踊る大規模解析最前線:MONOistセミナー レポート(2)(1/3 ページ)
アンシスが最新の大規模解析事情、富士通がHPCをめぐるハードウェア事情、そしてIHIが実際の設計現場におけるCAEについて大いに語る
@IT MONOist編集部は2010年7月9日、「@IT MONOist メカ設計フォーラム主催セミナー HPCが元気にする! ニッポンの製造業と設計開発」を東京・品川で開催した。当日は多くの方々が来場し、セミナーは盛況のうちに幕を閉じた。本稿では、アンシス・ジャパンと富士通、IHIのセッションの模様をレポートする。
上記セッションの前に行われた東京大学 生産技術研究所 革新的シミュレーション研究センター長 加藤 千幸(ちさち)教授による基調講演、エムエスシーソフトウェア 代表取締役社長 加藤 毅彦氏のセッションについては、MONOistセミナー レポート(1)「HPCでモノづくり敗戦状態から脱出せよ」で紹介しているので、併せてご覧いただきたい。
流体解析における大規模解析の現状
アンシス・ジャパンのセッション『ANSYS FLUENT/CFXの最新情報 〜大規模計算事例と新機能トピックス〜』では、同社技術部 第2グループ エンジニアリングマネージャー 坪井 一正氏が登壇し、同社の流体解析ソフトウェア「ANSYS FLUENT」および「ANSYS CFX」の紹介とそのHPC対応の現状(事例)を述べた。
HPC環境による大規模計算のニーズは、同社ユーザーの間で確実に高まっているという。ANSYS製品におけるHPC環境への対応については、同社における主要開発テーマの中の1つでもあるという。
同社製品では、1億セル程度の大規模計算ならすでに現実的であるが、今後は約10億セル、あるいは1000パラレルなど大規模パラレルも現実的に対応できるようにしていくという。
実際の解析例
まず坪井氏は、同社ユーザーによるF1車両(BMW Sauber F1 Team)の空力計算の事例を示した。この計算では、メッシュ数で1億セルぐらいだという。通常、F1車両における空力計算では、5000万〜1億セルに及ぶ。レース中における追い抜きの計算もすれば、車両数は2〜3台になり、さらに数億セルに増大する。「これは2006年の例ですから、いまはもう少し向上しているかもしれません」(坪井氏)。ともあれ、これが現状の汎用ソフトウェアにおいて、現実的な範囲での最大レベルの解析であるという。
また同社ユーザーが行ったレース用ヨット(Amarica’s Cup)の大規模解析例では、12億セルで、512〜1000パラレルの間。こちらはエンジニアリング上の必要性だけでなく、解析能力の検証という側面もある事例であるという。
もう1つ、シーメンス社のターボ機器における動静翼(5段)計算の例を示した。750流路(動静翼の枚数だけ流路が存在)で、3120万ノード。こちらも実際に設計の中で使われてくるレベル。こちらは設計プロセス後半に近いところの計算とのことだ。
さらに約3年前に紹介されたGEのガスタービン燃焼器設計の流体解析事例を示した。こちらは設計プロセスのやや前の方になるという。2000万〜3000万セルの間で、並列数は16〜32の間の計算とのことだ。この事例では、チーム体制で解析業務を行い、「メッシング」「解析」「ポスト」で分業しているとのことだ(最大5人体制)。
HPCを燃焼器の全体設計(概念から初期、詳細まで)で使うためには、各要素単における予測精度が重要だという。まずソルバの能力をきちんと自分たちで把握し、乱流モデルなど、物理モデルの使い分けも検討する。それが自分たちの解析対象に対し、正しい、あるいは評価に耐えうるモデルなのかも評価しなければならない。そのうえで、燃焼器のさまざまな要素、要素単位での解析精度を評価する。最後に設計モデル全体で検証を行う。その時点で計算は非常に大規模化し、その際の作業効率化は肝となる。
ANSYSの開発課題
同社の流体解析ソフトウェアのHPC対応における開発課題としては、HPC環境で効率のよい解析作業を可能とするソルバ機能の向上を挙げた。具体的には以下だという。
- ソルバ単体の計算スピード向上
- 並列効率のアップ
- 高速ファイルI/O
- 領域分割の改良
大規模計算における非定常計算で、ネックとなるのはファイル入出力(I/O)。同社製品では並列計算におけるI/Oとして、分散型ファイルシステム(HP/SFS、Panasas、IBM/GPFS、PVFS2など)に対応しているとのことだ。それにより解析における領域分割を効率化し、計算時間も短縮可能だという。
また、ベンチマーク課題はさまざまあり、同社はさまざまなハードウェアを試している際中とのことだ。富士通製のPCクラスタもその1つだ。
富士通製PCクラスタで、同社のFLUENTを使いベンチマークしたデータは以下。
「ベンチマーク時には、最大256コアぐらい、1億セルの計算をしています。もちろんソフトとハードと合わせての性能ですが、このようないい結果が出ました。これがいま現在の汎用ソフトの実力といえます」(坪井氏)。
最後に、同社の開発した、流体領域と固体領域が別々のメッシュで組み合わせられる技術「Immersed Solids」を紹介した。「設計者に使ってもらうなら、ツールの使い勝手を向上し、簡単に解析の世界に入ってきてもらうかが大事」と坪井氏。この技術は、「流体解析はハードルが高い」と感じるユーザーに向けた取り組みの1つでもある。今後は、企業内の設計者も活用していくであろうHPCのアプリケーションでも、同様のことがいえるだろう。
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