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本格化するEV/PHEV開発(4/4 ページ)

国内自動車メーカーによる電気自動車/プラグインハイブリッド車の量産に向けた取り組みが本格化している。すでに、三菱自動車と富士重工業は電気自動車の量産を開始しており、2009年末からはトヨタ自動車がプラグインハイブリッド車を、2010年秋には日産自動車が電気自動車の量産を開始する予定である。本稿では、まず『第41回東京モーターショー』に出展された電気自動車、プラグインハイブリッド車、各自動車メーカーの開発姿勢についてまとめる。その上で、電気自動車開発に向けた半導体メーカーと開発ツールベンダーの取り組みを紹介する。

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2次電池をモデルベース開発

 モデルベース開発環境「MATLAB/Simulink」で知られる米The MathWorks社は、2次電池の充放電システムにモデルベース開発を適用するための提案を行っている。現在、2次電池の充放電システムの開発は、ほとんどが2次電池の実物を用いて行われている。MathWorks社によれば、「先行開発の現場では、実物を使わずに済むモデルベース開発を利用することで、開発効率を向上したいと考えている」という。

 同社は、MATLAB/Simulinkに対して、「Simscape」などのオプションを追加することにより、充放電システムにモデルベース開発を適用できるようになるとしている。まず、Simscapeの機能の1つである「SimPowerSystems」を利用することで、線形的なパラメータを持つ2次電池の等価回路モデルを作成できる。そして、実験データを基にした充電池インピーダンスの周波数特性、モデル内の未知のパラメータを推定するMATLABベースのプログラムと、パラメータ最適化ツール「Optimization Toolbox」を用いることにより、等価回路モデルを最適化することができる。この最適化された等価回路モデルを用いた2次電池システムのモデルを、電動システムのモデルに組み込むことにより、2次電池の実物を用いずに電動システムの開発が行えるという寸法である。

 2次電池の応答についてより詳細なモデルが必要な場合には、Simscapeの機能を拡張する「Simscape Language」を利用することにより、温度や充電率などの非線形的なパラメータを組み込んだ等価回路モデルを作成して対応することができる。また、Simscape Languageを使えば、Simscapeで扱える電気/機械/油圧/熱/空気圧以外のドメインに関するモデルを自作することが可能になる。この機能を使って電気化学に関するモデルを自作し、等価回路モデルと組み合わせることで、2次電池のより詳細な応答を用いたモデルベース開発が行える。

 一方、自動車向けの熱流体解析ツールに、2次電池に関する要素を組み込むための取り組みを進めているのが、米CD-adapco社である。同社は、熱流体解析ツールの大手ベンダーであり、「STAR-CD」や「STAR-CCM+」などを展開している。

 CD-adapco社は2009年11月、2次電池を含めた電動自動車の車両全体の熱流体解析を実現するため、リチウムイオン電池セル向けの電気化学解析ツール「Battery Design Studio(BDS)」を販売する米Battery Design社との提携を発表した。CD-adapco社のSTAR-CCM+とBattery Design社のBDSを連携させることにより、電池セル、電池パック、電池パックを組み込んだ自動車全体、それぞれについての熱解析が可能になるという。この解析機能については、CD-adapco社が、STAR-CCM+のオプション「Battery Simulation Module」として販売する。まず、2010年2月に、電池パックと自動車全体に適用可能なバージョンを発売し、2010年9月には、電池セルも扱えるバージョンを投入する予定である。なお、国内販売は、CD-adapco社の子会社CDaESが行う。

 BDSは、携帯電話機やパソコンなど一般的な電子機器向けのリチウムイオン電池セルの開発に広く採用されている。しかし、その機能は電気化学的な解析に限られており、一般的な熱流体解析で行われるように、3次元図面上で電池セルをメッシュ分割してその温度分布をシミュレーションするような機能はない。一方、STAR-CCM+は、電池パックを単なる熱源として自動車に組み込んで熱流体シミュレーションを行うことができるが、電池セルや電池パックそのものの挙動を反映させることはできない。「Battery Simulation Moduleは、電動自動車の熱流体解析について、車両全体から電池セルまでをカバーする初のツールとなるだろう」(CDaES)という。

