検索
連載

経験10年の設計者の働き口がないなんて「技術の森」モリモリレビュー(1)(3/3 ページ)

モノづくり系Q&Aサイト「技術の森」の投稿の裏に、日本の設計現場の困った現状が……。10年選手の設計者が就職できずにいるって本当!?

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

 日本の多くの企業では、使用目的を明確化した後、設計思想は関係なしで採用技術の選択をしてしまうと國井氏はいう。だから日本で開発される製品は「何でもあり」。便利そうだな、と思う機能をあまり深く考えず、詰め込むだけ詰め込んでしまう傾向があるとのことだ。設計審査をしても、「いいんじゃない?」とおとがめなし。そんな企業では、審査ができない人が管理職になっている。「この根は予想以上に深い」と國井氏はいう。

 これまでの日本企業は、設計段階で考えつくされていない部分を高い生産技術でカバーしてきた。「例えば100円ショップでプラスチックの定規やアルミの灰皿が売っていますね。日本の設計者は、まずこの原価算出ができません。工業先進国の海外の設計者は、これが普通にできます」(國井氏)。特に景気が非常に厳しいいま、生産技術だけに頼っていては世界での勝負は厳しい。

 「日本では、生産技術は間違いなく世界でもトップレベルですが、設計レベルは非常に低いレベルです。その証拠に、世界のスカウトマンは、日本の研究者や生産技術者をスカウトしますが、日本の設計者は絶対にスカウトしません。スカウトマンに日本の設計者の実力はバレバレです。皆さんの周辺で、海外企業からスカウトされた設計者がいますか? 仮にいたとしても設計力でスカウトされたのではなく、企業ノウハウがほしくて採用されています。その証拠に、彼らの多くは、2〜3年で退職しています」(國井氏)。


リアル甚さん、熱弁をふるう 「べらんめぇ」とはおっしゃいませんでした

 「第2次世界大戦中に活躍した『零式戦闘機(零戦)』の設計では、材料が決め手になりました。超超ジェラルミンという金属を採用しています」(國井氏)。

 零戦の設計では、さまざまな設計要件に優先順位を付け、それに基づいて材料を選定した結果であり、当時の最先端素材だからと安易に決定されたものではない。設計者の堀越二郎氏に材料の知識がなければ、「Zero Fighter」と呼ばれ世界で恐れられた戦闘機ができることはなかった。しかし彼以降、「素晴らしい日本の設計者」として伝記を書かれるような人は現れていないと國井氏は嘆く。*ここでは経営者や生産技術者、技術研究者を切り分けて考えています

 すでに引退した人材、年配の人材の中に、設計者として有能な人はあまりいないと國井氏はいう。「以前、『2007年問題』といわれましたが、その代の人たちの中で、やめて欲しい人は9割ですから」。退職者の再雇用制のような取り組みよりは、後に続く若い世代が奮起して頑張れる取り組みに力を入れて欲しいと同氏は願う。なお「やめて欲しい人9割」の話は「甚さん」の中でも何度か述べられている。

「技術の伝承っていいますけど、伝承してほしい人は1割、早く辞めてほしい人は9割ですから。僕の職場ではヒマなおっさん(役員)どもがウロウロしていますとも。前者の1割の人はサッサと他会社に引き抜かれ、残り9割が社内にズルズル居残っているわけですよ」(「甚さんの設計分析大特訓」第5回より。良君のせりふ)

 このような状況を危惧し、理工系の各大学ではカリキュラムの見直しが図られつつあるとのことだ。「工業系の学科には、『製図』や『材料力学』いう科目はありますが、『設計工学』という科目がありません。例えば、技術者の必修科目にはQCDの3教科があるけれど、大学の工学部にはCとDは存在しません。製図や材料力学と併せ、設計書を作るための前提となる知識も設計工学として学んでいくべき」(國井氏)。将来は学問的な部分と切り分けた専門的かつ実務的な部分にフォーカスが当たる学科もできるだろうとのことだ。

 また國井氏がコンサルタントの本業の傍ら講師を勤める横浜国立大学は全日本 学生フォーミュラ大会に参加している。同大会では、車検や走行審査だけではなく、コスト審査や、商品としての価値や設計方針などを評価するプレゼンテーション審査もある。「この仕組みは大変素晴らしいと思いました」と國井氏はいう。メーカーやソフトウェアベンダも学生フォーミュラ大会の有効性に投資するべく運営を賛助している。

草食男子な設計者

 回答10に、こんなコメントがあった。

「初めに勤めた二輪メーカーでは、新人研修中に幾度も試験があって、基礎知識の無い者は、希望しても設計部署には配属されない事になっていました」(回答10さん)

 「私が過去に在籍した大手電機メーカーでも、野球チームのように、設計部隊にも1軍と2軍があったんです。ちなみに私自身は、新卒で入った当時は2軍。1軍しか新製品の設計をさせてもらえませんから、そこへいくために必死で努力しましたよ。社内食堂では、設計部の同僚と飯を食いません。だって、ライバルですから」(國井氏)。

 いまの日本の設計現場には、そういったライバル意識でバチバチし合うような雰囲気がないと國井氏はいう。設計者も草食男子化しているということか。同氏は何も、喧嘩をしなさいといっているわけではない。もちろん、お互いで協力し合って連携を取るうえでは、仲間同士の強い結束は大事な要素だ。ただし仲間の結束が、ナアナアで妥協ばかりの“仲良しクラブ”状態と混同されてしまえば、ライバル企業、とくに海外で戦うためのエネルギーまでもスポイルされてしまう。

 「兵役のある国の企業でフロントローディングの話をすると、鼻で笑われてしまいます。軍隊では当然のことだから……」(國井氏)。戦争で失敗をすれば、たくさんのお金を失うどころではなく、たくさんの人が命を落としてしまうのだから、緊迫感も違うのだろう。戦が始まる前に、物資や兵器を必死で貯め込んでいかなければならない。すなわち、これが戦争におけるフロントローディングだ。当然ながら、そういった国々の製造業の設計者たちのハングリー精神は激しいと國井氏はいう。

 最近の日本人の多くはハングリー精神が非常に不足しているという。また一定の思想や宗教を持たない。そんないまの日本人の性質が設計にも悪く影響してしまっていると國井氏はいう。

 当然、戦争に参加するわけにはいかない。昔のような、ガミガミ怒ってゲンコツを振り回すような(甚さん的な)やり方が、誰に対しても絶対的に正しいわけではない。時の経過とともに人の生きる環境も思想も移ろうものなのだから、人の心の成り立ちも昔どおりであるはずはない。いまの時代に合ったやり方でもって、設計者の熱い競争心や緊張感を引き出すような仕掛け作りを組織レベルで模索していくべきだろう。

 今後も、技術の森の中で「気になる」感じのQ&Aをピックアップし、MONOistの筆者たちも巻き込みながらレビューしていきます。お楽しみに!

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る