今すぐ真似したい生産・設計プロセス改善のヒント:モノづくり最前線レポート(13)(1/2 ページ)
現場のエンジニア・オペレータのやる気を削がずに環境を変えていくために実践した導入方法とは? 作業効率化のためのアイデアも参考に
2009年9月4日に、記事「創造的労働に従事できる仕組み作りと感性価値戦略」を掲載した。富士通PLM事業部主催のイベントをレポートしたものだが、当該記事で紹介し切れなかった興味深い改善事例がいくつかある。そこで、本稿では、これを参考とすることで多くの読者の業務改善に結びつくヒントとなるだろうことから、あらためて事例を中心に紹介していくこととする。いずれの企業の事例も、ソフトウェアなどの製品に特化したものでなく、広く皆さんの製造工程の改善に寄与する内容だ。ぜひこれらの話題を参考に、設計工程・生産工程の改善に役立てていただきたい。
エムケー精工の「Quick Start and Small Win」は中堅企業が真似できる魅力的な取り組み
先のレポートでも紹介したとおり、エムケー精工は、長野県千曲市に本社を構える機械メーカーだ。洗車機のような大型の機器から、餅つき機のような家電機器までの幅広いジャンルの製品を、企画開発から製造・販売までを包括的に取り扱うメーカーだ。
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同社の興味深い点は、現場のエンジニア・オペレータたちからの拒絶反応なく、新システムに移行している点だ。
今までのやり方を大幅に変更するようなシステムやワークフローの変更は、現場を混乱に落としいれ、生産性を大幅に削ぐことになりやすい。新しい仕組みに慣れるまでに、どうしても時間が掛かってしまう。結果として、現場では新しいシステムが「使えない」「評判の悪い」仕組みとして認識される。導入を決断した担当者との間に心理的な溝ができる場合もあるだろう。
同社が課題としていたのは、メカ設計者が既存製品のカスタム設計ばかりに時間を割かれ、新しい製品開発にかかわる時間がまったく取れない、という点だ。
「センサを使った制御のように、エレキとソフトウェア面での機能革新が著しくなってきたいま、メカ設計者も、受注品の設計業務だけではなく、新たな製品開発に向けて力を注ぐ時間を持ってもらう必要がありました」。
現場と対立するのではなく、興味を持ってもらう導入の仕方
多忙な現場に、対応を強いる設計ツールの変更は、いちどに実現するは難しい。慣れた環境ならすぐに対応できる問題でも、勝手の違うツールではそうはいかないので、現場の抵抗が激しい、というのが大方のところだろう。
にもかかわらず、同社での3次元設計環境への移行は非常にスムーズに実現したという。設計環境移行成功の秘けつはどこにあったのだろうか?
関心が高まれば自ら研究してもらえる
現場の設計者の多くは知的好奇心や探究心の強い方々が多い。強引にツール移行をしようとすると拒みがちなこだわりの強い人であっても、新しい道具や方法を積極的に取り入れてていたりする。
「そこで、まずは3次元環境の使用を強制するのではなく、設計者に触ってもらい、関心を持ってもらうことから始めた。われわれの考えていたとおり、現場の設計者たちは、強い興味を持って自ら利用方法や移行方法などの研究を始めました」。
3次元設計に慣れる過程で得た副産物:ペア設計によるノウハウ共有
3次元CAD設計環境への移行では思わぬ副産物もあったという。
「部分導入ということもあり、当社では試験的に若手とベテランをペアにして、ペア設計・開発スタイルを試験しました。紙や平面に向かってばかりでコミュニケーションが密でなかったチームが、ペア開発によって互いにスキルが向上し、チーム内の意思疎通がしっかりとれる体制になりました」。
ソフトウェア開発者の一部ではペアプログラミングという手法で、実際の作成者だけでなく、作成されたものをレビューするレビュアと2人で作りこんでいくことがあるが、この手法を設計工程に応用したという。3次元設計ツールの導入は一気に行われる訳ではないため、3次元設計ツールの使い方に慣れるための過程で、より多くを習得した人がその情報をグループ全体に広めていく、という自然なコミュニケーションによる情報共有の場ができあがった。
今までと何が違い、どう便利に実現できるか、を実際に操作しながら体験として理解してもらうことで、現場に活気が出てきたという。
小さく始める・現場の関心を重視するのがSmall Winの秘けつ
大規模なシステムであればあるほど、業務フローの変更などのそれぞれが大きな負担となる。かといって、現状の業務フローに寄せたシステムとなれば、将来的な展望を持ちにくく、また、ビジネス面での効果も薄くなる。結果として使えないシステムができあがってしまった、という話も方々で聞く。
「当社のシステム導入の経験からしても、まずはとにかく導入して使ってみることが成功への近道。現場担当者が実際に触れ、慣れてくれれば、自然と現場から改善のアイデアがでてきます。そこで初めて現場の声を生かしたリクエストを出せば、現場を混乱させることなく、スムーズな導入が可能になります」。
この点を考慮して、導入段階では基本機能から順次、負担を最小限に抑えつつ拡張していけるようなシステムを選択していったという。各機能がモジュールとして明確に切り分けられていて、選択的に、必要な機能だけを追加できることが保障されている製品はSmall Startを重視する同社の考え方にマッチしている。
「もちろん、触れてみる、というフェイズではシンプルな構成だけで試すことができるため、コスト面の負担が少なくて済んだ点も、選定の大きな理由となりました」。
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