとって販売後の情報は、顧客満足度を維持・向上させるために必要なコストとしてとらえられています」。

 これまでコストセンターとしてとらえられてきたアフターマーケットの製品情報は、製造製品情報のように多くの予算が割り当てられることが少ない分野である。そのため、人海戦術でなんとか乗り越えてきたメーカーも多いという。ところが、ここ数年、だんだんアフターマーケットの製品情報にかかわるコストが増大してきているという。

 「欧米を中心に、コンプライアンスなどの理由によって、アフターマーケットの情報の正確性や即時性にプレッシャーが掛かっています。非常に厳しい法規制が敷かれるようになっています。例えば牛肉を扱う企業には、その牛がどこで生まれ、どの牧場で飼育され、どんな飼料を与えられてきたのかといった情報を可視化できる仕組みが求められています。航空・宇宙はもちろんのこと、自動車などでは安全面からもトレーサビリティが重視されています。どの製造番号のものがリコール対象であるかを瞬時に把握する必要があり、かつ、ユーザー個々の整備履歴なども管理すべきです。自動車メーカーであれば、ディーゼル規制への対応などを含むさまざまな情報が必要となっています。どこでいつどんな部品を使って作られたのか、情報の変更管理はどのように行われているのかを証明し、即座に伝達できる環境が重要になってきているのです」。

 Arbortextの実現する「アソシエイティビティ」な環境においては、Windchill上に必ず最新データがある状況であるため、常に最新の情報を取得でき、製品ライフサイクルにかかわるすべてのステークホルダーの間で情報は即時に共有され、変更も管理される。つまり、Arbortextの仕組みを利用すれば、製品の設計・製造段階からアフターマーケットに至るすべての情報を、追跡して把握できる。まさに、いまこそアフターマーケットに求められている仕組みといえるだろう。

 「モノづくりにかかわる情報管理で最も悩ましいのは、製品をよくするために変更が加えられた場合、その情報をフィールドにうまく届けられないことがあるというところです。例えば自動車業界では、国土交通省から認可を受けるため、出荷の1カ月前には製品マニュアルなどのコンテンツを確定しなければなりません。しかし、変更管理がきちんと行われていなかったために、認可のタイミングに間に合わないといった問題が起きてしまうこともあります。このような問題も、PTCは解決することができます」。

 しかし、PTCではアフターマーケットを、単なるコストセンターとしてとらえるのではなく、新たな価値を提供することで、利益を創出する部門へと転換させていきたいと考えているという。

 「製品の取り扱い情報、製品保守情報、交換部品情報など、現在アフターマーケットにおけるコストセンターとなっている情報の電子化を進め、情報のデリバリーを効果的に行う環境を実現することで、新たな価値が想像できるとわたしたちは考えています。例えば、交換部品のオーダーシステムや、アクセサリなど関連商品の販売システムの実現、あるいはメンテナンスの効率化による増収など、これまで利益を生まないと考えられてきたアフターマーケットも、今後は収益を上げるフェイズへと変革していくでしょう」。

 さらに、アフターマーケットにおけるテクニカル・パブリッシュについて本田氏は、より利用者の視点での制作が重要であると語っている。

 「PTCをはじめとするPLMベンダは、長年にわたって製品の開発フェイズに大きくかかわってきました。そのため、設計BOMや製造BOMといった部品表とCADデータの連携といったことに注力してきました。しかし、お客さまはその製品の部品表を評価して購入するわけではありません。その製品の要件や機能、つまり買って何が幸せなのかを知りたいのです。つまり、製品利用で必要とされているのは、機能BOM(Functional BOM)なのです。しかし、大手を除くメーカーではなかなか機能BOMという概念を活用していません。機能BOMを活用しているとしてもExcelで羅列しただけの情報になりがちです。本来、製品利用のフェイズでは、機能要件に立ち返ってトレーニングマニュアルや、ユーザーマニュアルが作成されるべきでしょう」。

 機能BOMとサービスBOMが正しく連携されてこそ、ユーザー志向のドキュメントを提供できるようになるとしている。これこそ、PLMのマネジメント手法の本来のあるべき姿であり、PLMの「輪」がようやくつながることになる。

XMLドキュメントのオーソリティが主導する強み

 「実はArbortextは、とても歴史のあるソフトウェアです。PTCに買収される以前の、独立したソフトウェアベンダであった時代から、Arbortextはダイナミック・パブリッシングを実践していました。1985年に発表された最初のArbortextは、実はTeX(注)のエディターとビューアとして提供されました。つまり、それほど長い間、Arbortextはテクニカルな分野でのパブリッシングと向かい合ってきたのです。また、Arbortextは、XMLのW3Cのコアメンバーでもあるポール・グロッソをはじめとするメンバーによって設立された企業なので、オープンな技術の採用にこだわりを持っています」。


注:TeXは、理工系の学生にはおなじみのドキュメント生成のためのマークアップ言語。


 このようにArbortextの歴史を語る本田氏自身も、2005年にPTCによる買収によって、PTCジャパンに入社したテクニカルパブリッシングのスペシャリストである。XML関連の知識はポール・グロッソ氏直伝という同氏は、長年エンタープライズにおけるパブリケーションの最前線で活躍している。

 「PTCがArbortextを買収したのは、フィールド向けに情報をデリバリーする効率的な仕組みを必要としたためです。動的に、動く情報を最新の状態でデリバリーするダイナミック・パブリッシングは、PTCの考えるアソシエイティビティと非常に親和性が高かったのです」。

◇ ◇ ◇

 PLMにおけるドキュメント制作とは、製品ライフサイクルにかかわる各ステークホルダーに向けた情報のパブリケーションである。Arbortextが、製造ラインのオートメーション技術を、テクニカルパブリッシングに応用し、「ダイナミック・パブリッシング」という新しい分野を開拓したパイオニアであることは間違いない。

 もちろん、テクニカルドキュメントの作成を支援する仕組みや、コンテンツ管理の仕組みを提供しているベンダはほかにも存在する。しかし、すべてのステークホルダー間で情報が共有されるアソシエイティビティな環境、これらの情報をリアルタイムでデリバリーできるダイナミック・パブリケーションの仕組みなど、Arbortextと比較できるほど成熟している製品は、いまのところほかに存在しない。この事実こそが、Arbortextの最も大きな優位性といえるだろう。

 また、製品ライフサイクルの中でも、アフターマーケットに着目し、新たな価値を創造するArbortextのチャレンジからは、今後も目が離せない。

今回のちょい先未来案内人

PTCジャパン 営業技術部 エンタープライズパブリッシング Arbortext製品 スペシャリスト 本田 博秀氏

 Arbortext社時代からダイナミックパブリッシングシステム手法を製品開発システムと連携させたソリューションを多数手掛ける。航空宇宙・防衛産業向け国際規格S100Dのコンサルタントとして国内航空サービス企業などへの助言も行う。現在はフィールド情報を製造メーカーのPDSと連携させた製品ライフサイクル管理サークル導入のメリット・価値提案を推進。欧州での環境規制強化に対応したアフターマーケットサポートシステム構築を指導している。Arvortextは、機械産業や精密機器だけでなく、製薬などの分野での実績も多く、1990年代後半ごろには国をまたいだ協調が可能な特許や新薬などの出願システム構築プロジェクトにもSGML/SMLのスペシャリストとして携わっている。グローバル対応で必須となる欧米圏といわゆるCJKなどのアジア圏の技術ドキュメントの差異とその吸収についての造詣も深い。



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