10倍の給料をもらえるモノづくり環境を目指せ:3次元データ活用入門(3)(3/3 ページ)
景気回復局面でV字回復を成し遂げられた企業と、そうでない企業の間では何が違うのか。3次元データがその謎を解くカギの1つを握っている。モノづくり企業が「知のめぐりのよい企業」として組織力、企業力をつけるための仕組みづくりを考える。
神器3:3次元データを利用したテクニカルイラスト作成
それでは3番目のトピックとして、3次元データを利用したテクニカルイラスト作成について紹介しましょう。テクニカルイラストは製品の取扱説明書やサービスマニュアルにおいて、製品を図解して説明するのに必須のものです。このイラストを軽量3次元データから作成することのメリットを図示したのが下図です。
これまではイラストは試作品の完成後、それを分解してスケッチをしたり、デジカメで撮影してその写真をなぞったりという作成の仕方をしていました。製品販売の直前にこのような準備をしていたわけです。
この手法では、商品の旬の短いデジタル家電のような製品では、出荷までの時間を短縮できません。どうすればいいでしょうか。
設計承認された後には、製品の3次元データはすでに存在しています。それを利用してイラストを生成してしまえばいいのです。そうすれば、量産の前に取扱説明書やサービスマニュアルを完成できるのです。
カシオ計算機の「トリセツ」制作効率化
では、どうやって3次元データからイラストを作成すればいいのでしょうか?
筆者は以前、あるテクニカルイラストレータを訪問し、その仕事の方法をつぶさに聞きました。
その結果分かったことは、手描きイラストの作画は、
- 試作品を実際に分解する
- 分解した部品を特定の角度からスケッチする
- スケッチは数学的に正確に(実際には製品には円柱や球形状が多いので、楕円で描写する)
という特徴があることです。
これをITで実現することはそれほど難しいことではありません。デジタルな3次元モデルを分解し、それを2次元に投影すればいいのです。分解図さえできれば、イラスト図はあらゆる角度で、3次元から自動的に作成できます。これをXVLで実現したわけです。実際には、イラストに番号を付けておいて、番号と部品名称の表を作成するといった作業もあります。部品名称もCADからXVLに引き継がれてくるので、この表を作成することも簡単にできるのです。これを実現した製品のイメージを図7に記載します。
もちろんプロのテクニカルイラストレータはデフォルメしてイラストを描画します。注目すべき部分の線が強調されていたり、意味のない部分の線が消されていたりと、見やすい図を描きます。イラストが本当に重要であればこうした工程は意味があるでしょう。
しかし、図を見る側も専門家の場合、そこまでの品質が必要でしょうか。専門家なら不要な線があったり、線が強調されていなくてもその製品形状を把握できますから、先ほどのような作図時の努力は不要ということになります。
XVLから生成するイラストはベクトルデータで出力できます。このため、出力後のデータを、同様にベクトルデータで画像を表現するAdobe Illustratorのような作画ソフトに取り込み、デフォルメすることも可能です。軽量3次元データであれば、遠隔地とデータを共有して、イラスト作成をすることもできます。
このような仕組みを利用して、イラスト作成の手間とコストを激減させた企業も出ています。例えば、カシオ計算機ではほとんどすべてのコンシューマ製品の取扱説明書類をXVLから作成し、大きな効果を上げています(注6)。
注6:拙著「3次元ものづくり革新」(日経BP)を参照ください。
業務プロセスに与えるインパクト
ここで強調したいのは、3次元データを活用したイラスト作成では、業務のプロセスが大きく変わるということです。もう一度、図6を見てください。設計承認直後に各種のドキュメント作成に着手することで、製品の開発期間全体を短縮できるのです。それぞれの現場が工夫して3次元データ活用を進める「柔構造のIT」の効用はこんなところにもあるのです。
これまで、軽量3次元データを利用した「柔構造のIT」を具現化するソリューションとしてDMU分野ではデザインレビュー、機構シミュレーション、工程設計の3種類を、テクニカルドキュメント分野で作業指示、部品表、イラストの3種類を説明してきました。
これらは、設計力を高め、現場力を引き出すソリューションともいえるでしょう。これを下図にまとめておきます。この図のように個々のソリューションは設計、生産技術、製造といったそれぞれの部署ですぐにでも活用でき、効果を上げることができます。しかし、最終的に大事なことは、「モノづくり情報」を流すことです。例えば、XVLのような軽量3次元形式で情報を一元管理することで、「モノづくり情報」を流せるようになります。こうして生まれた「知のめぐりのよい企業」が製造不況後の日本を牽引する企業となっていくでしょう(連載第1回に戻る)。
軽量3次元データXVLはいかに進化したのか? その3
軽量3次元データはますます進化し、その活用範囲を広げています。XVLをCADからCG(コンピュータグラフィックス)のデータ変換に利用し、リアルなCG画像を作成したり、CGソフトでのアニメーション編集結果をXVL化して、軽量配信したりと、ユーザーがそれぞれの工夫で成果を上げています。
設計の現場を訪問すると「まだ、3次元設計は70%しかできていない。不完全なので、3次元データの活用はまだ進められない」といわれることがあります。しかし、3次元データ活用で先進的な企業の共通の特徴があります。それは、「3次元データが70%もある。なんとか活用方法を考えよう」と前向きに考えることです。この3次元データ活用への積極的な姿勢が大きな成果の差を生むわけです。軽量3次元データを有効に活用し、「知のめぐりのよい組織」を構築していくことがこれからの製造業の勝ち残りには非常に重要になってきているのです。
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