電気自動車でぶっちぎれ!(2/3 ページ)
ドラッグレースと言えば、GM社の「コルベット」やChrysler社の「ダッジ バイパー」に代表される、数百馬力のガソリンエンジンを搭載したスポーツカーが活躍するというイメージが一般的だ。しかし、最近では、重量が数百kgにも達する2次電池パックを搭載した電気自動車が、ガソリン車を差し置いて勝利を収めるようになっている。本稿では、米国で注目を集めている電動ドラッグレースカーや、それらを支える2次電池をはじめとした最新の部品について紹介する。
イメージをくつがえすパワー
しかし、初期の電気自動車に対するイメージは現在のものとはまったく異なるものであった。十数年前まで、ほとんどのレーサーは、電気自動車をゴルフカートに毛が生えたようなものだと考えていたのである。そのイメージが変わり始めたのは、1994年のことだった。オレゴン電気自動車協会が、電気自動車は環境に優しいだけでなく、「楽しくてエキサイティング」でもあることをPRしようと、電気自動車によるドラッグレースを始めたのだ。同協会の会員はポートランド市街の小さな通りを通行止めにし、ストップウォッチを手に持って、石畳の路面にチョークで線を引いた。
しかしWayland氏は、この最高時速50km/hにも満たない、おとなしいドラッグレースのアイデアには納得していなかった。むしろ、無理やりニコニコマーク入りのTシャツでも着せられたかのように感じ、腹を立てていた。同氏は、2次電池による電源の電圧が72V程度で、上り坂をガタゴトと45km/hぐらいで進むのがやっとの自動車を想像し、「そんな自動車は人前で見せられない」と主張した。
結局、同氏は自らの信念に従った。ダットサンにヘリコプター用の2次電池パックを積み込んで、電源電圧が175Vのレースカーへと変身させたのだ。同氏は、「誰もが驚いていたよ。私のダットサンは、1速から5速まで、すべてのギアでパワーを炸裂させ、タイヤのゴムから焦げた煙を立ちのぼらせていたのだから。女性や子供は怖がって逃げ、物陰に隠れていたよ」と胸を張る。
その後で登場したのがWilde氏だった。同氏は、トレーラの荷台から降ろしたマツダ車ベースの電気自動車により、60mにわたってタイヤから煙を立ちのぼらせ、前輪を浮かせるウィリー走行をして見せたのだ。
この瞬間から、電気自動車のイメージは大きく変化した。新しいイメージは人々の間に定着し、より強固なものへと成長していった。それを示す究極の証拠がインターネット上に存在する。Dube氏によると、同氏のチームである「キラサイクル」を「Google」で検索すると、日本語やアイスランド語、ラトビア語、ノルウェー語、エスペラント語まで、ありとあらゆる言語でヒットし、どれほど話題になっているかがわかるという。さらに、オレゴン公共放送とディスカバリーチャンネルが放送した特別番組によって、電気モータースポーツは注目され始め、少なくとも電気ドラッグレースの人気は、不動の地位を確立した。両放送局がウェブサイトで公開している動画には、100万回以上のアクセスが集まっているという。
電池、モーター、制御プログラム
実際のところ、電動車両によるドラッグレースの世界には、驚かされることが多い。1990年代の前半、裏庭にガソリンエンジン車を持ち込んだメカニックたちは、ガソリンタンクと後部座席を取り外して2次電池パックを載せ、パワートレインを再構成することにより、電気自動車への改造を始めた(Wilde氏の会社のウェブサイトでは改造方法が紹介されている)。そして電気自動車を駆るドラッグレーサーたちが現れるころには、搭載する2次電池セルの個数と電圧は飛躍的な上昇を遂げていた。「1990年代に愛好家が作った典型的な電気自動車の電圧は、72Vまたは96Vだった。当時はそれが標準で、120Vが最新の高電圧の仕様だった」(Wayland氏)。
しかし、レーサーたちは、この程度の電圧では低過ぎるということに間もなく気付き始めた。そして電圧の値は、336V、360V、380Vと上昇していく。例えば、Willmon氏の場合には、クレイジーホースピントの後部座席とガソリンタンクを外したスペースに、米EnerSys社の鉛電池セル「Hawker Odyssey」を30個連結したモジュールを2組、並列に搭載している。約385kgもの鉛電池が、後輪車軸をまたいで均等に配置されている(写真3)。Willmon氏が設計した駆動システムからは、2組のモジュールが供給する合計約360Vの電圧によって1600Aの電流を流すことにより、理論的には約576kWの出力を得ることができる。
Dube氏は、「すべては2次電池にかかっている。ほかの部品の技術も興味深いことは事実だが、やはり主役は2次電池だ」と述べる。
とはいえ、ドラッグレース用電気自動車の技術をさらに進展させるには、2次電池だけでなく、低価格で巨大なトルクを発生させられる駆動モーターが必要である。ドラッグレース用電気自動車のオーナーの多くは、ブラシ付きDCモーターを好み、これにいくつかの最新技術を組み合わせて使用している。例えばWillmon氏は、直径9インチ(約23cm)のブラシ付きDCモーターを2台、背中合わせにして搭載している(写真4)。このモーターは、基本的には電動フォークリフトのものと同じタイプだが、多少の改造が加えられている。Willmon氏は、これらのモーターを米NetGain Motors社から購入している。電気自動車用モーターの販売会社である同社は、米Warfield Electric社と提携し、シャフトやベアリング、ブラシの材質などを強化して、ドラッグレースに要求される厳しい条件をクリアできるモーターを提供している。必要なモーターを手にしたWillmon氏は、市販のギヤカプラによってこれらを連結し、スプライン軸とヨークアセンブリを経由して駆動シャフトに接続した。
こうしたシステム構成は、重くて高価なトランスミッションを搭載する必要がないため、レーシングカーにはまさにうってつけだ。この電動ピントのパワートレインは、動力試験の結果、通常は0〜5000回転/分(rpm)の全領域で314馬力の出力と、最高で1250ft-lb(約2034Nm)ものトルクを発生することがわかっている(図1)。「ガソリンエンジンでは、トルクと出力がピークに達するまでに時間がかかる。しかし電気モーターは、電流を流した瞬間から力強いトルクを得ることが可能だ」(Willmon氏)という。
ただし、このような設計はすべて、2次電池が供給する電流を正しく扱えなければ実現できない。そこで必要となるのが、電子制御システムだ。現在、多くのレーサーは、電気自動車用のモーターコントローラを専門に供給する米Cafe Electric社の製品を利用している。図1の測定結果も、同社の「Zilla」という製品を利用した場合のものである。
Zilla(名前は「ゴジラ」から取ったもの)は、制御プログラムを柔軟に変更できることから、特にレーサーの間で人気が高い。Zillaはプログラミング機能によって入出力を調節できるため、主に電流と電圧のトレードオフ調節に使われる。例えば、2次電池からの入力を高電圧/低電流に設定し、モーター側でそれを逆にすることもできる。
1斤の食パンよりも少し大きなサイズで、ゴジラの体と同じ深緑色のボックス形状をしたZillaは、0.5MWを超える電力の制御が可能である。Wayland氏は、「Zillaを使えば、とてつもないモーター電流を制御できる。発進時に2次電池を保護するために、例えば800A、900Aだけを供給することも可能だが、逆に思い切って2000Aをモーターに流し込むこともできる」と説明する。
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