ECU開発にも専用ツールが必須

 ドイツdSPACE社は、ECU(電子制御ユニット)の開発に用いられるRCP(Rapid Control Prototyping)ツールや、HILS(Hardware-In-the-Loop Simulation)システムにおいて、電動自動車の開発に対応する「E-Driveソリューション」を展開している。

 同社の日本法人dSPACE Japanで技術部の部長を務める宮野隆氏は、「E-Driveでは、モーターを用いる場合に必要となる機能を、ハードウエア、ソフトウエアの両面で追加した。これらは通常のRCPツールやHILSシステムには存在しないものだ」と語る。

 ハードウエアでは、時定数がエンジンよりも2桁小さいモーターに対応するために、より高速で演算ができるプロセッサを採用した。また、モーターの制御に用いられる1周期が50μs〜100μs(10kHz〜20kHz)のPWM(パルス幅変調)信号をリアルタイムに計測できるような高速のI/Oボードを用意した。ソフトウエアでは、モデルベース開発環境であるMATLAB/Simulink向けとして、電動自動車専用モデルのライブラリの提供を開始している。「このライブラリはオープンなものなので、ユーザーが独自に改造したり、機能を追加したりすることができる」(宮野氏)という。

 2009年末には、より高性能のFPGAチップを搭載するI/Oボードとして「DS5203シリーズ」を投入する予定である。現行の「DS5202シリーズ」が米Xilinx社の普及価格帯のFPGAチップ「Spartan-3」を採用しているのに対して、DS5203シリーズは、Xilinx社の高性能FPGAチップ「Virtex-5」を採用している。また、MATLAB/Simulink環境で、FPGAのプログラミングが直接行える機能の追加も予定している。宮野氏は、「ライブラリをオープンにするだけでなく、MATLAB/Simulink環境でFPGAの機能も自由にカスタマイズできるようになる」と強調する。

 ドイツETAS社は、ECUが送信/受信するパラメータの計測/適合ツール「INCA」について、電動自動車に対応する製品を投入した。

 電動自動車の電動システムの効率向上は、主に2つの方法によって実現される。1つは、走行モーターの制御状態をリアルタイムで計測して動作を最適化することにより、走行モーターそのものの効率を向上するという方法である。もう1つは、エンジン、走行モーター、ブレーキなど、電動システムに関連する各ECUの協調制御を行うECUの動作を最適化するというものだ。こういった最適化の作業に用いられるのが、INCAに代表されるパラメータの計測/適合ツールである。しかし、モーターの制御に用いられる1周期が50μs〜100μsのPWM信号をリアルタイムに計測するための高速のI/Fや、電動システムに関連する各ECUをネットワーク上に接続した状態で高い同期精度で計測する手段がなかったため、電動自動車の開発には適用できていなかった。

写真6ETAS社の「XETK」(提供:ETAS社)
写真6 ETAS社の「XETK」(提供:ETAS社) XETK(右上)は、ETAS社と米Freescale Semiconductor社が共同で開発したインターフェース「VertiCal」を採用したことにより、車載マイコン上に直接接続することができる。これにより、ECUのプリント配線板上に計測/適合のための回路を作り込む必要がなくなる。

 これらの課題に対して、ETAS社は2つの対策を講じた。1つ目は、最小で10μs、平均で数十μs周期のPWM信号をリアルタイムで計測できる高速計測モジュール「XETK」の開発である(写真6)。2つ目は、パソコン上でソフトウエアとして運用されるINCAの新機能として、ネットワーク上に接続された複数のECUの通信データを時間同期計測する際に、1μs以下の時間同期精度を実現する「マルチノード/タイムシンクロナス計測」を追加したことだ。

 ETAS社の日本法人イータスのマーケティング部で適合計測ツール担当マネジャを務める石森和彦氏は、「これらの対策により、INCAは電動システムの開発に対応できるようになったと考えている。これまでの電動自動車開発は、自動車メーカーの主導で進んでおり、計測/適合ツールも自動車メーカーの内製品を使うことが多かった。しかし、海外の自動車メーカーが国内のティア1サプライヤに電動システムの開発を依頼するといったように、今後は開発のサプライチェーンはグローバル化していくだろう。電動自動車のグローバル開発を円滑に進めるためには、世界で広く利用されている計測/適合ツールであるINCAが活用される機会が増えていくのではないか」と語った。

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