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輝き放つ車載LED(2/5 ページ)

かつて、自動車で用いられるLEDと言えば、リアランプやメーターパネルの表示灯の光源として用いられる赤色もしくは黄色のものが中心であった。それに対し、現在ではへッドライトをはじめとするさまざまな自動車システムで高輝度の白色LEDが使用されるようになった。その結果、車載LEDの市場は大きく拡大しようとしている。本稿では、LED開発の歴史を概観した上で、LEDの特徴と、車載用途におけるLED採用のメリットについてまとめる。また、ヘッドライトをはじめとするLEDの採用事例や、車載用LEDドライバの開発動向について紹介する。

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エコカーのヘッドライトに採用

 表1は、先に述べた自動車システムにLEDを適用した場合に、消費電力、寿命、デザインの自由度、制御性というLEDの特徴が、それぞれの用途でどの程度の効果をもたらすかについてまとめたものである。また、比較のために、自動車システム以外の民生用機器などの用途も挙げている。表1を見れば、LEDの高い性能を生かすという観点からは、自動車システムが、最も適した用途であることがわかる。これは、自動車が、定められたスペースの中にさまざまなシステムを搭載する必要があること、一定の容量しか持たない車載2次電池しか電力供給の手段を持たないことなど、ほかの機器とは異なる制約条件が存在するためである。また、自動車の購入時には、その外観や車室内のデザインが重要な判断基準の1つであり、LEDによってそうしたデザイン性を高めることが可能なことも利点となっている。

表1 LEDを採用した場合の有用性(リニアテクノロジーの資料を基に作成)
表1 LEDを採用した場合の有用性(リニアテクノロジーの資料を基に作成) ◎=特に有用、○=有用、△=さほど有用ではない、×=有用ではない

 ここからは、自動車システムにおけるLED採用のメリットや採用事例について、現在最も注目されているヘッドライトを中心に紹介する。

 世界で初めて量産車にLEDヘッドライトを採用したのが、2007年5月に発売されたトヨタ自動車の「レクサスLS600h」である。サプライヤは小糸製作所で、同社が日亜化学工業と共同開発した白色LEDをロービーム用の光源として採用している。その後、米General Motors社の「Cadillac Escalade Platinum」や、ドイツAudi社の「Audi R8」など、高級車のヘッドライトにLEDが採用された。

写真1「プリウス」のLEDヘッドライト
写真1 「プリウス」のLEDヘッドライト 小糸製作所が『人とくるまのテクノロジー展2009』で展示した。
写真2「i-MiEV」のLEDヘッドライト
写真2 「i-MiEV」のLEDヘッドライト スタンレー電気が『CEATEC2009』で展示した。

 2009年に入ってからは、ハイブリッド車や電気自動車といったエコカーへの採用事例が目立っている。トヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」では、オプションとしてLEDヘッドライトが用意されている(写真1)。サプライヤは、レクサスLS600hと同じく小糸製作所である。また、三菱自動車の電気自動車「i-MiEV」は、LEDヘッドライトを標準装備した。サプライヤは、スタンレー電気である(写真2)。

 ただし、依然としてヘッドライトへのLEDの採用事例はごくわずかにすぎない。現時点で、自動車のヘッドライトの光源として用いられているのは、ハロゲンランプとHIDがほとんどである。ここで、ハロゲンランプとHIDの特徴について確認しておこう。

 ハロゲンランプは、白熱電球と同様に、フィラメントに電流を流して加熱することによって発光する。ただし、電球内部に封入されているヨウ素や臭素などのハロゲン元素の効果により、白熱電球に比べてフィラメントの寿命が長い。それでも、寿命は2000〜3000時間程度にとどまる。また、発光効率は約20lm/Wで、一般的なヘッドライトのロービームにハロゲンランプを用いた場合、1ユニット当たりの消費電力は約55Wになる。また、色温度は3000K前後にとどまるため、オレンジ〜黄色までの色しか表現できない。

 一方、HIDは、蛍光灯と同じくガラス管内における放電によって発光する。ただし、発光時におけるガラス管内の温度が蛍光灯よりも高く、ガラス管内に封入されている水銀などの発光物質の密度も高い。寿命は、1万〜1万2000時間と、一般的な蛍光灯と同程度である。発光効率は100lm/Wで、ハロゲンランプの5倍に達する。このため、同じ明るさでも消費電力を低減することができる。一般的なヘッドライトのロービームにHIDを用いた場合、1ユニット当たりの消費電力は約45Wである。色温度は、4000〜6000Kとなっているため、白色系の色を表現できる。ただし、電源投入から明るさが安定するまでに数十秒〜数分の時間が必要になるため、ハイビームなど瞬時に点灯させるような用途には向いていない。

