“本気”で勝つ! Imagine Cupベスト6へ向けた決意:Imagine Cup 2010 世界大会レポート(2)(1/2 ページ)
マイクロソフト主催のImagine Cup 2010世界大会が開幕した。出発前日の壮行会と、ポーランドで行われた開会式の模様をお伝えする
――FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会で、サッカー日本代表は日本中に大きな感動を与えてくれた。国の代表として世界の大舞台で戦い、全力を出し切った選手たちの姿は清々しく輝いていた。このサッカー日本代表が帰国するのと入れ替わる形で、いま、もう1つの日本代表が遠くポーランドの地に降り立った。高専生/高校生からなる若きサムライたちが挑戦するのは、マイクロソフト主催の学生向け技術コンテスト「Imagine Cup 2010 世界大会」(会期:2010年7月3から8日)だ。
本稿では、ポーランドへ向かう前日(2010年7月1日)、マイクロソフト(日本法人)本社で行われた壮行会、そして、決戦の地ワルシャワにある文化科学宮殿で行われた開会式の模様をお伝えする。
マイクロソフトの学生支援、そしてImagine Cupの位置付けとは?
@IT MONOistの読者にはあまりなじみがないかもしれないが、マイクロソフトは“国際競争力のある次世代人材の創出”に力を入れ、学校や学生に対し、「専門力」「実践力」「挑戦・国際力」「応用力」を養うためのさまざまな取り組みを行っている。この中で、挑戦・国際力を育成する具体的な活動の1つが、学生向け技術コンテストImagine Cupだ。今回で8回目を迎えるImagine Cup 2010では、100を超える国・地域から約33万人が参加。予選審査で選抜された約450名の学生が世界大会に集う。6日間の長い間、競技会はもちろんのこと、文化交流/展示交流会などが設けられ、国際力・総合力の育成を目的としたカリキュラムが組まれている。
今大会は、前回大会に引き続き「ITで世界が抱える問題を解決する」というテーマが掲げられている。競技部門はソフトウェアデザイン、組み込み開発、ゲーム、ITチャレンジ、デジタルメディアの5つ。参加チームはこの課題を解決するソリューションを提案しなければならない。
今回、日本代表として世界大会に挑戦するのは、組み込み開発部門で世界大会2度目の出場となる国立東京工業高等専門学校のチーム「CLFS」と、ソフトウェアデザイン部門に出場する筑波大学付属駒場高等学校のチーム「PAKEN」だ。組み込み開発部門が全15チーム、ソフトウェアデザイン部門が全68チームと、両部門ともに世界大会出場チームの多い競技ではあるが、「今年は“本気”。ベスト6を狙っていく」という。
こう力強く宣言したのは、壮行会で最初に登壇したマイクロソフト アカデミックテクノロジー推進部 部長 伊藤 信博氏。これまでImagine Cup日本代表をスタッフとともに陰ながら支えてきた、いわば応援団長的な存在だ。
ここ最近のImagine Cup世界大会で日本代表チームは思うような結果が残せていないのが実情。伊藤氏の発言は大胆(たん)なようにも思えたが、実際に壮行会で披露された両チームのプレゼンテーションを見て筆者の考えは変わった。ソリューションの作り込み、プレゼンテーションの流れ、英語力とどれを取っても確実に日本大会のときとはレベルが違った。「これはひょっとしたら」という思いが筆者にもわいてきた。
この進化ともいうべき急成長は、前回の記事「日本代表チーム、強化合宿の成果はいかに?」で紹介した「学生サポート研修」の成果にほかならない。プレゼンテーションスキル、英語レッスン、ビジネスモデルレビュー、テクノロジーレビューなど世界大会で“勝つための”トレーニングを献身的に行い、サポートし続けてきた成果が確実に出ている印象を受けた。
今回はじめて行われたこの学生サポート研修。伊藤氏はこれまでのImagine Cupをはじめとする学生支援で得た経験から「きれいごとばかりでは人は育たない。何よりも大切なのは、若い人たちが持っている情熱や発想、可能性を“最大限に引き出してあげること”だ」と人材育成の難しさを語った。こうした経験を踏まえ、今回は世界で活躍するために必要な総合力強化を第一の目的に研修内容を組み立て、例年以上の献身的なサポートを行うに至ったそうだ。
壮行会では、そのほか過去3回のImagine Cup世界大会の出場経験を持つ東京大学 知の構造化センター 特認助教 中山 浩太郎氏や、PAKENを支えてきた筑波大学付属駒場中・高等学校 市川 道和氏、同じくPAKENのメンターを務めたワンビ 代表取締役社長 加藤 貴氏、そして、CLFSのメンターを務めた国立東京工業高等専門学校 情報工学科 教授 松林 勝志氏らが登壇。両チームにエールを贈った。以降では代表して、CLFSを世界大会に導いた松林氏のメッセージを紹介する。
ニホンのモノづくりを支える次世代の人材育成がきっかけ
今回のImagine Cupで@IT MONOistが注目しているのは組み込み開発部門に出場する国立東京工業高等専門学校のCLFS。壮行会では、メンターという立場でチームを支え、同校2度目の世界大会出場に導いた情報工学科 教授 松林 勝志氏が登壇し、Imagine Cupへの参加のきっかけについて触れ、学生たちに檄を飛ばした。
冒頭、松林氏はIPAの調査結果を基に、組み込み産業の深刻な人材不足について触れ、「いま、日本のモノづくりの将来を支える次の若い世代がきちんと育ってきているのか?」と教職者の立場から警鐘を鳴らした。
関連リンク: | |
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⇒ | 2009年版組込みソフトウェア産業実態調査報告書の公表について |
近年の韓国、中国、台湾などの組み込み産業の成長は著しく、モノづくりの世界でかつて日本がリーダーシップを発揮していた状況が一変し、技術力の差はなくなってきたといえる。松林氏が危惧(ぐ)するこの問題(人材不足)を単純に“量”としてだけでとらえれば組み込み産業のエンジニア不足は比較的簡単に解決するかもしれないが、“質=技術力”が伴わなければ、このまま他国の勢いに押され、日本の組み込み産業は完全に失墜してしまいかねない。若い世代を育てることは、短期的に達成できるものではないが、モノづくりへの興味・関心を若者に抱いてもらえるようなきっかけ作りや、可能性を引き出し、技術力を磨けるような機会・場を作り出すことが急務といえる。しかも、その取り組みは教育現場だけではなく、産学官が一体となって進めていかなければならない。
こうした背景から松林氏は、マイクロソフトが学生の挑戦・国際力を育成する取り組みとして推進しているImagine Cupに参加することを決意。「日本にも技術力のある学生がきちんと育っていることを世界に知らしめたい」とCLFSのメンバーに視線を送り、熱く語った。
CLFSは昨年に引き続き、日本の母子健康手帳を電子化し、貧困地域の幼児死亡率の引き下げ、妊産婦の健康の改善を実現するソリューション「Electronic Maternal and Child Health Handbook」を提案。血圧計やカメラなど昨年実装し切れなかった機能などを作り込み、ブラッシュアップして2度目の世界大会に臨む。松林氏は「アイデア、技術力では決して他国に負けていなかった」と昨年の敗戦を振り返り、「今回はプレゼンテーションの指導にも力を注いだ」と力強く述べた。
昨年のソリューションを引き継いでいる点が、世界大会本番でアドバンテージになるかどうかは正直分からないが、昨年の上位チームに引けを取らない技術力を彼らは確実に持っている。今回磨きをかけたプレゼンテーションでその技術力と日本の母子健康手帳の優位性を存分に披露し、審査員を唸らせてほしいと願う。
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