敗北から得た大きな成長と勝つためのヒント:Imagine Cup 2010 世界大会レポート(5)(1/2 ページ)
Imagine Cup 2010が閉幕した。本稿では組み込み開発部門の結果と東京高専「CLFS」のコメントから次につながるヒントを探る
2010年7月8日(現地時間)、マイクロソフト主催の学生向け技術コンテストImagine Cup 2010 ポーランド世界大会が6日間の会期を終え、ついに幕を閉じた。
ワルシャワ市内のオペラハウスで行われた閉幕式では、前日に行われたファイナルの結果が発表され、各部門の入賞チーム(国)がコールされるたびに、会場からは多くの歓声と拍手がわき起こっていた。すべての競技を終え、国や地域を超えて互いの健闘をたたえ合う姿はお世辞抜きにすがすがしく、この大会が競技の側面だけではないことを感じさせてくれた瞬間であった。
組み込み開発部門、全15チームの頂点に立ったのは、台湾代表のチーム「SmartME」。続く2位はロシア代表のチーム「MCPU」、3位はフランス代表のチーム「GERAS」という結果となった。なお、筑波大学附属駒場高等学校のチーム「PAKEN」が出場したソフトウェアデザイン部門の結果については「テクノロジーのライジング・サン、アジア勢が主要部門を制覇」をご覧いただきたい。
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⇒ | テクノロジーのライジング・サン、アジア勢が主要部門を制覇 |
組み込み開発部門優勝は台湾
優勝した台湾は、「ミレニアム開発目標(MDGs)」から「環境の持続可能性の確保」をテーマに選択。家庭やオフィス内で使用される電化製品の電源がONになると監視システム上でポップアップが表示され、監視下にあるすべての電化製品の消費電力をモニタリングし、どこで、どのように、どのくらい使用されているのかを管理/表示することで、電力消費の無駄を削減するソリューション「Smarter Meter」を披露した。ファイナルのプレゼンテーションでは「1人1人が無駄な電力消費を意識することで、1世帯当たり25から30%の電力消費を削減できる」と強く訴えていた。彼らは、今後もこのソリューションの見直しを継続し、ビルのような大きな建物全体を監視できるよう改善していくという。安定したプレゼンテーションとデモンストレーションの見せ方に工夫のあった台湾が関係者の前評判どおり好結果を残した。
2位のロシアはMDGsの「普遍的な初等教育の達成」をテーマに、幼稚園や小学校低学年の教育をサポートするロボット「Robonanny」を披露。初等教育現場で不足・欠如しがちな楽しさ・興味、配慮、信頼性をカメラやセンサ、音声技術を搭載したロボットで補おうとするもので、遠隔操作により教育の補助やダンス・体操などさまざまな動作を実現しているという。正直なところ、筆者は「この程度のロボットであれば、日本の学生の方がもっとすばらしいものを作れるはず!」とロシアの2位入賞を素直に受け入れられなかった。しかし、ある関係者は「ロシアは日本ほどロボット開発ですぐに使えるような部品・素材がない(手に入りづらい)環境かもしれない。それを学生が一から作ったとしたらどうでしょうか」とコメントしていた。その真偽は分からないが、もしかするとそうした点が技術力として高く評価されたのかもしれない。
3位のフランスは動作感知センサ付きカーペットを用い、高齢者が心臓発作などで床に倒れた際、緊急事態を把握・分析し、救急連絡をするソリューション「GERAS(Geriatric Emergency Recognition and Assistance System)」を開発。開発メンバーは「わたしの祖父が倒れたときの実体験をきっかけに開発に着手した」と話し、介護付き老人ホームに入らずとも、高齢者が自宅で安全な生活を送れることを目指したという。この結果について一部関係者から「一体、MDGsのどれに該当するのか?」と疑問の声が上がっていたが、裏を返せばMDGsに完全にマッチしていなくとも“発想力・技術力の点で高く評価されれば上位に行ける可能性がある”ととらえることもできる。
上位入賞チームから得た勝つためのヒント
学生たちがMDGsという壮大な目標からテーマを選択してチャレンジする今回のImagine Cup。しかし、3位入賞のフランスやファイナル進出(ベスト6入り)を決めたイギリスの視覚障害者向けのシステム「senses」を見ると、MDGsの達成よりも技術力やアイデアの点での評価が重要視されていたように感じる。MDGsに縛られずにアイデアや技術力からスタートして作品を作り上げるのも1つの手ではないだろうか。
一方で、別の関係者は「システムの中でコンピュータ(eBox:eBox-3310A-MSJK)が裏方として使用されている作品が高評価を得たのかもしれない」と今回の結果をこう振り返っていた。ロシアとフランスの作品を見るとeBoxやそこで動作するソフトウェアは完全に裏方として存在し、作品の表面上は(ロボットの)メカ的な機構であったり、センサが主であったといえる。「より組み込みらしさが求められたのではないか」(関係者)と分析していた。今回の結果から組み込み開発部門で勝ち上がるためのヒントが少しだけ垣間見えた気がする。
さらにファイナルラウンド終了後、「組み込み産業はグローバルなマーケット。Imagine Cupのような国際的なイベントに出場することは製品化への近道でもある」と述べたImagine Cup 組み込み開発部門 責任者 Scott Davis氏の言葉にもヒントがある。組み込み開発部門よりも歴史の長いソフトウェアデザイン部門では、過去のImagine Cupをきっかけに実際に起業した学生もいるという。組み込み開発部門でも「Imagine Cupを利用して、自分たちの作品を基に起業してやろう。製品化してやろう」というくらいのしたたかさが必要かもしれない。
また、今回のImagine CupではTwitter(@ImagineCupJP)やUstreamが活用され、リアルタイムで世界大会の様子が配信された。そこにはさまざまな感想や意見、分析が寄せられている。“MDGsに縛られずにアイデアや技術力からスタートして作品を作り上げるのも1つの手ではないだろうか”と記した筆者だが、別の視点からのヒントとして特に印象に残っているツイートがある。それを紹介したい。
体温計も体重計も血圧測定器も……残念ながら、豊かな国、持てる国の学生の発想なんですね。それらの機器がまったく普及していない国や地域を想像することからスタートしないと……。
これは、スタッフの1人として実際に本大会に向け日本代表チームを支え、同行したマイクロソフトの渡辺 弘之氏(@hwata007)のツイート。同氏は組み込み開発部門の結果、そして国立東京工業高等専門学校のチーム「CLFS」のソリューションを振り返りTwitter上でこうコメントしている。先進国の学生たちにとっては、貧困国・地域が抱える課題をどこまで掘り下げることができるのかが重要といえる。アイデアや技術力からスタートとしてもいいのでは、という筆者の考えとはまた別の視点からの意見ではあるが、これも実際に今回のImagine Cupを見聞きし、経験した人の貴重な意見・ヒントとして、真摯(しんし)に受け止めたい。
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