検索
連載

金型がなくても、個人でも、製品の量産はできる?「技術の森」モリモリレビュー(7)(2/2 ページ)

思い付いた自分のアイデアを商品化したい。でも金型の費用って、高い。では、人件費の安い中国の工場にお願いすればいい?

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

将来、金型はなくなるのですか?

「将来は、金型の不要な成型技術(レーザーと光造形樹脂など)ができると思いますか?色々調べましたが、まだ、機械が高くて個人が買えるようなものではないようでした。

もしも、印刷の分野のように、CGで作ったデーターを送って、全自動で機械が安く大量生産してくれるようなサービス(自分で組み立てて、製造販売する場合)も出てくる可能性があるのでしょうか。難しいものは無理かもしれませんが、醤油さしのような簡単な形状なら、どうでしょう」(投稿者さん)

 ここでいう「成形技術」は、量産技術を指していると思われる。よって、金型がなくても、部品の量産は可能なのだろうか、というのがこの部分の問いということになる。しかし、この人にとっての量産が、いったいいくつなのか? また、大きさはどれくらいで、材質は何なのか。それにより、答えは異なってくる。

 投稿者がいっているような技術(「CGで作ったデーターを送って、全自動で機械が……」)は、おそらくRP(ラピッドプロトタイピング)のようなことだろうか。最近のRPの装置はコンパクト、かつ安くなってきてはいるものの、それで自動車部品などを量産するのはまず厳しい。

 RPが量産金型に完全に取って代わられることは厳しいが、金型製作には応用されている。それは、金属光造形複合加工法という技術だ。


 「金属光造形自体は、日本の積層法とコンピュータを組み合わせたアメリカの技術で、もともと金型レスの考え方だったのです。日本の金型にアメリカが負けたから、金型なしで勝負しようということで生まれた技術でした。しかし日本人の発想は面白くて、その技術で金型を作ろうとしたのですね」(細川氏)。

 上記は、金属光造形と切削が合わさった装置だ。レーザー焼結された薄い金属の層を何層か積み上げ、1回の切削加工を施す。これの繰り返しで造形していく。しかもそれが1つの装置の中で、自動で行える。例えば、金型冷却の給水管も、積層造形の工程が入るため、切削よりも自由な形状に設計することができる。また、レーザー焼結の強度が可変であるから、例えばポーラス(多孔質)な層を作って、ガス抜き、脱型に使うこともできる。

 造型は無人で行え、1工程でできるので、トータルでの費用削減なら期待できるかもしれない。

事業プラン“はじめの一歩”

 そもそも、この投稿の最大の問題点は、投稿者が具体的なビジネスプランを考えていなかったこと。「ちょっと、聞いてみたいなぁ」というノリだったからかもしれないけれど……。閲覧者には、モノづくりを飯の糧にしている、かつ厳しい競争を強いられている人が多い。これでは、「ちょっと、この人はまじめに考えているの!?」「モノづくりをなめていない?」と、あきれられてしまうこと必至だ。


e-金型研究所 所長、enmono顧問 細川 敏宏氏

 「趣味なら、自分の貯金をはたいて、できる範囲で物を作ればいい。しかし、この方は商売を考えているようですから、事業プランをしっかり考えないといけません」(細川氏)。

 事業プランの立て方なんて、企業内で設計を続けていく人には、あまり関係のないことかもしれない。しかし、いつ自分の人生感が大きく変わるか分からない。とある素晴らしいアイデアが浮かんで、脱サラしたい! ……という野望が、滾々(こんこん)とわくかもしれない。ここでは、そんな万が一のときの、“はじめの一歩”について、細川氏にお伺いしてみよう。

 「まず、アイデアを特許申請するなどしてオープンにすることが大事です。また、事業計画もちゃんと作ることが重要です。そうすれば、起業支援している企業や団体が動いてくれます。ですから、特許料ぐらいは自分で払えるほどには、こつこつお金をためないといけませんよ」(細川氏)。

 特許申請は、必ず弁理士に頼まなくてはいけないわけでなく、自分で書くことも可能だ。特許出願は、1万5000円、審査請求をすれば、約16万円。審査請求は、必ずしなくてもよいものだ。出願すれば、その内容が特許広報に掲載されるため、それだけで、自分の考えたアイデアだと“ツバを付けておく”効果は十分だ。


 事業立ち上げや特許申請の仕方については、市役所や商工会議所に無料相談窓口がある。まずは自分なりに計画を考えてみてから、そういうところへ持ち込んでみる。ひとまずアクションを起こすことが、一番大事だ。

 ちなみに、投稿者が選んだ良回答は、以下。事業計画の立て方の基本が指南されている。細川氏が見ても、バッチリな回答とのことなので、安心して参考にしてほしい。

「事業計画を作成する場合、特に統一的な書式があるわけではありません。書き方は人それぞれですが、今回の場合見る人(私)を納得させて、事業の将来性に期待ができる様な、内容が必要です。

事業計画を作成する目的は、事業内容を論理的に整理し、事業の仮説を立て下さい。私の専門分野で無い場合は、似たような商品・事業との比較をして頂ければ、解り易いですね。

自分で事業計画を立てることによって、事業分野の見聞を広め、事業の将来性等も具体的に明らかになると思います。

具体的に下記の内容は必要です。

  1. 商品の詳細
  2. 初期投資費用
  3. 商品の販売単価
  4. 市場規模
  5. 初年度から3年間程度の売り上げ目標
  6. 販売方法
  7. 収益計算書

事業計画書は、何度も何度も見直し、書き直すことで完成度が上がりますので、手間を惜しまず、整理して下さい」(回答12さん)

 そして、細川氏の選んだ、もう1つの良回答は、回答11。

「商品化の備忘録拝見しました。

>どこかの企業で、初期費用無しで生産してくれて、売れたら

>返還する方法でもいいと言ってくれる所があったらいいのにと

>思うのですが難しいでしょう。

ご希望のような共同事業をやっております。

金型・試作まで友人との共同ファンドで支援し、量産化の時に

初期投資費用を、単価に勘案して契約する方法です。

当方にもリスクがありますので、支援する事業内容(商品)には

事業計画を提出して頂き、その将来性・事業性を審査・検討した

上で、決定致します。

事業計画書を出して頂ければ、検討します」(回答11さん)

 「投稿者さんが、こことうまくコラボしたら、できるでしょ? きっと」(細川氏)。

 「投稿されてから1週間という短期間で、これだけの返答があり、これだけ勉強できるというのは、IT(Webサイト)の素晴らしさだと思います。この人も、投稿がきっかけで、いかに自分が無知だったかを思い知らされ、自身の決心も確認することができたのですし」(細川氏)。

 SNSやオフ会がきっかけで、サラリーマンから、1メーカーの社長になった人もいる、いまの時代。Webの世界を通じて、一昔前ではあり得なかったビジネスが生まれる――しかも自分自身がその当事者になるかもしれない。今回の記事が、そのための何らかの気付きにつながれば幸いだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る