米Ford Motor社が開発した2010年型「Mustang」は、LED照明を採用する動きが広がる自動車業界の中で最先端を走っていると言ってよいだろう。同車では、メーターのみならず、カップホルダー、ドアポケット、ダッシュボードなどにもLED照明が採用されている。
2009年初頭に発売されたこの新型Mustangは、白熱電球の代わりにLEDを採用することでイメージアップを図りたいというFord社の強い思いを反映している。
Ford社のデザイナは、車室内に独特の雰囲気を作り出せるようLED照明の色をドライバーが自由に変えられるようにした。メータークラスタでは、「MyColor」機能により125色から、カップホルダー、ドアポケット、ダッシュボードなどでは、「Ambient Lighting」機能により7色から選択して、車室内を好みの色に切り替えることができる。新型Mustang担当シニアデザイナーのRob Gelardi氏は、「このような技術を採用するのにMustangほど適した車はない」と語っている。
室内照明にLEDを採用しているのは、Ford社だけではない。ドイツのDaimler社をはじめ、BMW社、Audi社、Volkswagen社、米General Motors社も、多数のLEDを自動車の室内照明に採用している。また、自動車メーカーの半数以上が、車両後部の中央に設置するブレーキランプ(CHMSL)、日中走行用ランプ、パーキングランプなどにLEDを採用している。さらに、新車の約2%がヘッドライトにLEDを採用するようにもなっている。
とはいえ、現在のところ車載用のLED照明がその真価が発揮している用途は、室内照明である。Ford社は、MyColorを2006年から導入しており、Ambient Lightingを2008年に追加した。そして、新型Mustangでは、これらの技術をさらに改良するとともに適用範囲を広げた。「まず、足下の照明とカップホルダー、そして後部座席周りやドアポケットについて改良を加えた。最も力を入れたのが、スカッフプレートへの適用についてだ」(Gelardi氏)という。
スカッフプレートとは、ドアの敷居に当たる部品のことである。新型Mustangのスカッフプレートは、そのオーナーやファンをとりこにするほど“クール”な仕上がりになった(写真1)。Mustangのシンボルとして長年使用されているエンボス加工のアルミ製スカッフプレートにロゴを照らし出すLEDを埋め込んでおり、夜間でもはっきりと見える。
Osram社との共同開発
MustangのLED照明は、Ford社がドイツOsram Opto Semiconductors社と共同で開発した。LEDと関連電子部品/光学部品のメーカーであるOsram社は、赤、緑、青のLEDチップが1つのパッケージ内に統合された「MULTILED」、「TOPLED」、「Mini TOPLED」などの室内照明用LED部品を供給している。さらに同社は、TOPLEDとMini TOPLEDについて、Ford社ロゴのイメージカラーである「アイスブルー」バージョンをFord社と共同開発するにあたり、独自の蛍光体合成技術を駆使してFord社が求める色を完璧に再現した。
Osram社で可視光LEDビジネスユニットのディレクタを務めるMike Godwin氏は、「Ford社は車全体の一貫性、すなわち明るさの一貫性と色の一貫性を求めていた。それが常に彼らの目標だった」と語る。LED照明の質に一貫性を持たせることで、Mustangのオーナーに、足下、ダッシュボード、ドア周りの照明の色のばらつきを感じさせないためである。
LED照明の電気/光/熱パラメータを慎重に制御することにより、Osram社は期待されていた一貫性を生み出すことに成功した。次に、カップホルダー、ドアポケット、そのほかの車載部品のメーカーを含むサプライヤとともに、最終製品におけるLED照明のパフォーマンス改善に取り組んだ。「明るさと色に一貫性のあるLEDがあれば、Ford社は自社の制御部品の信頼性を確保することに専念すればよいことになる」(Godwin氏)という。
Ford社のGelardi氏は、白熱電球では同社の目標を達成できなかったと語っている。「その場合、パッケージングが大きな課題になる。スカッフプレートやカップホルダーに白熱電球を組み込むところを想像してみてほしい。車室内の望みの場所に白熱電球を埋め込むことはとてもできなかったはずだ」(同氏)という。
また、Gelardi氏は「カラーバリエーションも問題になっただろう」とも語っている。いわゆるRGB(赤、緑、青)のLEDを使用することで、白熱電球では実現できない速度で素早く色を切り替えることが可能になった。
専門家は、Ford社などの自動車メーカーがLED照明の採用を拡大している背景として、LEDの価格低下と輝度の向上があると説明している。最新の高輝度LEDは、5年前の製品と比較して明るさが約10〜20倍になったと言われている。数年前は多くの製品で5lm(ルーメン)/W未満だったものが、今では50lm/Wを超え、100lm/Wを実現した製品も登場している。一方で、価格は著しく低下している。1つの開発プロジェクトで数百万個のLED素子を使用することもあるデジタルサイネージ機器の設計者は、「LEDの採用が広まり始めたのは1999年からだろう。そして、2008年までに価格は約2/3に低下した」と説明する。
さらに、LEDの採用は、自動車のブランドイメージの向上にも貢献すると言われている。Mustangの開発プロジェクトでは、社内向けの技術デモンストレーションのために、いわゆる「ハーフバック(半車体)」が製作され、社内の多数のエンジニアや幹部に何度となく披露された。「皆がデモを見たがった。最後には、副社長のMark Fields氏やCEO(最高経営責任者)のAlan Mulally氏といったトップまでが見にきてくれた」(Gelardi氏)という。
Gelardi氏は「Mustangのオーナーは、“自分仕様のMustang”を欲しがる。これまでもMustangは、最もカスタマイズしやすい車の1つだったが、これからは毎日違う車にカスタマイズできる」と語った。
(Design News誌、Charles J Murray)
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