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意匠のデータを設計・製造へ生かすCEトヨタのカーデザインとデジタル生産(後編)(1/3 ページ)

ボディーの形状データを生産などの後工程にスムーズに提供し、開発リードタイム短縮するトヨタのCEについて解説する。

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>>前編はこちらから

意匠におけるCAD工程

 アイデアモデルの立体化領域では、3次元CAD化を推進している。

 スタイルCAD工程では10年前から、トヨタ自動車独自開発のシステムとして「スタイルCAD」と「カラーCAD」の2システムが採用されている。これらを柱に、トヨタでは図7に示す新しいデザインシステムマップを構築している。

 それぞれのシステムでは生産効率を上げるため専門職制を取っており、高度なイメージを要するデザイナとシステムの操作を専門に行うオペレータとが一緒に造形作業を行う形態を取っている。


図7 新しいデザインシステムマップを構築(トヨタ自動車提供):図番は前編から通して振られています。

 今後は、社内でスタッフがデータを共有化してモノづくりを進めるためのシステムの整備が急務となる。それをトヨタでは独自に開発している統合システム(スタイルCADの新版)と連携させる。

 図8に示すように、デザイン部門のスタイルCADの前でデザイナとCADオペレータとが協力し、目的のワイヤフレームモデルを迅速に作成してい。なお作業の効率化を図るうえで、デザイナとオペレータの仕事や作業は区別されている。

 基本ラインが入力されると、それらを基に3次元モデリングが行われる。図8(a)はその共同作業の様子で、画面内のモデルは「ソアラ」である。

図8 スタイルCAD作業(トヨタ自動車提供) :(左)デザイナとオペレータの共同作業、(右)システムを使いこなすデザイナ

 図8(b)はデザイナ自身がシステムを使いこなしている様子を示す。画面内のモデルは「ハリヤー」である。フロントフェンダーの面のつながりを曲率で検討している。ここで生成されたモデルデータはワイヤフレームである。

 その後、面張りが終了すると、ハイライトチェックや曲率などの機能を用いて面評価を行う。これらの評価結果からの修正内容をモデルに織り込み、最終形状を完成させる。

 さて、スタイリングCADによるワイヤフレームデータの一例として8代目「マークII」のエクステリア全体データを図9に示す。


図9 スタイリングCADによる8代目「マークII」エクステリア全体のワイヤフレームデータ(トヨタ自動車提供)

 特にダイナミックなキャラクタライン(特徴線)は、バンパーに食い込むスラント(傾斜した)なイーグルマスクから発していて、立体的なフロントマスクに仕上っている。ボンネットのキャラクタラインは、Aピラー(柱、Aは車両前部)の下に、風を分けるように入って、それがBピラー、Cピラーを経て、トランクにまで一気に抜ける伸びやかなデザインとなっている。

 その中でも特にフロントマスクから発するボンネットの上のキャラクタラインは、ライン(線)というよりも帯状のフェイスになっており、その段差の大きい面創生は圧感である。

 曲面で構成された丸いボディにシャープにとけ込んだそのダイナミックなキャラクタラインの流れを金型によって実現するには、高度な技術が必要である。そのため、デザイナは生技部門の技術者と金型設計・製作に関して十分な検討をしている。

 その金型の処理は4面のフィレット掛けやトリム、修正が必要なため、プレス成形後のボンネット成形部位の形状は、デザイナの意図しない面形状になることが多い。この処理は非常に困難を要するが、生産技術部の技術者の努力によってデザイナの意図どおりに金型製作がなされる。

 このように、本物のデザイナになるためには、当然生産技術の知識も必要であり、それにかかわるスタッフたちの協力も必要である。

カラーCAD

 カラー計画ではMac(Macintosh;マッキントッシュ)上で動かすカラーCGソフトウェア(カラーCAD)が使われる。意匠評価としてはレンダリングのチェック、面質評価では、シェーディングやハイライトチェックが行われている。

 また、ユーザーの嗜好(しこう)は変化するし、そのうえ国の風土の影響によっても色彩が微妙に異なるため、高品質のカラー検討が必要となる。カラーCADでは、そのようなエクステリアカラー検討を行う。従来、「塗板」と呼ばれていたサンプルシートを外光に当てることで評価するという原始的な作業をデジタル画像技術に置き換え、スタイリングCADと連携させている。 図10はカラーCAD上で、モデルと作業風景をリアルに再現し、評価・検証を行っている様子を示す。


図10 カラーCAD(トヨタ自動車提供)

意匠におけるCAM工程(モックアップ工程)

 自動車のエクステリア全体のワイヤフレームデータができると、このデータを利用して、面作成し、クレイモデルのモックアップ用のNCデータを作成する。そして、クレイモデルの作成では、カースタイリングCADで作成されたワイヤフレームモデル(3次元形状データ)を基に、同時5軸制御加工機でNC加工を行うためのCL(Cuter Location:工具軌跡)を作成する。

 図11にCLの一例を示す。


図11 クレイモデル作成のためのNC加工用CLの事例(トヨタ自動車提供)

 モデルは「スープラ」である。このCLチェックがOKであれば実加工を行う。図12はソアラの1分の1のクレイモデルを加工しているところを示す。


図12 1分の1クレイモデルの5軸加工実施の一例(トヨタ自動車提供)

 加工機は同時5軸制御のCNC工作機械である。バンパーやカウルなど、いわゆるアンダカットになっているところでは、図12のような同時5軸制御加工機がなければ加工ができない。

 デザイナ個人のアナログ情報が、会社共有のデジタル情報に置き換えられたことで、クレイモデル作成における作業の効率化が図られた。

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