一筋縄では行かないエンデュランス:第7回 全日本学生フォーミュラ大会 レポート(1)(1/3 ページ)
鋭い日差しが照りつける3日目午前中、エンデュランスで戦った国士舘大学と岡山大学の悪戦苦闘!
学生の有志たちが協力し合い自動車の設計・製作を行い、年に1回、掛川・袋井のエコパに集い、モノづくりの総合力を競い合う「全日本 学生フォーミュラ大会」は、今年2009年で第7回。MONOist編集部は今年もこの大会にスポットを当て、大会当日の様子や学生たちのコメントを紹介していく。なお大会の結果については、すでにMONOistニュースで取り上げているので、そちらをご覧いただきたい。
さて、今回の第7回大会からのレギュレーション変更のポイントは、コストの上限撤廃と、エンデュランスと燃費の配点変更(燃費の配点アップ)。
コスト上限の撤廃については、話をした参加学生のほとんどが「設計にあまり影響はなかった」と答えた。いい設計をするなら、お金をかければいいのは当然のことながら、やはり活動予算が限られていることには変わりないからだ。またこのところの不景気のあおりを受け、参加経験の浅い学校では、スポンサー集めに腐心したというコメントがちらほら。ただし出場常連校のいくつかについては「それほど不景気は関係なかった」という意見もあった。
第7回の優勝校である東京大学チームのFA(ファカルティアドバイザ)草加浩平准教授は、うまくスポンサーが付けられない学校に対して、このようにアドバイスした。「スポンサー企業に報告書を書かない学校がとても多いです。支援をしてもらっている以上、報告は当然のこと。当たり前のことをしっかりとこなしていくことが大事だと思います」。
また燃費の配点アップは、多かれ少なかれ、学生たちにはプレッシャーを与えていた印象で、設計面でもそれを意識しているというコメントが多々あった。
学生たちの車両技術
まずは、学生たちのフォーミュラ車両ではどういう技術を使われているのか、今回の大会出場校の事情も交えて説明していく。市販されている一般車両と比べれば、特別すごい技術が使われているわけではないが、学生ならではの独創的な工夫が見られる。
エンジンそのものは学生ではなかなか自作できないため、たいていがメーカーからの支給品となる。 車両が小型なので、450〜600ccのバイクで使用するエンジンが主に使われる。このエンジンをベースにして潤滑システムをドライサンプにしてみたり、エンジンレイアウトをドライバの横に配置してみたりなど、さまざまな工夫をしていく。燃料の流れを流体解析している学校もある。
カウルとフレーム
学生の製作するフォーミュラ車両のカウル(車両の外装)では、ドライカーボン製のものがよく見られる。ドライカーボンとは炭素繊維強化プラスチック(CFRP;Carbon Fiber Reinforced Plastics)という素材を成型していく手法だ。カーボン繊維の中にエポキシ樹脂の接着剤を浸透させた素材(カーボンプリプレグ)を炉で熱して固めていく。従来の学生フォーミュラカーのドライカーボンでは、炉の温度は80度(低温)で8時間かけていたが、最近は120度から135度(中温)で40分から2時間かけて焼き上げていくというのが主流だそう。
焼き固めず自然乾燥させる手法を「ウェットカーボン」と呼ぶ。こちらは、炉などの設備が不要なので安価ですむことが利点だが、ドライよりも強度が劣り、軽くならない。
ほか、学生達の車両のカウル素材で多く見られるとしてはガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)がある。この素材の成型はウェットカーボンと同様で、自然乾燥をさせる。また素材そのものも、上記のカーボンと比べて安価だ。
学生たちの車両のフレームで最も多いのは、スチールスペースフレーム。最も多いというか、現状では日本のほとんどの学校の車両がそう。それ以外のフレームを使っている学校は、日本大会の出場校の中では数校しかない。京都大学はアルミのスペースフレームを使っている唯一の学校。どうして他校がアルミを使わないのかといえば、すでにお気付きの方もいると思うが、アルミの溶接は難易度が高いからだ。京都大学は、参加校の中でも特に溶接がうまいと評判だ。
前回の第6回からは豊橋技術科学大学がカーボンモノコックを採用した。これは日本の学生フォーミュラ大会で初めてのことだった。モノコックというのは、フレームとボディが一体となっている構造のこと。また、ご存じの方もいると思うが、市場に出回る乗用車のほとんどがその構造だ。スペースフレーム式と比べ、剛性を保ちながら軽量化が実現できる。ただ、カーボンモノコックの成型をするには特別な設備が必要となる。自分で行うのか、企業に依頼するのか……学生たちは憧れのカーボンモノコックを実現するための知恵をめぐらす。
今年の第7回では、上智大学もカーボンモノコックを採用している。豊橋技術科学大学もまたカーボンモノコックの車両で登場し、デザインファイナル5校に選出された。なお、デザインファイナルの模様やカーボンモノコック採用の話題などは、後日公開の記事で紹介していく。
シフトの電子制御化
最も多いのは、オーソドックスなマニュアルシフト。しかし最近は、電子制御のシフトが増えてきた。東京大学や山形大学のようにCVTを採用する学校も出てきた。やはり自動で素早くシフトが切り替えられた方が、ドライバの心理的負担は格段に少なくなる。この大会のフォーミュラ車両では“アマチュア週末レーサーに販売すること”をコンセプトとしていることを考えれば、電子制御シフトは理にかなった手段ともいえる。ちなみに上智大学の車両は、マニュアルシフト。マニュアルか電子制御かについては、学生たちの好みの問題も多少左右するようだ。
シャシー
エンデュランス・燃費審査の配点の比率が高い。大会で上位にいくためには、カーブの多い走行審査でのドライバのテクニックも左右するが、車両の足回りの性能も大事な要因の1つになる。
車両が走行中にカーブを通過すると、左右に傾く。このときのタイヤの傾き角のことを「キャンバ角」と呼ぶ。また、この角度が車両側に傾いた場合「ポジティブキャンバ」と呼ぶ。外を向いた場合は、「ネガティブキャンバ」。
ポジティブになっているときは、対地面積が減り、グリップ力が低下する。カーブ時にはポジティブ傾向になり、タイヤの設置面積が小さくなりがちになることで、グリップ力が低下する。カーブ時の倒れこみを防ぐには、取り付け部の剛性を確保することで、対地キャンパをしっかり確保することが必須となる。
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