整流化・可視化で生産工程の「どろどろ」を解消する:ものづくりNext↑で見つけた改善のヒント
「ものづくりNext↑」の展示会の1つ「生産システム見える化展」会場内に設けられた「可視化・整流化コーナー」では会期中を通して、生産の可視化による改善のためのさまざまな取り組みが紹介された。本稿ではその中でも、可視化・整流化研究会と日本プラントメンテナンス協会が主体となって進める中堅・中小企業向けの可視化・整流化の取り組みを紹介する。
かたまり生産の徹底と可視化・整流化
可視化・整流化研究会(KS研究会)を主催する慶應義塾大学 理工学部 管理工学科 専任講師 稲田 周平氏の講演では、研究会で行われている実証実験の成果と今後の見通しが示された。可視化・整流化研究会は、稲田氏を中心に発足、06年7月には経済産業省の合意の基、浜松に拠点を置く精密機器メーカーを対象にフィールド研究が行われている。
押し込み投入と引っ張り生産に翻弄される生産現場
講演に登壇した稲田氏によると、中堅・中小企業製造業が抱える課題は、押し込み投入による在庫過多と、後工程での「引っ張り」生産が常態化している点にあるという。
一方、中間の工程では、次から次に押し込まれても、そもそも決まった時間に処理できる数量は変動しないため、どんどん溜まっていく状態が恒常的に続くことになる。また、製造設備に不具合が発生するなどの理由でラインが長期間停止する「ドカ停」が発生すればそれだけ在庫が増えていく。
後工程では納期に照らして、中間工程からの「引っ張り」を行うため、投入順序とはまったく異なる順序での生産や飛び込み生産の要求が常態化しているという。
結局のところ、投入時期と納期だけは明確になっているものの、中間工程がまったく混乱した状態のまま突き進んでいるとのことで、現場の個人の裁量でどうにかカバーしている危うい状況にある中堅・中小製造業が多いそうだ。
こうした混沌とした中間工程が存在するため、在庫削減やリードタイム短縮といった課題に手を付けられない状況にあるのも中堅・中小企業の特徴だという。
稲田氏によると、製造原単位管理がうまくできていなかったり、MRPの固定リードタイム型のスケジューリングがそもそも実態とマッチしていないケースも多いという。また、需要に合致した適切な人員配置を柔軟に行うことも、中堅・中小企業では難しい場合も多いとのことだ。
こうした混沌とした要素だらけに見える製造工程を、確実・高効率なものにするには、内示注文に依存した生産ではなく、確定計画生産型に移行する必要があるとしている。
整流化実現のための5つのステップ
ともあれ、「混沌としたままリードタイム短縮への一足飛びの跳躍は不可能」(稲田氏)で、すぐさま確定受注生産型のモノづくりが実現するというわけではない。この課題を解決するにはいくつかのステップを経る必要がある。
まずは5S(整理、整とん、清掃、清潔、しつけ)、3定(定位、定品、定量)が一定程度実施されている「モノづくり基盤環境の整備」から、現場担当者のスキルレベルを安定させ、工程の標準化が設定でき、かつ作業原単位の整備が実現している「個別工程の基本生産力の見極めと安定化」へと順に積み上げていく必要がある。
工程の標準化が実現すれば、その情報をもとに、個々の工程でのロスがどこにあるか、段取りの効率化はどう行うべきかといった課題に着手できるようになる。これが、直行率の向上や、設備稼働率の向上を図る「個別工程の生産効率の向上(工程改善)」のステップだ。
個別の工程の改善がある程度行える状況になれば、生産プロセス全体の生産効率向上を検討できるようになる。
具体的には、ボトルネック工程の特定と改善による工程間の負荷の平準化、製造リードタイム短縮、在庫削減による納期遵守体制を整える「生産プロセス全体の生産効率の向上(モノの流れ改善)」ステップと、その先の「生産情報システムの整備と活用」ステップでの改善スピードの向上と製品トレーサビリティの向上へと、改善活動を昇華させていく。
多種少量・短納期生産実現のために製造プロセス内のモノや情報の流れを整流化するとりくみは、後半の2ステップに位置づけられる。先に説明した通り、この2ステップは、前半の3ステップが土台となるため、少なくとも2ステップ目まではある程度の取り組みが実施できている必要がある。この条件をクリアしている場合は、いよいよモノの流れの整流化・可視化を目指すことになる。
モノの流れの整流化には3つのポイントがある。
- どようなまとまりでモノを流すか(モノの「かたまり」)
・どのような作業エリアとルートでモノを流すか(レイアウト設計)
・どのような時間単位でモノの流れを管理し、どのようなタイミングで流すか(時間管理)
検証の場となった工場では、注文ユニットを1つの「かたまり」として定義した。この「かたまり」を基本に、注文ユニットは何があっても不可分とするルールを徹底、、MRPのような「量」をベースとした計画で管理し切れない情報を整理することに成功しているという(完結かたまり生産)。
また、この工場では、受注情報を可視化するために、「かたまり」ごとに受注情報(出荷日・量・品種)と実際のモノを紐付けた管理を徹底し、顧客注文に同期した現場でのものの流れを実現したという。
注文ユニットが生産の単位と決定すれば、ユニットのボリュームを前提とした構内レイアウトを検討できる。モノの流れを中心に、ラインの配置を検討し、戻す作業のない工程を実現している。
対象となった工場ではより先進的な取り組みとして、構内を作業段階別に区分けし、それぞれのゾーンごとにRFIDのゲートを設け、作業進ちょくや在庫状況などが自動的に把握できる仕組みも導入しているという。RFIDを使って常にモノの流れを把握できるため、ラインのボトルネック掌握がスムーズに実現する。
RFIDによる進ちょく確認のほかにも、工程ごとにゾーンが明確に区切られているため、「管理者以外の現場担当者も、注文ラベルによって把握した当日の注文状況と在庫エリアの状況を照らし合わせ、状況を主体的に把握するようになった」(稲田氏)という。
チェックシートによる整流化判定を実施
稲田氏とともに整流化・可視化研究会メンバーである日本プラントメンテナンス協会 研究開発本部長 浅井 誠司氏の講演では、まず、QCDの向上だけが競争力ではなく、スピードへの対応力も重要になりつつある点を指摘した。中堅・中小企業がこれに対処するには生産基盤の継続的強化が可能な環境を整える必要がある。
研究会がフィールド検証の参加企業を対象に実施した、工程の流れ、納期遵守率、製造リードタイム、作業停滞時間の分析を行った結果が実際の分析表やグラフを基に示された。それによると、対象企業では、前倒し生産による受注予測リスクを多く抱えており、売り上げと在庫が反比例の関係にあるような、非常にバラツキの多い状況が明らかとなった。
浅井氏によると「こうした課題を抱えているのは対象企業のみのことではなく、多くの中堅・中小製造業が抱える課題の一端でしかない」という。
研究会では、こうしたフィールド検証の結果をもとに生産システム評価チェックシートを作成して配布する予定だ。自社の生産システムがどのような状況であるかを項目ごとに書き込むことで、整流化・可視化のために次に取り組むべき課題を整理したり、自社の置かれている状況を客観的に判断する指標とできるようにしているという。
講演冒頭に浅井氏は「中堅・中小企業の現場が抱える『どろどろ』を整理して解消したい」と語っていた。チェックシートによる確認は多くの本フォーラム読者にとっても有益なものとなるだろう。
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