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インタビュー

FlexRayとAUTOSARは実装段階へ、機能安全と情報系にも取り組む畔柳 滋氏 JasPar 運営委員長/トヨタ自動車 制御ソフトウェア開発部長

国内自動車メーカーを中心に車載ソフトウエアの標準化を推進している団体JasPar。2004年9月の設立からさまざまな取り組みを進めてきたが、2010年度からは、活動の幅をさらに広げていく方針を明らかにしている。2009年7月からJasParの運営委員長を務めているトヨタ自動車 制御ソフトウェア開発部長の畔柳滋氏に、これまでのJasParの活動成果や今後の方針について語ってもらった。 (聞き手/本文構成:朴 尚洙)

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FlexRayの採用時期

 2009年度までのJasParの活動は、次世代車載LAN規格であるFlexRayと、車載ソフトウエアの標準規格であるAUTOSARに関するものが中心だった。

 現在、制御系システムの接続に用いる車載LAN規格としては、伝送速度が最大1メガビット/秒(Mbps)のCAN(Controller Area Network)が主流となっている。しかし、自動車の電子システムが高度になることにより、CANでは伝送速度が不足する可能性が出てきた。そこで、欧州を中心に新たに策定された規格が、最大伝送速度が10MbpsというFlexRayだ。

 JasParは、FlexRayを策定するFlexRayコンソーシアム(FRC)に、2.5Mbpsや5Mbpsの伝送速度で利用する手法や、コンフォーマンステスト(規格適合試験)など、FlexRayの実装や運用面で役立つ事柄について提案を行ってきた。FRCとは協調を深めており、2008年11月にFRCが開催したイベントでは、JasParの活動に対してFRCから感謝のコメントがあったほどだ。なお、JasParから提案した事項は、FlexRayの次期バージョンである3.0に盛り込まれる見通しである。

クロヤナギシゲル 1983年、トヨタ自動車に入社。以降、パワートレイン電子システムの先行開発/量産開発などを担当。近年は、電子プラットフォーム主査として、電子システム全体のアーキテクチャおよび要素技術の企画/開発を担当している。2009年6月、制御ソフトウェア開発部長に就任(現職)。同年7月、JasPar運営委員長に就任。
クロヤナギシゲル1983年、トヨタ自動車に入社。以降、パワートレイン電子システムの先行開発/量産開発などを担当。近年は、電子プラットフォーム主査として、電子システム全体のアーキテクチャおよび要素技術の企画/開発を担当している。2009年6月、制御ソフトウェア開発部長に就任(現職)。同年7月、JasPar運営委員長に就任。 

 このように、JasParが進めてきたFlexRayに関する活動の活発さに対して、日本の自動車メーカーによるFlexRayの採用が遅れているという指摘がある。その理由としては、日本の自動車メーカーが、2009年以降、製品開発の重点を高級車から低価格車にシフトしたことが挙げられる。低価格車の場合、高コストのFlexRay対応マイコンやトランシーバを搭載することはできない。また、高級車でも必ずしもFlexRayが必要となるわけではない。

 確かに、高速な通信を行う必要があるシステムでも、運用手法を工夫することにより、まだCANを利用する余地は残っている。だが、高級車に搭載するような高度なシステムの場合、CANの伝送速度が限界を迎えつつあるということも事実だ。

 例えば、ある欧州メーカーがFlexRayを利用して構成したサスペンション関連のシステムは、実際にFlexRayが必要になるレベルの通信を行っていると聞いている。つまり、FlexRayありきで開発したのではなく、CANでは不足だったから、FlexRayを採用したということだろう。日本の自動車メーカーも、FlexRayが必要になれば利用するというスタンスだ。

「国プロ」の成果

 AUTOSARについては、2007〜2009年度にわたって経済産業省の支援の下で進めてきた「自動車向け共通基盤ソフトウエアの開発事業(以下、国プロ)」で、多くの成果を得ることができた。

 AUTOSARは、車載ソフトウエアの構造を標準化することにより、ソフトウエアを部品化して再利用可能にしようというものだ。しかし、この標準化によって、ソフトウエアを実行するのに必要なマイコンの処理能力やメモリーの容量が大きくなってしまうという問題があった。国プロでは、JasParが開発したプロファイル/クラスタ化というコンセプトを導入することにより、マイコンの処理能力やメモリーの容量の増大を抑えられることを実証した。また、これらのコンセプトを実現するためのツールも開発した。ほかにも、AUTOSARを実装するという観点からさまざまな取り組みを行い、成果を上げている。

 日本における量産車へのAUTOSARの適用については、国プロでの成果をJasParに参加する企業がどのように活用するかによる。なお、トヨタ自動車としては、2010年末までに、AUTOSARに準拠した車載ソフトウエアを量産車に採用する予定だ。対象となるシステムはボディ系である。

機能安全規格への対応

 2010年度からは、JasParの活動の幅をさらに広げていく。まず、自動車向けの機能安全規格であるISO 26262についての取り組みを進める予定だ。ISO 26262を車両開発に適用する場合、具体的にどのようなことをするべきなのかまだ不明瞭な点が多い。日本の自動車工業会(以下、自工会)が作成しているISO 26262に関する解説書は、自動車メーカーが取り決めるべき工程を中心に置く方向で検討されているが、ソフトウエア開発工程やツールの開発など、サプライヤやツールベンダーが大きな役割を果たす工程についてはいまだ検討途中の段階である。そこで、自工会やAUTOSARと協力して、JasParの得意とするソフトウエアやツールに関する分野を中心に、AUTOSARの最新仕様であるリリース4.0を参照しながら、よりわかりやすい解説を加えていきたいと考えている。また、世界全体でISO 26262に対するコンセンサスが得られるように、自工会と海外の自動車工業会が連携することにも期待したい。さらに、国プロの第2期に当たるものとして、ISO 26262に関する開発プロジェクトを経済産業省に提案しているところだ。

 これまで、JasParの活動は、制御系システムを対象にしたものがほとんどだった。今後は、車載情報機器などの情報系システムに関する取り組みも進める。一例となるのが、2008年から行っている車載情報機器と携帯電話機のBluetooth接続に関するコンフォーマンステストへの取り組みだ。現在、このような接続試験は、各自動車メーカーがさまざまな種類の携帯電話機を自社で用意して、個別に行っている。JasParでは、この負担を軽減できるような標準的なコンフォーマンステストの仕組みを策定しているところだ。また、この仕組みを世界全体に広げるために、Bluetooth SIG(Special Interest Group)やCE4Aなど、海外の組織との協調も進める必要があると考えている。

非競争領域の重要性

 技術者の組織であるJasParとしては、その成果を声高に主張することは重視していない。それよりも、JasParの成果が広く利用され、自動車の開発に役立っているという事実こそが重要だ。そのためにも、国内外の組織との協調をさらに推進したいと考えている。日本の自工会との連携や、Bluetooth関連での取り組みはその事例となるものだ。

 2008年後半のリーマンショック以降、自動車業界を取り巻く環境は厳しい。現在、自動車開発に携わる技術者には、従来よりもさらに無駄を省くための努力が求められている。そのためには、非競争領域における共同開発を促進することが必要だ。非競争領域における開発を行うJasParの重要性は、今後もさらに高まっていくと確信している。

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