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微細加工は腕自慢じゃない。飯の種なんだ微細加工の現場(3)(3/3 ページ)

設計者が通常、直接見る機会を得づらいだろう加工の現場を取材していく。自分の設計した部品が、いったいどのような方法で具現化されているのか、実感するためのヒント提供はもちろん、モノづくりの純粋な楽しさも伝えられれば幸いだ。(編集部)

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極・微細加工のためのスーパーマシン

 入曽の微細加工を究極の域へ導く最新鋭の装置が、こちら。まだ世界に3台しかないという5軸制御加工機「NN1000」だ。同社では、製造元の森精機製作所と協力し合いながら、立ち上げを行っている。超デリケートな装置ゆえ、そう単純にはいかない。最適な加工条件・方法も、まだまだ詰めている最中とのこと。

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NN1000:床からの振動を吸収するようになっている

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NN1000のオペレーション画面:小数点以下の桁(けた)数に注目

 現状は、数十nm(ナノメートル)ぐらいまでの精度。目指しているのは、さらにその上。この夏、2号機が同社に搬入される予定だ。

 この装置があれば、加工時の分解能(精度)の限界が解消され、0.3mmよりさらに小さなサイコロが確実に作れるようになるそう。でも、いまはまだ、着手するときではないとのこと。「0.3mmのサイコロやそのくらいのサイズの部品を作ることが業界で一般的な技術になってからだよ! いまは、まずこの加工技術を皆に伝授しようとしてるんだ。それからだなぁ……」(斎藤社長)。

これが斎藤流! 機械製図論だ

 「もうさ、いっそ図面から公差をなくしたらいいんだ」と斎藤社長。

 記者は思わず、「本当にいいんですか?」と尋ねてしまう。

 「さすがに、寸法のすべてをそうするのは非常に危険だよ。だから、設計の重要なポイントとなる公差を外すの。設計で大事な個所は、公差を書かないで、作り手との打ち合わせで精度を取り決めした方が俺はいいと思う。最先端の加工技術を使うと、設計側が思っているより、もっともっと精度が出せるかもしれないでしょ」(斎藤社長)。

 ここで注意していただきたいのは、あくまで、日本人のよさを生かすための設計・製造の話だということ。

 「それを行うには、設計と製造、お互いの信頼関係とモラルがなければいけない。信頼関係とモラルがあれば、ノウハウを盗んで商品化なんてしないよ。きっちり図面化することのデメリットは、その図面が盗まれて、そっくりに設計をまねされ、商品化されてしまうことだと思う」(斎藤社長)。

 絶大な信頼を置かれれば、頼まれる方も俄然(がぜん)、やる気が起こる。仕事上でお互いの思いや信頼関係を大事にし、作業に対し生まじめなのは、日本人の美徳。そうした性質を存分に生かすモノづくりをする。また合理主義な考え方をする国とは、それに合ったやり取りをすればよい。

 最近、バンプレストから同社に持ち込まれたキャラクターオブジェの案件の図面には、公差はおろか、寸法記載すらない。この件、他のメーカーからは、寸法が入っていなければ製作は無理だと断られた経緯があった。メカニックデザイナー 大河原 邦男氏の意向と思いを受け、入曽が創意工夫し、それを忠実に具現化した。バイクのカスタムショップの部品開発案件では、入曽のスタッフが積極的にその設計や解析に参加した。

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ハーレー用カスタムエアクリーナー「タイフーンファンネル エアクリーナー」

 これらは設計と製造とが信頼関係でつながり、そこにモラルがなければ、成し得ない案件たちだ。

 モノづくりという仕事は、地味で、暗くて、楽しくない。何でもかんでも機密保持、機密保持と、コソコソしなければいけない。設計・製造……特に加工側は、自分たちの創造性を発揮させる機会は稀(まれ)。でも、本当にそれでいいのだろうか?

 仕事のやりがいとは、「自分たちが、そこで必要とされている」ことを心の底から実感することではないだろうか? ニッポン製造業のモチベーションを高め、元気をわかせようと、日々尽力する斎藤社長。彼の仕事は、“人生の使命”だという。

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「大事なのは、素直さと、思い」という斎藤社長

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