夢と苦労を詰め込んだGXRの設計(下):隣のメカ設計事情レポート(5)(1/3 ページ)
リコーの新製品「GXR」は、本体とレンズが切り分けられているコンパクトデジタルカメラ。切り分けの裏に潜んだメカ設計担当者の暗中模索とは?
前回の「夢と苦労を詰め込んだGXRの設計(上)」では、リコーのデジタルカメラ(以下、デジカメ)GXRのメカ設計を担当した 同社 パーソナルマルチメディアカンパニー ICS設計室 設計1G シニアスペシャリストの篠原 純一氏に、システム切り分けにまつわる設計裏話をお話いただいた。今回は主に、本体ユニット、カメラユニットの着脱方式や操作感触の検討方法について紹介していく。
「夢と苦労を詰め込んだGXRの設計(上)」をまだお読みになっていない方は、まずはそちらからお読みになることをお勧めします(編集部)。
編集部注:本記事では、撮像素子や画像処理エンジンを実装したレンズのユニットを「カメラユニット」、また装着先の本体を「本体ユニット」と呼びます。
大いに悩んだ! コネクタ選定
設計初期の段階では、コネクタ方式の決定に一番苦労したという。
まず電気設計担当からは、「コネクタのピン(極)数は、200ぐらいほしい」とのリクエストがきた。「その条件に合う汎用の多極コネクタを探すところから始めました。複数のメーカーさんに電話をかけ、問い合わせをしつつ、検討していきました。デジタルカメラでよく使われるクレードル用のコネクタが一番採用しやすいと考えましたが、ピン数が 40ピンぐらいまでのものしかありませんでした。ほか、ピン数が多いコネクタとすると、パソコンのカードコネクタならどうだろうかと考えました。ただ、これはあくまでカードの筺体部分があることを前提に接触の安定性を保証するものであり、それがコネクタだけとなるとその保証はできないとメーカーさんから忠告を受けてしまい、採用は断念しました」(篠原氏)。
実際、200ピンぐらいの多極コネクタという条件の模索は、大変厳しいものだった。信頼性が要求される部分のため、短期間に社内で開発することもままならない。そこで、電気設計の担当者とともに、ピン数をなるべく減らしつつも、信頼性も損なわない条件を追求していった。その結果、68ピンのコネクタを採用することで決着した。実際に採用したのは、パソコンの後付けドライブユニット(記憶ユニット)などを挿すスロットに採用されているコネクタだという。
「パソコンのドライブユニットはしょっちゅう 取り替える部分ではないため、耐久試験の回数も決して多くないものでした。メーカーさんにお願いし、こちらの仕様をお伝えして耐久試験をやっていただきました。それで、もしダメだったら仕様変更をするしかないかとも考えましたが、幸い、こちらの望む耐久性を満たすものでありました」(篠原氏)。
カメラ実機でも十万回程度、着脱の耐久試験を行ったという。ちなみにそれはロボットにより自動で行われるわけでなく、品質保証担当が地道に抜き挿しを行う試験だ。その担当にとって正直、骨の折れる作業とのこと……。
着脱機構の信頼性と品質の追求
GXRの本体ユニットとカメラユニットの切り分けについては、決まった。次は、それを機構的にどのように保持するのか?
同社のデジタルカメラ開発では試作レスを強く推進してきたが、今回の構造は同社にとってまったく新しい試みであり、かつ製品の肝であることで、やむを得ず、設計段階でアルミ切削の試作を行った。開発が始まってから、約7カ月目のことだった。
非常にざっくりとした構造をしている試作1号では、本体側にピンを配置し、カメラユニット側にはそれに対応する穴を設けてそこに落とし込ませて嵌合(かんごう)する方式だった。ただ、その構造では落とし込ませる位置の自由度が小さく、それに取り外し時に引っ掛かりも生じる。そのうえ、ピンの固定強度がそのまま着脱部の強度を左右する構成であり、案の定、耐久試験の早々にてNGとなってしまった。
それを受けて、試作2号では、本体ユニットとカメラユニットを板金部品で直接保持する方式へ変更した。また両ユニットの位置合わせについては、本体側のコネクタ(オス)の固定位置に合わせ、カメラユニット側のコネクタ(メス)がフローティングできる構造とした。
イジェクトレバーの検討
「試作1号では、耐久後のコネクタ力量の増加を懸念し、イジェクトレバーを付けました。しかし、これもまたいろいろな議論が出てきました。誤ってレバーに引っ掛けて落としてしまう、指を挟んでしまう、あるいはレバーがもし折れたら取り外せなくなる、などなど……」(篠原氏)。
イジェクトレバーについて検討を重ねるうちに、コネクタの耐久試験結果では挿抜力量はほとんど変化しないことが明らかになった。一方で、イジェクトレバーを外して、課内の女性も含めて操作性評価を行ったが、特に操作力量として問題はなかったという。それらの検討結果を考慮し、イジェクト機構をなくし、単にユニットのロック解除レバーのみとした。
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