 これらハロゲンランプやHIDと比較して、LEDをヘッドライトで用いた場合の最大のメリットとなるのが消費電力を低減できることだ。一般的なヘッドライトのロービームにLEDを用いた場合、1ユニット当たりの消費電力は30W台に抑えられる。例えば、プリウスのLEDヘッドライトの消費電力は、1ユニット当たり33Wとなっている。また、i-MiEVのLEDヘッドライトの場合、1ユニット当たり30Wである。

 特に、エンジンを用いて発電することができない電気自動車では、2次電池の電力を有効活用する必要がある。そのため、LEDヘッドライトによる消費電力の低減がもたらす効果は大きい。2010年末に発売される日産自動車の電気自動車「リーフ」も、LEDヘッドライトを採用する予定である。

 また、LEDヘッドライトは、寿命についても、HIDの1万2000時間を上回る2万時間以上を達成している。さらに、色温度についても、HID以上の1万Kといった値を実現することが可能である。

 市光工業の研究開発部 P2P3プロジェクトチーム1でプロジェクトマネジャを務める村橋克広氏は、LEDヘッドライトについて、「現時点での最大の課題は、やはりコストだ。現在、一般的なヘッドライトのロービームには、3個以上のLEDパッケージが搭載されている。このLEDパッケージ1つ当たりの発光効率を向上することにより、搭載する個数を削減してコストを下げる必要がある。また、LEDの光を効率良く配光するための光学系や、LEDパッケージを冷却するためのファンなど、コスト増の要因になっている事柄にも対処しなければならない」と指摘する。なお、同社は、2010年秋からLEDヘッドライトの量産を開始する予定である(囲み記事『「世界最高の低消費電力性能を目指す」――市光工業がLEDヘッドライトの量産へ』を参照)。

図1LEDヘッドライトにおける省電力化の方向性(提供:小糸製作所)
図1 LEDヘッドライトにおける省電力化の方向性(提供:小糸製作所) ロービームにLEDを採用した場合のLEDパッケージの個数、消費電力、LEDパッケージの発光効率を示している。

 また、小糸製作所も、市光工業と同じような開発ロードマップを描いている(図1)。2007年に発売されたレクサスLS600hでは、1ユニット当たりのLEDパッケージ数は5個で、消費電力は50Wだった。これに対して、2009年発売のプリウスでは、1ユニット当たりのLEDパッケージ数は3個で、消費電力は33Wに削減された。「プリウスなどに用いている第2世代のLEDパッケージは、第1世代と比べて10%程度発光効率が向上している。これにより、LEDパッケージ数を3個に削減したにもかかわらず、ヘッドライトとしての十分な明るさを確保できた」(小糸製作所)という。同社は、今後もLEDパッケージの発光効率の向上に向けた開発を進め、将来的には1ユニット当たりのLEDパッケージ数を、2個、さらには1個に減らしていく方針である。

「世界最高の低消費電力性能を目指す」――市光工業がLEDヘッドライトの量産へ

写真A市光工業のオリビエ・バルトムフ氏
写真A 市光工業のオリビエ・バルトムフ氏 

 自動車照明機器大手の市光工業は、2010年秋からLEDを採用したヘッドライトの量産を開始することを明らかにした。

 このヘッドライトは、ロービームの光源にLEDを採用する予定である。同社開発設計本部の研究開発部部長を務めるオリビエ・バルトムフ氏(写真A)は、「環境に優しいことを最大のコンセプトとして開発を行っており、世界最高の低消費電力性能を実現したいと考えている。また、プロジェクタ型ではない新たな光学系を採用することにより、十分な配光性能を確保することに成功した」と語る。

 同社はこれまでも、LEDを採用した自動車照明機器を数多く供給してきた。リアランプでは、1989年には日産自動車の「フェアレディZ」のハイマウントストップランプ、1999年には日産自動車の「グロリア」のリアコンビネーションランプを供給するなど、競合他社に先駆けてLEDの展開を進めてきた。また、車室内照明についても、トヨタ自動車の「アルファード」や「マークX」などでLEDを採用した製品を供給している。

 車両前方に設置するライトでは、トヨタ自動車の「ブレイド」向けに、LEDを採用したクリアランスランプ(車幅灯の一種)を供給しているものの、ヘッドライトとしては今回の製品が初の量産採用となる。


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