経済不況の影響知らずの電脳加工屋:メカ設計製品/サービスレポート(3)(3/3 ページ)
不景気のあおりを大きく受けている加工業だが、そんな中、ユニークで便利なシステムで前向きに頑張る企業の部品加工サービスを紹介する。
思い込みに縛られない
同社の創業者 ラリー・ルーキス(Larry Lukis)氏は元プリンタメーカーのエンジニア。ただしメーカーのエンジニアといっても専門はソフトウェア。金型射出成型については、素人に近かったとのことだ。
「私は射出成形の金型の世界に、大変なショックを受けました。プラスチックの射出成形用の金型を作るためには何週間もかかり、また、何万ドルも支払わなければならないとわかったからです。それまでの自分は、何と世間知らずのコンピューターおたくだったことでしょうか」
(ルーキス氏:プロトラブスのサイトより引用)
「職人は素人に手厳しいといわれますが、日本だけではなく米国もそれは同様です。それは当社の創業時にも大いに苦労した点のようです」(矢田氏)。ラリー氏はソフトウェアのエンジニアながらも、設計部隊が試作をする際、四苦八苦する姿を間近に見てきた。試作を依頼すると、思ったとおりのものが納品されない。もっとひどければ「作れない」といわれる。そのうえベンチャーだと依頼すら受けてもらえないこともあった。
そこで、「自分たちの望むシステムを自分で作ればいいのではないか!」とラリー氏は考え始めたというわけだ。
このメーカーはベンチャーといえど、プリンタ業界においては有名な企業だった。しかしその業界そのものが縮小してしまい、2000年ぐらいからベンチャー企業の経営が成り立たなくなってしまい、その後は大手プリンタメーカーに買収されたとのことだ。そういった業界の転機も、同社設立の大きなきっかけとなったとのことだ。
「そんなことをしてもうまくいくものか」と、当時は周囲に批判されたという。そんな最中、1999年、米国ミネソタ州にProtomold(旧名称)を設立。その批判のとおり、立ち上げてしばらくは、顧客になかなか理解されず苦労したという。しかしそんな苦労は、案外早くに報われていくことになる。
通常の加工屋は、比較的大きめな規模の会社であっても、同社のようにソフトウェアエンジニアに投資はしない、もとい、できない。それより加工作業そのものに集中し、高性能なマシンを導入するようにするのが常だ。「同業他社さんが当社と同様のシステムを作ろうとすれば、ものすごい決断がいるでしょう。ソフトウェアの開発は、非常にお金がかかりますし、成果もなかなか上がらないでしょうし」(矢田氏)。
同社の創業者はソフトウェアエンジニアで、多くの加工業者と比べると起源が特殊であるがゆえに業界特有の考え方のとらわれがなかった。同社は、自分たちが強く信じた方向に、躊躇することなく大きな投資を行い、今日に至った。
これからもひるまない
「米国が10年かかってやってきたことのすべてをいきなり日本で展開はできません。少しずつ様子を見ながらサービスを拡張していく予定です。あとは常に自信のあるサービスを提供できるように努力しつつ、地道にプロモーションしていくのみですね」(矢田氏)。日本法人はまだ誕生したばかりで、何もかもがまだこれから。それに欧米でうまくいったからといって、日本でもうまくいく保証はない。ただ、同社はかつて創業者がそうしてきたように、自分たちが強く信じる道を突き進むのみだ。
同社は製作可能な条件をどんどん増やし、精度もアップしていくように、エンジニアたちが日々、システム開発に励んでいる。製作できる部品の大きさにも限度があるので、もっと大きいものが作れるよう努力しているとのことだ。「英国や日本で新しいアイデアが出れば、アメリカ本社の開発者にすぐフィードバックし、もっと新しいことをできるよう機能拡張に努めます。当社はソフトウェア開発に多額を投資していますから、いまはできなくても、近い将来、だんだんとできることが増えてくると思います」(矢田氏)。
従来の設計の考え方に縛られない
「これまでの日本が得意としていた1000分の1mmの世界を追及するような職人芸も重要ですが、これからはそれだけではうまくいかないと思います。作業効率をどんどん上げていかなければ市場での競走についていけなくなります。複雑な部品を上手に作っても、いまは自慢にならない時代になりつつあります」(矢田氏)。
開発予算の制限が厳しくなっている今日、設計者が生産の事情を積極的に把握していくメリットは大きい。「設計者は精度のきつい部品を作ろうとします。その方が設計しやすいからです。加工側も頑張ってその精度に挑むのですが、当然その分の金額は請求してきます。設計者が自分で判断ができれば、余計なコストをかけないで部品が作れるのですが」(矢田氏)。もちろん、加工のすべてについて詳しく把握することは到底不可能だが、明らかにコストがかかり過ぎている部分のジャッジは、少しぐらいできるようになっておきたい。
また本記事でお伝えした内容が、不景気を乗り切るためのヒントへと少しでもつながるなら幸いだ。
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