走行モーターの小型化が急務、独自の解析技術で開発を加速:児玉 英世氏 日立オートモーティブシステムズ CTO
総合電機メーカーである日立製作所は、電装品を中心とした車載部品について、オートモーティブシステム事業として展開してきた。同事業は、2008年後半から始まった急激な景気悪化に対する同社の事業再編を受けて、2009年7月1日から日立オートモーティブシステムズとして分社独立した。新会社のCTO(最高技術責任者)を務める児玉英世氏に、分社化の理由や、電動システム開発の方向性について語ってもらった。(聞き手/本文構成:朴 尚洙)
1930年から電装品を開発
日立製作所のオートモーティブシステム事業は、1930年に開発を始めた電装品から歴史が始まった。その後、1968年に、当時の日立製作所多賀工場から、一事業部として分離独立することとなった。2004年には、子会社だったトキコと日立ユニシアオートモーティブの事業を統合した。
新会社の日立オートモーティブシステムズは、この事業を分社独立させたものだ。分社化した最大の理由は、意思決定の迅速化を図ることである。技術の側面から見ても、自動車の電子/電動化が急速に進展しており、これまでよりも研究開発を加速できる体制が必要とされている。
分社化したとはいえ、日立グループにおける基礎研究を担う日立研究所との連携は維持する。自動車という製品は、自動車分野以外で用いられている技術が導入されることで進化を続けてきた。そのためにも、日立製作所が扱う自動車以外の事業分野の研究成果を利用できることは非常に有用だと考えている。これまでにも、新幹線向けに開発されたモーターやインバータの技術が、自動車の電動化技術で生かされているという成果がある。
Liイオン電池は第4世代に
日立グループには、当社のほかにも有力な製品/技術を有する車載関連事業が存在する。例えば、カーオーディオ/カーナビゲーションシステムの有力企業であるクラリオンや、日立電線、日立金属、日立化成工業の材料3社、車載半導体大手のルネサス テクノロジなどが挙げられる。
クラリオンとは、ITS(高度道路情報システム)にかかわる車載情報機器と連携したシステムを開発する上で、さらに協力を進めていくことになるだろう。
また、材料3社は、世界でもトップクラスの材料技術を持っており、当社製品の優位性を支えている。
ルネサステクノロジは、2010年4月にNECエレクトロニクスと合併する予定だが、この新会社ともこれまで以上に連携を深めたい。特に、電動システムとのかかわりが深いパワー半導体事業で、合併による大きなシナジー効果が見込めるだろう。
リチウム(Li)イオン電池は、ハイブリッド車、電気自動車の駆動源として大きな期待を集めている。世界で初めて車載用リチウムイオン電池を量産化したのは日立グループだし、量産車への採用実績についても日立グループがナンバーワンだ。
日立オートモーティブシステムズが現在扱っている車載用リチウムイオン電池は、ハイブリッド車用のものである。現時点では、国内ではいすゞと三菱ふそうトラック・バスの商用車、海外では米EATON社の商用車に採用されている。そして、2010年からは米General Motors(以下、GM)社のハイブリッド車向けに出荷を開始する予定だ。
2009年5月には、最新のリチウムイオン電池セルとして、外形が角型の第4世代品を発表した。GM社への採用が決まっている円筒型の第3世代品と比べて、出力密度は1.5倍となる4500W/kgを達成している。
独自開発の計測/解析技術
日立オートモーティブシステムズは、モーター、インバータ、そしてリチウムイオン電池を含めて、自動車の電動システムをトータルパッケージで提供できる技術を有している。そして、リチウムイオン電池のみならず、モーター、インバータとも採用実績がある。
これらの電動システム技術において、急務となる開発課題は、モーターとインバータの効率向上による小型化だと分析している。その理由は、リチウムイオン電池の劇的な性能向上がしばらくは期待できないと考えているからだ。
車載用リチウムイオン電池の最大の課題は低価格化である。価格低減の取り組みを優先するとなれば、リチウムイオン電池の大幅な高性能化には時間がかかることになるだろう。また、リチウムイオン電池ではない、さらに高性能な2次電池の登場にも期待したいが、これはリチウムイオン電池の高性能化以上に困難な目標と言えよう。
今後しばらく、電動自動車には現行と同じレベルの性能のリチウムイオン電池が用いられることになるはずだ。その場合、電動自動車の性能向上に貢献するのは、高性能のモーターとインバータにほかならない。
高性能のモーターとインバータを開発する上では、日立研究所で培ってきた独自の計測/解析技術が貢献している。例えば、永久磁石モーターの回転数をさらに高めるためには、鉄芯の配置を含めた設計が重要になる。ここで、当社独自の電磁場解析技術が役に立つ。また、モーターを試作する段階では、高い性能を発揮できるように、ローターとステータのギャップを最適化する。その際には、X線CT(コンピュータ断層撮影)装置で撮像した現物の形状データをメッシュ分割して解析する現物融合解析技術が利用されている。
もちろん、リチウムイオン電池の開発においても、電極など材料レベルの開発から、電池パック内における各電池セルの充電バラツキを防ぐための開発まで、これら独自の計測/解析技術を活用している。
“擦り合わせ”の技術
今後の自動車市場で、電動自動車が大きな割合を占めるようになるのは確実だ。そこで、「新興国の企業が、モーター、インバータ、電池などの部品を組み合わせた低価格の自動車を開発/販売し、日本の自動車メーカーがシェアを奪われるのではないか。自動車は、パソコンや携帯電話機のようになってしまうのではないか」という危惧がささやかれている。
こういった事態に対しては、日本が自動車開発において何十年も培ってきた“擦り合わせ”の技術が役立つだろう。パソコンや携帯電話機とは異なり、製造装置と部品を使って組み合わせるだけで、良い自動車を作ることは非常に難しい。電動自動車においてもそこは変わらない。良い製品を作るためには、技術者の感性と経験を基にした擦り合わせが必要なのだ。
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